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支度

 リルとハルがハルの父親に会う場所としては、離宮が指定された。

 王宮の少なくない建物が損傷や倒壊をしたが、ハルの母親が使用していた離宮は名前の通り離れた所に建てられている為、何一つ影響がなかった。


 離宮とはいえ、王族が暮らす為の場所なので広く、大広間も備えている。玄関も立派なものだ。

 その玄関でハルが名を告げて入館の手続きを取っている間、リルは建物の美しさに目を奪われていた。こんな場所を使えるなんて、ハルのお父さんはやっぱり偉いんだな、などとリルは思う。


「待てとはどう言う意味だ?」


 ハルの言葉にリルは顔を向けた。


「主より指示がございまして、お二人には着替えを用意させて頂いています」


 リルもハルも冒険者の服装だ。


「普段の格好で構わないと、話が通っている」

「はい。普段の服装でお見えになるとの事で、衣装を用意する様に承っております」

「どの様な衣装だ?」

「昼餐を召し上がっていただくのに相応しい物です」

「茶会と聞いているが?」

「昼餐会を用意する様に命じられております」

「少し待て」

「はい」


 ハルはその場から離れて、手鏡を取り出した。それに魔力を流すが、反応はない。

 ハルはリルの傍に来て、頭を下げた。


「申し訳ない。手違いがあった様だ。聞いていたのとは話が違うから、本日の場はキャンセルで良いだろうか?」


 離宮の使用人達が僅かに慌てた様子を見せる。

 ハルはそちらをチラリと見たが、リルに向き直った。


「先日の呼び出しの時もリルを酷い目に遭わせてしまった。ここは引き返そう」

「そうね。お父さんには連絡が取れないのね?」

「ああ」


 リルがハルに顔を寄せて、耳に囁く。


「お父さんは大丈夫?トラブルに巻き込まれてる可能性はない?」

「いいや。それはない」

「そう。ハルはどうしたい?ハルがキャンセルしたいならキャンセルで良いけど?」

「リルは構わないのか?」

「うん。昼餐ってお昼ご飯でしょ?礼儀とかあんまり知らないから、ハルに恥を掻かせちゃうかも知れないけど」

「そんな事は構わない」

「ハルのお父さんも、私に恥を掻かせようとしてお昼ご飯にしたんじゃないと思うし、お父さんが作法とか許してくれそうなら、私は良いよ?」


 そう言うと顔を離して微笑むリルに、ハルも笑顔を作ってみせた。

 今度はハルがリルの耳に囁く。


「リル」

「なに?」

「大好きだ」

「もう!」


 リルがハルを叩いた。叩かれたハルは笑い声を上げる。

 その様子を目にした離宮の使用人達は、先程より動揺を見せた。



 中に入るとリルとハルは別々に案内される事になった。


「え?なんで?」

「着替えて頂きますので」

「え?ハルと別々に?」


 リルとハルは一緒に土ドームに寝泊まりしていたが、ハルはリルの着替えを見た事などない。使用人達に誤解を与えそうなリルの様子に、ハルは慌てた。ハルはリルの着替えを想像したから慌てたのではない。


「リル?どうする?やはり()めておくか?」


 ハルに言われ、下がっていたリルの眉尻が上がる。


「着替えるだけよね?」

「ああ。昼餐なら、着替えもそれ程掛からない衣装の筈だ」

「なら、うん。ハル。また後で」

「ああ。また後で」



 リルはワンピースドレスに着替えさせられた。足下(あしもと)がスースーする。

 当然ブーツは脱がされ、ヒールが少し高い靴を履かせられた。踵は踏ん張れそうにない。

 風呂に入れられそうになって断ったが、下着はドレスに合わせて着替えなくてはならないと説得された。とても恥ずかしかった。容赦はなかった。


 来ていた服も下着も、いつも持ち歩いている荷物も預ける事になる。


「杖をお預かりいたします」


 着替えている途中で、リルはそう声を掛けられた。


「あ、いえ」

「会場には杖を持ち込む事は出来ませんので」


 使用人がリルに両手を差し出してくる。


「あ、持ってないのです」

「そうなのですか?必ずお預かりする様に、申し付かっておりましたのですが」

「それはもしかして、困らせてしまいますか?」

「いいえ、その様な事はございません。お客様は魔法使いと伺っておりましたので、お持ち頂くと邪魔になってしまうとの判断だったのだろうと思います。お持ちでいらっしゃらないのでしたら、問題はございません」


 そう言うと声を掛けて来た使用人は、部屋から下がっていった。



 着替えが終わるとリルは、別の部屋に通される。

 お茶を勧められたけれど、これから食事なので断った。

 リルの着替えには結構な時間が掛かってしまい、ハルの父親を待たせているのではないかと心配をしていたが、ハルの準備もまだだと言う。

 少しお腹が空いてきて、皆の前でお腹が鳴らないかとリルは心配になって来た。

 やっぱり自分には偉い人の生活は無理かも知れない、とリルは感じ始める。それが分かっただけでも今日は来た甲斐があったかな、とリルは思った。

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