再突入
リルとハルがダンジョンに着いた時には、追い掛けて来た筈の兵士達は姿が見えなくなっていた。
ダンジョンの入り口では王太子と数人が剣を振り、復活した魔獣から他の人々を守っていた。
リルを腕から下ろすとハルは、礫で魔獣を堕とし、剣で止めを刺す。
リルは光魔法で復活しそうな魔獣に目印を付けた。
ハルがまたリルを腕に抱き上げる。
「光ってる魔獣を倒して!」
魔獣の死骸の山を指差しながら、王太子達にリルが叫ぶ。
「魔獣は素材にもなるから!あまり切り刻まないで!」
「後から兵士が来る!父上が救出の指揮を取っているから合流しろ!」
ハルも叫ぶと王太子達の応えも見ずに、リルと2人でダンジョンに走って行った。
「そう言えばハル?魔力は?」
リルは許可も得ずにハルの胸元に手を差し込む。反対の手はハルの額に当てた。
「あ、結構貯まってる」
「そうか?」
「でも補充する?」
リルはごそごそとシーツの包みを開く。
「念の為、例のポーション、作っておいたの」
「あれか」
ハルは即座に諦めて、立ち止まるとポーションを受け取った。
リルは光魔法で周囲を照らす。
「久しぶりだから飲める?普通のポーションもあるけど?」
「いや、飲むよ」
ハルは一気にポーションを呷る。懐かしい臭さだ。
「大丈夫?」
「悪いがリル?しばらく自分で歩いてくれ」
「良いけど、戻しそう?」
そう言いながらリルはハルの額と胸に手を当てる。
「効果は出てるけど」
「いや。もうしばらくすれば、大丈夫な筈だが、抱き上げたら臭くて嫌か?」
「ハルが?臭いけど、言う程ではないし、狩りにも影響ないよ?」
「リルの嗅覚と集中力が素晴らしくて良かった」
「またバカにして」
「馬鹿になどするものか。ただこの臭いが、リルに取っての私のイメージになるのは避けたい」
「そんな訳ないでしょ?でも清浄魔法掛けようか?いくらか臭いが減るよね?」
「いや。魔力は節約しよう」
そんな事を言いながら歩いていると、ハルが遠くに魔獣の群れを見付けた。リルは光魔法を消して、魔獣が探知魔法の範囲に入るのを待ち構える。
「知らない魔獣」
「森の掃除屋だったかに似てないか?」
「似てるね。違うけど」
「壁を作って一カ所に集めるか」
「うん。でも後続はない?」
「・・・いいや、違うのも遠くに見える」
「それなら壁は高めに作ろう」
「ああ」
リルとハルは魔獣を一カ所に集める為の壁を作り、通路を塞いだ。
そこに陣取って、魔獣を倒し続ける。
やがて魔獣の流れが途切れた。
「どうする?素材や食材にするなら、こんな風に一カ所に集めた方が良いよね?」
「ふっ、そうだな」
「え?なに笑ったの?」
「いや。リルにはスタンピードも、素材集めのチャンスになっているのだなと思って」
「スタンピードがラッキーチャンスなのは、ハルと一緒だからよ」
「リルと一緒にいると、何でも楽しめそうだ」
「え?ちゃんとマジメにやってるわよ?」
「ああ。もちろんそれも分かっている」
眉根を寄せたリルにハルは笑顔を向けたけれど、周囲は真っ暗なのでリルには見えなかった。
「魔獣が途切れてるから、一旦戻る?まだこれらの素材を、回収して貰ったり出来ないかな?」
「戻って見ないと救助の進み具合は分からないな。確かに素材はもったいないが、溜まる度に回収して貰いに戻るのも、時間がもったいないのではないか?」
「それもそうね、あ!」
「どうした?」
「ハルのお父さんに手鏡を持って貰う?」
「手鏡?そう言えばどこかに置いてきてしまった」
「お父さん、救助の指揮をしてるんでしょ?お父さんのとハルのを作って持ってて貰えば、素材を取りに来て貰えるんじゃない?」
「確かに報告したり、向こうの状況を確かめるのにも便利だな」
「ね?一旦戻ろう」
「ああ、分かった」
ハルはリルを抱き上げると、地上に向けて走った。
地上に出ると王太子が指示をして、倒した魔獣の後始末をしていた。
「あ!兄上!」
その言葉に周囲の人間がギョッとしてハル達を見る。
リルはハルの腕から降りた。
「他の魔獣はいなかったのですか?」
「いいや、一旦様子を確認しに戻ろうと」
「ハル?」
ハルとの会話に割り込まれて、王太子はリルを睨む。
「これ、弟くんにお父さんに届けて貰おうよ?」
「弟くんだと?!」
ハルは声を荒げる王太子を手で制した。
「それは?」
「ハルの魔力波を刻んである。で、お父さんのを刻んだこっちはハルが持って」
「え?父の魔力波をいつ測ったのだ?」
「さっきだけど」
「記憶しているのか?」
「半分はハルと一緒だし」
「そうか、分かった」
リルは手鏡を王太子に差し出す。
「これをお父さんに届けて」
「なんだと?お父さんだと?」
「これは離れて会話が出来るのだ」
「こう使うの」
リルはもう1組、自分とハルとのもその場で作り、ハルと2人で使って見せる。
「そんな便利な物が」
「私達はまだ奥に進むから、何かあればこれで報せる様に伝えて欲しい」
「分かりました」
肯く王太子をその場に残し、ハルはリルを抱き上げると、また走ってダンジョンに入っていった。