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働き過ぎは、聖女になりますので、ご注意下さい  作者: 茶樺ん


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155/189

聖女

 国王とリルが咳払いに振り向いた所に、杖を持った女性がもう一度尋ねる。


「発言してもよろしいですか?」

「あ!あなたも神官よね?」

「ええ。私はズーリナ聖国の者ですが」

「え?あの時の人よね?建物が崩れた時の。口調が違うけど」

「はは。他国とはいえ国王陛下の前ですから、普通は畏まるのです。けれど、まあ、良いか。リル?」

「え?なに?」

「あの神官に何をさせようとしたんだい?」

「え?親子判定を」


 リルの言葉に会場内が(ざわ)めく。


「それは無理だよ」

「え?だって神聖魔法にあるじゃない?あなたも神官なら知ってるでしょ?」

「神聖魔法にはあるけれど、神官だからって使える訳じゃないじゃないか」

「え?だって、神官でしょ?」

「神聖魔法もピンキリだからね。そんな事も教わってないのか」

「だって私、神殿には通ってないから」

「そう言う問題じゃないよ。それにそもそも親子判定の魔法は、聖女なら使えるけど神官は人に依るんだよ」

「え?そうなの?あ!じゃああなた!」


 リルは、王妃と共に入場していたオフリー領主の娘に顔を向ける。


「あなた聖女でしょ?あなたなら分かるのね?」

「分かるのかい?」


 杖の女性からも顔を向けられて会場中からも視線を集め、オフリー領主の娘は体を縮めて小さく早く首を左右に振った。


「まあそうだろうね」

「え?なんで?聖女もピンキリなの?」

「ズーリナの聖女なら出来るよ。ピンでもキリでも、それなりの修練を積むからね」

「ズーリナ?あなたズーリナの人よね?」

「そうだよ」

「誰か聖女を知ってる?」


 その女性の正体を知っている人々の多くはギョッとした。神罰が下るかも知れないと思ったからだ。

 しかし女性はクスクス笑い始める。


「誰かって、私も聖女だよ」

「あ、そうなの?じゃあ、ハルとお父さんが親子なのって分かるでしょ?」

「ああ、分かる」

「ほら!」

「ズーリナの言う事なんか信用出来るもんですか!」


 勝ち誇ろうとしたリルに、王妃が言葉を()つけた。


「じゃあ、誰が言えば信じるの?」

「この国では私が聖女よ!聖女である私が違うって言うなら違うのよ!」

「あなたも聖女だって言ってたけど、でも分かんないのよね?」

「もじゃない!私こそただ一人の聖女だ!」

「それなのにやっぱり、親子判定が出来ないのね?」

「そんなの聖女には必要ない!」

「そうなの?」


 リルはズーリナの聖女を振り向く。


「必要かどうかと言えば必要ない。ただズーリナで聖女になるなら、親子判定くらい出来る様になるだけさ」

「そうすると」


 リルは王妃に向き直る。


「それなら、あなたは何なら出来るの?」

「・・・なんですって?」


 王妃の声が低くなる。兵士も含めて周囲の人間が数歩下がる中、リルとズーリナの聖女はその場に留まり、国王とハルはリルの前に出た。

 王妃がリルに向けて杖を構える。杖が輝き始めた。


「止めんか!」

「リル!」

「神罰をくらえ!」


 国王が王妃に腕を伸ばして叫び、ハルが振り返ってリルを覆う様に庇う。リルは「え?」と驚いた顔をしながらハルの脇から腕を伸ばし、国王の隣から手を突き出した。

 そして、特に何も起こらない。

 自分も杖を構えていたズーリナの聖女は、「やるねえ」と呟いた


 王妃の表情から怒りが抜けていく。


「・・・は?おまえ?何をした?」

「なんか(よこしま)な魔力を感じたから、打ち消しただけだけど」

「そうですよね!」


 オフリー領主の娘が叫ぶ。


「邪ですよね!」

「・・・私を邪と言ったのかい?」


 王妃の表情が再び怒りに染まる。

 もう一度杖をリルに向けて構えるけれど、今度も何も起こらなかった。杖は輝きさえもしない。


「・・・え?」


 王妃は驚いて、そして杖を見た。もう一度構え直すが、やはり杖は光らないし、何も起こらない。

 王妃の表情が驚きからまた怒りに変わった。


「・・・おまえ、何をした」

「杖を少し」

「私の杖に何をしたんだ!」

「え?教える訳ないでしょ?攻撃されるの分かってて」

「杖の機能を止めたのかい?」


 ズーリナの聖女がリルに尋ねる。


「まあ、そんな感じ」

「どうやったのよ!」


 リルに杖を向けて王妃が叫んだ。


「え?教えないよ?」

「教えても出来んだろう」


 周囲の人の中から声が上がる。

 1人の男性が前に進み出て、リル達の前に姿を現した。


「発言をしてもよろしいでしょうか?」

「許可する」

「どう言うことなの!」


 男性に向かって王妃が叫ぶ。


「杖の機能を止めたのですよ」

「はっ。それはさっき私が言ったじゃないか」


 ズーリナの聖女が目を眇めながら男に向けて言うと、男は肩を竦めた。


「宛てずっほうが当たるのと、現象が理解出来るのは別なのだよ」

「あ、あの時の薬師の人ね?そうか。2人は仲良し」

()めとくれ」

「その様な訳はないではないか」


 2人にイヤな顔をされたけれど、その表情がそっくりに見えて、思わずリルは「ふっ」と笑った。

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