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打診

 怪我人の救助が一通り済むと、リルはハルと治療に回った。

 国王の下に集まる情報を元に、あちらこちらを回って次々に重傷者を一瞬で治療して回る。


「あ、この人?」


 リルがハルを見上げた。ハルにナイフを投げた男だった。


「どうする?」

「治療出来るか?」

「技術的には、ね?」

「そうか・・・では治してやってくれ」

「・・・分かった」


 リルは一瞬で治療を終えたが、その場ではまだ男は目を覚まさなかった。



 重傷者の治療も一段落すると、今度は遺体の回収を手伝った。

 怪我人もそうだが、亡くなったのも大人ばかりだった。建物が倒壊したのが職場領域だった為に、子供はほとんどいなかったからだ。



 それが終わるとダンジョンの様子も確認した。

 前回通った場所には、まだ魔獣が増えていない。その為、前回引き返した地点に迄は、直ぐに辿り着いた。


「この先、どうする?」

「少し、魔石を集めるか?」

「そうよね。私達、無一文だもんね」

「魔獣は見た事がない物がほとんどなのだよな?」

「うん。似てるのはいるけど、微妙に違うのが多い」

「と言う事は、食べられないのだな」

「危険だし、食べるとしたらまずハルだから。治療出来るの私だけだし」

「食べても構わないが」

(あた)った事ないからそんな事言うのよ。もしかしたらハルが侵されてた魔毒も、危険なの食べたんじゃない?」

「それはないと思うが、病弱に戻りたくはないから()めておくか」

「治せると思っても、止めて欲しい」

「分かった」

「こっそりと食べたりもしないでね?」

「リルに心配を掛ける事が分かっているのだ。やる訳がないから、安心して欲しい」

「うん。信じてるから」

「ああ。信じていてくれ」


 前回、リルとハルがダンジョンに入った時に倒した魔獣は、ダンジョンの中に残されていた。

 それの回収を命じた者がいて、兵士達がダンジョンに入った。

 そしてリルとハルが辿り着いた辺りまでほとんど魔獣がいなかった為に進んでしまい、いきなり強い魔獣と出会(でくわ)した。逃げ帰ったものの魔獣に怪我を負わせられ、魔毒に侵された者が何人も出ている。

 それなのでダンジョンには、冒険者登録している者だけが立ち入る様に、入り口を監視する様になっていた。



 リルとハルはダンジョンに入りながら、その合間に瓦礫の片付けを手伝った。

 ただしこちらは片付けている最中に瓦礫の中から書類が出て来ると、その書類の扱いを文官が確認しながらだったので、なかなか進まない。

 最初は瓦礫の片付けの合間にダンジョンの様子を見る筈だったが、いつの間にかダンジョンのインターバルに瓦礫を片付ける程度になっていた。



 2人に依頼したい作業があると、国王からハルに手鏡で連絡が来た。

 国王が連絡係をするのもおかしくはあったが、ハルが持っている手鏡には、国王からしか連絡が取れなかったので仕方がない。



 その様に、リルとハルは数日間、日中は王宮に通った。

 そして夜は、第2層の宿に泊まる。魔石や魔獣の素材が宿代や食事代になった。



「父からリルに礼をしたいとの連絡があったのだが、どうする?」

「え?どうする?あまり会いたくないんだけど?」

「分かった。断っておく」

「え?断れるの?」

「うん?受けても良いのか?」

「いや、だって、あの時は仕方なかったけど、せっかくハルの正体を知らずに済ませられたんだし」

「色々と立て続けに起こったからな。まだリルに未来を考える時間を与えられていない事は、申し訳ないと思っている」

「それは仕方ないし、良いけど」

「そうすると、この後はどうする?」

「この後って?」

「王都を出て、他に行ってみるか?一層の事、ズーリナやイザンでも良いが?」

「え?う~ん?どうする?」

「私が生きている事は既に父に伝えられたから、王都にいる必要はない。そして私はリルと一緒であれば、どこに行くのでも構わない」

「え?そう?でも、お父さんと話せたの?」

「手鏡がある。もういつでも話せるではないか」

「そう言えばそうね」

「と言うか、始終呼び出しがあって鬱陶しいくらいだ」

「そりゃあね?死んだと思ってた息子が帰って来たら、ベッタリとなるんじゃない?」

「私の常識では父親が、ましてや自分の父がそうなるのは信じ難い」

「でも、直接会って、顔を見合わせて話して来たら?」

「それは、気が進まなくはある。抱き付かれでもしたら堪らない」

「でも私みたいに、会いたくても会えなくなってからじゃ遅いし」

「それは、どうも、すまない」

「ううん。ハルの正体さえ分からなければ、私もハルのお父さんとは話したいとも思うし」

「・・・もしかして、正体が分からないままならば、結婚してからも父と会って貰えるだろうか?」

「え?なんで?」

「リルが義理の娘の様に思えているらしい。リルに『お父さん』と呼ばれて心を掴まれたそうだ」

「え?それだけで?私、呼んだっけ?」

「父が意識を取り戻した時に、父の手を握って言ったそうだ」

「あ!ハレンチだった?」

「非常時だから仕方ないが、忘れられないらしい。それに破廉恥で言うなら、私がリルを抱いて運んでいただろう?」

「あ!あれもハレンチだから?」

「そうだな。夫婦でもなければ、あの様な事は行わない」

「ハルの奥さんって思われたのね?」

「それがどうやら私の妻ではなく、自分の娘の様な感覚らしい」

「いきなり?話もしてないのに?」

「まあ突飛な話だが、だから礼と言っても、実はリルに会いたいだけの様なのだ」

「う~ん」

「あ、いや、父の事は気にしなくて構わない。リルの気持ち優先で行こう」

「そう言われるとなんか、王都を離れるにしても、お父さんに会って話しておきたい気もしちゃう」

「それならば、先に今後の予定を決めるか?父に会う時間的余裕がないかも知れないし」

「そんな訳ないでしょ?行き先も決まってないんだから」

「そうでもないと思うが」

「ねえ?ハルの正体が分からない様になら良いって、出来るかな?」

「もし結婚しても?」

「違くて。お父さんと会うのに、そう言う話題を避けてもらえるとか?」

「難しいのではないかな?」

「そう?一応、訊いてもらえる?」

「出来ると言ったら、会ってやってくれるのか?」

「う~ん?うん。今の私には、ハルの正体以上に、重要な事は何もないから」

「その様な事はないと思うし、それは私の正体を探っている時のセリフではないかと思うが、分かった。父とはそれで交渉してみよう」

「うん。お願い」


 リルはハルの父とのこぢんまりした場を想像していた。

 ハルはお忍びでの密談を行う様な、緊張感のある状況を思い浮かべていた。


 しかし国王が人と会うともなれば、関係者は多くなる。

 その相手の1人が死んだと思われていた国王の息子で、もう1人と共に事故の現場で活躍し、そのもう1人は国王の命を救っていたともなれば、こぢんまりする筈もなかった。

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