許可
救助と治療の手を止めないまま、リルはハルに話し掛ける。
「ハル?」
「どうした?」
「ここ、穴が奥まで続いてるけど、なんか、ダンジョン?」
「そうだな」
「なんか出てきそうよね?」
「ああ。臭いがするし、遠くで鳴き声がする」
「え?いるの?」
「いるな。多分、バット系だ」
「数は?」
「まだ見えない。だが近付いて来ている感じだ」
「溢れそうって事?」
「その可能性はある」
「奥まで行って閉じよう」
「ああ、一区切り付いたら」
リルとハルは埋もれている人を次々と掘り出して行くが、周囲の人達はそれ程早くは掘れていない。
「治療できる人が多い。掘るのを優先して、治療は任せよう」
「分かった」
リルとハルはとにかく掘り起こし、治療し易い様に助け出した人を一カ所に集めた。
「見えた」
「え?何が?」
「それ程の間もなくバット系が出て来る」
「マジで?」
「マジだ」
「ギリギリまで掘り起こす」
「ああ」
集めた怪我人は、オフリー領主の娘が範囲の広い治療魔法で、複数人同時に治していた。
王太子はリルとハルが掘り起こした人を運ぶ。
「神官、治療してる?」
「いや、オロオロしているな」
「もう!」
「リル、来るぞ」
「うん。探知してる」
「先に行く」
「待って。私が堕とす」
「そうだな。分かった」
リルとハルはタイミングを見計らい、以前の様に二段ベッド式に横になった。
ハルは魔力を漏らして魔獣を惹き付ける。
それをリルが素早く撃ち落としていった。
そしてハルが思った何倍も早く、集まった魔獣は撃ち落とされて終わる。
2人はベッドから抜け出すと、救助の続きを行った。
「まだ来るよね?」
「見えないが、声はする。別の魔獣だ」
「う~ん?閉じる?このまま迎撃?」
「スタンピードだと思うか?」
「分かんない」
「そうだな」
「中を調べる」
「その必要はある」
「じゃあ、あ!荷物!」
「どうした?」
「ポーションとか置いて来ちゃった」
「どこだ?」
「ハルのお父さんのとこ」
「取りに行こう」
「うん」
ハルはリルを抱き上げて穴を上る。
途中で立ち止まり、2人が魔獣を倒す姿を見て呆然としている王太子に声を掛けた。
「あの魔獣は一部が復活する」
「え?!」
ハルは王太子の腰の剣を指差す。
「動き出したら倒せ」
「あ、はい!」
先に進むハルに、腕の中からリルが囁く。
「大丈夫なの?」
「魔法の実力は分からないが、剣なら大丈夫だ」
瓦礫の上を走りながら肯くハルに、リルは「そう」と返した。
リルはハルの肩越しに、遠離って行く王太子の姿に目を向ける。王太子がハルを兄上と呼んだ事に、リルは気付いていた。
あれがハルより跡取りに相応しいって言われてる弟?ハルの方が全然頼り甲斐あるんだけど?などとリルは思った。
国王の元に戻ると、リルの荷物を持ち運ぶ兵士がいた。
「それ!私の!」
ハルの腕から飛び降りたリルは、兵士に駆け寄る。
ハルは国王の下に進んだ。
「国王陛下」
「おお!ハテラズ!戻ったか!」
国王の言葉に周囲の人間がハルを振り向く。
「ダンジョンより魔獣が外に出ました」
「魔獣が?」
ハルの言葉に周囲の人間の半分は驚き、半分は訝る。
「中に立ち入ります許可を下さい」
「許可とは、ハテラズが入ると言うのか?」
「はい」
「駄目だ!許可など出来ん!」
「魔獣が出て来たと言う事はスタンピードの可能性もあります」
「は?なんと?」
「それですので許可を」
「ハル!この人に説明して!これが私の荷物だって!」
国王とハルの会話にリルが割り込んだので、周囲の人間は慌てた。咎めようとするのを国王が手で制す。
「それはこの少女の物だ」
「少女?」
リルがそう呟いて国王を睨むが、国王は気付かない。
「返してやれ」
「はっ!」
兵士がリルに荷物を渡す。それをリルからハルが受け取った。
「行こう!ハル!」
「いや待て!許可出来ん!」
「なんの話?」
「ダンジョンに入る許可が出ない」
「ハルのお父さん」
「は?お父さん?」
「私達は冒険者だから、ダンジョンに入るのにいちいち許可は要らないの」
「いや!危険ではないか!」
「そこは自己責任だから」
「ふふ、そうだな」
「そうだなではない!」
「スタンピードかも知れないの」
「まだ分からんのだろう!」
「だからそれを確かめに行くんだけど、ハル?」
「なんだい?」
「お父さんの傍に残ってあげて」
「何を言っているんだ」
「お父さんの心配も分かるし、それはハルが音信不通だった所為でしょ?」
「いいや。リル1人なら負けるかも知れない。そしてリルが負けて魔獣が溢れたら、私1人では死んでしまう」
「それはそうだけど」
「そうだけど?!死んでしまうなど尚更許可は出来ん!」
「父上。私は何度もこのリルに命を救われました。この先もリルがいなければ生きてはいけません」
「は?なんと?」
「私はリルを」
「そう言うの良いから!私は行くから!」
そう言ってリルが走り出すと、ハルが走り寄ってリルを抱き上げる。
「一緒に行くに決まっているだろ?」
「お父さんを置いてって良いの?」
「父よりリルを選ぶと言ったろう?」
「私、もし私のお父さんが生き返ったら、ハルよりお父さんを選ぶかもよ?」
「精々父君に負けない様に、リルの役に立つさ」
「そう?期待しちゃうからね?」
「ああ。応えるよ」
どう見てもイチャついている様にしか見えない2人の後ろ姿に見入ってしまっていた国王は、はっと気を取り直すと、慌てて兵士達に2人に付いて行く事を命じた。