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働き過ぎは、聖女になりますので、ご注意下さい  作者: 茶樺ん


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喧嘩

 リルに薬師と言われた男は、表情を戻してリルを見た。


「リル」

「はい?」

「君はリルと言うのだな?」

「え?うん」

「そうか。ガリに良く似ている」

「はあ?」


 ズーリナの聖女が人前とは思えない声を出した。しかしリルはズーリナの聖女の声を無視する。


「お父さんを知ってるの?」

「ああ」

「なに言ってんだい?今はそんな話はしてないだろう?」


 ズーリナの聖女が呆れた表情をする。国王は「お父さん?」と、その言葉に引っ掛かって首を傾げた。リルが国王を振り向く。


「あ、はい。ハルのお父さんの事ではなくて、私の父の事です」


 リルが薬師を振り向いて「それで」と話を続けようとするが、ズーリナの聖女が「ちょっと待ちな」と腕をリルと薬師の間に差し入れる。


「今更ノコノコ出て来てなんだい?あんたは引っ込んでな」

「君の様にどこにでも首を突っ込んで、しゃしゃり出るタイプではないからな。場の状況を見ていたのだ」

「なに言ってんだい。リルのピンチに後ろで隠れてたクセに」

「あれがリルにはピンチでもなんでもない事が分かっていたから、リルの見せ場を邪魔しない様にしていたのだ」

「あ~そうかい。それならそのままずっと引っ込んでな」

「いいや。リル?」

「え?あ、はい」

「杖の機能を止めるくらい、イザンの技術者なら可能だ」

「そうなの?」

「ああ。だからこの場の皆さんに説明して、自分の評価を高めたら良い」

「あ~やだやだ。リルを利用して、イザンの似非技術者の評価を上げようなんて」

「イザンの技術者、特に薬師の評価は既に揺るぎないので、それをリルが利用しても構わないと教えているのだ。何せリルはイザンの」

「ちょっと待ちな!リルはズーリナの聖女だよ!」

「え?」

「いいや。イザンの薬師だ。イザンに連れ帰る」

「知ってるんだよ?イザンの薬師になるには試験に合格する必要があるじゃないか?」

「それを言ったらズーリナの聖女だって、定められた修練を修める必要があるのだろう?」

「残念でした~。修練を修めるのは認めて貰う為です~。ズーリナは聖女が認めるだけで、聖女になれるんだから」

「だからあんなにヘッポコ聖女だらけなのだな?」

「なんですって?」

「だからあんなにヘッポコ聖女だらけなのだな?と言ったのだ」

「イザンこそ!魔導具頼りでろくに魔法も使えない似非薬師ばかりじゃないの!」

「やれやれこれだから、なんでも感覚で済ます聖女はダメなのだ。良いか?君が持っているその杖も、魔導具なのだからな?杖がなければ何も出来ないのだろう?」

「杖は魔導具を超越しているの、知らないの?かわいそうに。杖はね?魔導具と違って育つんだから!ね?リル?」

「いいや杖は設計通りに、使用者の魔力を蓄えて、機能を拡充して行くのだよ。そうだよね?リル?」

「あの、二人のお話はとても興味深いんだけど、いま忙しいから後にして貰える?」

「え?」

「なんと」


 リルはまだ膝を突いて自分に抱き付いているハルと目を合わせる。


「前に言った私の両親のケンカも、こんな感じだったの」


 そう言ってリルはクスリと笑った。



 オフリー領主の娘がリルの前に立つ。


「あなた、ズーリナで聖女になるの?」

「そうだよ」


 間髪入れずにズーリナの聖女が答えたが、イザンの薬師が前に出る。


「いいや。イザンで薬師だ」

「勝手に決めないで。どっちも違うから」


 リルは2人の前に出て、オフリー領主の娘に首を振った。

 ズーリナの聖女がリルの肩を引く。


「だが私が認めたんだから、リルはもう聖女さ」

「でもズーリナに行くなんて決めてない」

「ここに残るの?」


 オフリー領主の娘が杖を構えたが、リルはそれに気付かずに、ズーリナの聖女に顔を向けたままで「うん」と答えた。


