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女ではある

 リルは出来たポーションを男の傍に持って行く。


「いや!凄い(にお)いではないか?!」

「そうかもね」

(にお)いを嗅いでいなくても同じと言っていなかったか?」

「味に比べたら、こんな(にお)いは無いのも一緒」

「それに、量も先程より多いぞ?」

「毒見が必要でしょ?」

「・・・気付いていたのか?」

「それは、まあ」


 そう言うとリルは男の目の前で、ポーションを2つの瓶に分けた。


「どっちを選ぶ?」

「いや、両方とも私が貰おう」

「え?なんで?」

「この後も何度もポーションを君に作って貰う事になるだろう?」

「これが飲めたらね」

「そもそも今、私が生きているのは君のお陰だ。君を信じるよ」

「そう?」


 そう言うとリルは男の上半身を起こして後ろから支え、ポーションが飲める様な姿勢を取るのを助ける。


「いや、ちょっと待ってくれ」

「どうしたの?()めとく?」


 そう言いながらリルは、ポーションを男の口元に持って行った。

 

「ちょっと、一回、下ろしてくれ」


 そう乞われてリルは男を横にならせる。


「やっぱり毒見?それとも私が回復魔法を掛ける?」

「いや、君?リル?」

「なに?」

「君は少女なのか?」

「え?なに?違うわよ」

「いや、しかし、背中や腕に当たった感触が女性の様だったぞ?」

「当たり前でしょ?女だし」

「え?女性なのか?でも少女ではないと言わなかったか?」

「え?ええ、もう少女ではないから」

「あ、ああ、そう言う意味なのか?いや、少年かと、あ!いや!何でもない!忘れてくれ」

「え?男の子だと思ってたの?」

「あ、いや、最初はちゃんと女の子だと思ったのだ。しかし少女ではないと言うので、それなら可愛らしい顔をしていても少年なのだと」

「そんな訳ないじゃない」

「いや、まあ、そうだな」

「リルって女の名前だと思うけど?」

「いや、渾名とか、通り名だとか、その、しゃべり方も女性だったので、女性と思われたいのかと」

「まあ、女性ですからね?」

「いや、本当に申し訳ない」

「いいから、もう。それで?納得出来た様だし、ポーション飲む?」

「あ、ああ。頼む」


 もう一度リルに支えられて、背中に柔らかな感触を感じながら、男はポーション瓶に口を付けた。


「いや!待て!待ってくれ!」


 男の口からポーション瓶を離しながら、リルは呆れた表情を浮かべる。


「こう言うのは一気に行った方が楽だけど?」

「いや、違う!君は女性なのだろう?」

「ええ」

「いや、私は今だって、上半身裸だ」

「ボロボロの上着やシャツはまだ直してないからね。それがなに?」

「いや、君は、その、男の肌を見ても、何とも思わないのか?」

「だって裸にしないと治療出来なかったりするし、あなたも全身にゴボウルフの噛み跡があったから、それで裸にしただけだけど?」

「あ、いや、そうか」

「ええ。必要ないのに脱がしたりはしてないから。さあ、納得出来たら飲んで」


 そう言ってリルがまた、男の唇にポーション瓶を付けた。


「あ!いや!待ってくれ!」

「今度はなに?」


 今度はポーション瓶を男の唇から離さずに、リルは不機嫌な声を上げる。


「君は私のズボンも脱がしたのだな?」

「パンツもね」

「パッ?!」


 男が口を開けた瞬間に、リルはポーション瓶を押し込んだ。


「零さず飲んで!」


 目を見開きながらも男はポーションを嚥下する。


「はい、寝て!」


 リルは男を横にすると、額と胸に手を伸ばす。男が両手で胸を守ろうとしたけれど、リルは無理矢理に手をねじ込むと、探知魔法を使った。


「うん。ちゃんと効果が出てる。やっぱり、回復魔法を掛けるよりは、効率が良いみたい」

「そうか・・・それは良かった。ところで・・・本当にパンツも、その、脱がせたのか?」

「あなたは目の前で死にそうな女性がいて、傷口がどこだか分からない時に、下着を剥ぐ事を躊躇う?」

「いや、それは・・・しかし」

「そう。私が躊躇いも羞じらいもない女でついてなかったね」


 そう言って後ろを向いたリルの背中を男は眺めた。


「いや・・・ありがとう。君が勇敢な女性でなければ、私は死んでいたのだな」

「そうなってたら私はもう、さっさと旅を続けてたな」

「そうだな・・・その通りだ。言い訳にはなるが、私は見られた事を問題にしているのではないのだ」

「あっそう」

「命を救って貰う為とは言え、うら若き女性に見せるべきではない物を見せなければ助からなかった自分の不甲斐なさに、改めて驚いただけなのだ」

「ふ~ん」


 リルはバッグに手を伸ばすと、男を振り向いた。


「手に力が入っていたし、今なら自分で残りのポーションを飲めるよね?」


 そう問われて男は、「ああ」と肯いた。


「じゃあ出て来るから。言っとくけど、帰って来るから」

「ああ、信じている。しかし、どこへ?」

「ポーションの材料を集めて来る。魔力操作の勉強をする?」

「え?ああ。是非教えて欲しい」

「そう。それなら材料を多目に集めて来るから、帰って来るのは遅くなる。でもそれで、時間を作ってじっくりと、魔力操作を学びましょ」

「ああ、分かった。ありがとう、リル殿」

「感謝は言葉だけなら受け取るわ」


 そう言ってリルは立ち上がった。

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