 オフリー領主の娘の杖が一瞬だけ光って消えた。


「え?なんで?」

「なんでは私のセリフだけど?」


 杖を見るオフリー領主の娘をリルは睨む。


「いま、私を攻撃しようとしたでしょ?なんでなの?」

「いいから消えて!」


 オフリー領主の娘が再び杖をリルに向けるが、やはり何も起こらない。


「なんで?!消えてよ!」

「なんでは私のセリフだってば。あなた、建物が壊れた時、私を手伝ってくれてなかった?」

「そうだけど!関係ないわ!」

「味方かと思ってたけど、やっぱりオフリーでも狙ってたのね?」

「え?・・・オフリーで?」

「私とハルが倒した魔獣を回復してたじゃない?ハルを殺そうとしてるのかと思ったけど、なに?私を殺す積もりだったの?」

「うそ!そんな事してないわ!だってあの時は、まだ・・・」

「まだ?」

「まだ、その・・・」

「その?」

「王妃陛下と」

「マーラ!()めるんだ!」


 オフリー領主が娘の腕を引っ張った。

 リルはオフリー領主を横目でチラリと見たが、オフリー領主の娘の方に視線を戻す。


「あの時はまだ殺す気はなかったけど、今は殺す気だぞって事?」

「違うわ!」


 オフリー領主の娘も、オフリー領主からリルに視線を戻した。


「今だって殺す気なんかない!」

「それなら今のはなんなのよ?」

「それは、その、ちょっと、あなたが顔に怪我でもすれば」

「ちょっとケガをって、私に消えろって言ってたじゃない?」

「それは王太子様の前からよ。たとえ聖女でも顔に傷があれば、王太子様とは結婚出来ないだろうなって思って」

「王太子って言うのが誰なのか知らないけど」


 リルの言葉に周囲が(ざわ)つく中、王太子が一歩前に出るが、リルは気付かずに言葉を続ける。


「傷くらい、直ぐに治せるに決まってるでしょ?」

「聖女だからね」


 ズーリナの聖女が口を挟むと、イザンの薬師も口を出す。


「怪我の状態に応じたポーションを作り出せるからだろう?」

「治療師だからよ」


 リルはズーリナの聖女とイザンの薬師に向かってそう言うと、オフリー領主の娘に顔を戻した。


「でもだからって、ケガさせられる気なんてないから」

「え?それってやっぱり王太子様と結婚を狙ってるからよね?」

「違うわよ。なんでよ。王太子が誰だか知らないのに」

「あ、いや、私だ」

「え?弟くん?どうしたの?」

「私がこの国の王太子なのだ」

「え?」


 リルは国王を振り向いた。国王はリルに肯いて見せる。

 リルは王太子に顔を向けてから、王妃と宰相を見た。


「あ、そうか」


 リルはハルを振り向いた。


「ハルって実は王子様だったんだもんね」

「ああ、実はな」


 リルは王太子に顔を戻した。


「それでハルが死んだと思われたから、弟くんが王太子ってのになったの?」

「いや、まあ、そうだが」


 そう言う言い方をされると、王太子も素直に肯き難い。


「それで国王様と血の繋がったハルが生きてたから、ハルが王太子になるって事ね?」

「何を言っているの!」

「その様な訳がないだろう、愚か者が」


 しばらく自分の杖と向き合っていた王妃がリルを振り向いて怒鳴り、ずっと口を挟めずにいた宰相が吐き捨てる様に言った。


「え?お父さん?違うの?」


 リルに振り向かれ、リルと視線を合わせるのに顔を少し伏せた国王は、緩く小さく首を左右に振った。


「そう簡単にはいかないのだ」

「そう。良かったけど、あれ?そうするとあなたは?ハルと結婚したかったの?殺すとこだったのに?」

「ちっ!ちがうわ!ハルってハテラズ殿下でしょう?!わたくしが結婚したいのは・・・」


 オフリー領主の娘は王太子をちらりと見た。


「なんだ。王太子だからとかじゃなくて、弟くんとって事なのね。私は反対しないから、すれば良いんじゃない?」

「え?良いの?」

「お待ちください!」


 ここに来て新しい人物が登場した。

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