救助
ハルは膝を突いているリルの姿を見付け、走り寄った。
「リル!」
「うん!」
リルは男に治療魔法を掛けながら、ハルに手を差し出す。
ハルが手を掴むとリルはハルの魔力を使い、多重に治療魔法を掛けた。
「え?・・・父上?」
「やっぱりお父さん?」
「ああ。リル、父を頼む」
「任せて!」
ハルはリルに握られているのとは反対の手で、父親の胸元を探る。そして魔導具を抜き出すとそれに魔力を流した。
魔導具は周囲に信号を発信する。
「なに?今の?」
リルはハルの父親から目を離さずに訊いた。
ハルは力魔法と土魔法で周囲の瓦礫を退かしながら答える。
「父がここにいると言う合図だ」
「そうなの?」
「ああ。間もなく父の部下達が集まる」
ハルはリルに魔力を渡しながら、その場に背凭れの高い椅子とテーブルとベンチを作り、少し考えてベッドも作った。
ハルの父親が少し唸って薄目を開けた。
「ハル!」
「どうした?!」
「お父さんが気付いた!」
ハルがリルを振り向くと、リルに手を握られた男がリルを見詰めていた。
リルが渡した毛布でハルは、ハルの父親を包んだ。
「は?・・・ハテラズか?」
「はい、父上。今、そちらを使って召集を掛けましたので、間もなく皆が集まりましょう」
「本当に、ハテラズなのか?」
「はい、父上」
「良くぞ、無事で」
「父上。周囲を御覧下さい」
「・・・これは?」
「王宮の建物が軒並み倒壊しております。原因は不明。御配下に御支持を願います」
「・・・あい分かった」
「私はこれで」
「いや、待て!どこに行くのだ?!」
ハルが手で示す先に、周囲の人を救出するリルがいた。
「彼女が陛下を助けました」
「何?本当か?」
「私は彼女と共に、救助を続けます」
「そうか。それなら先ずは魔力の強い者を優先して助けてくれ」
「畏まりました」
ハルは父親に一礼すると、リルの元に走った。
「リル!」
「手を貸して!」
「ああ!」
ハルはリルの手を掴む。リルはハルの魔力で土魔法を多重に掛け、人を掘り出した。続いて治療魔法を多重に掛ける。
「リル。魔力の強い人間を優先してくれ」
「なんで?」
「魔力の強い者を助ければ、その者が次には救助活動を行えるからだ」
「分かった」
怪我人に目を向けたままそう返すと、リルは治療を終えて辺りを探知する。
「あっち!」
「ああ」
ハルはリルの指し示した方に、リルを抱き抱えて瓦礫の上を走った。
「国王陛下!ご無事でしたか!」
「命令を下す。魔力の強い者から助けよ」
「はっ!」
「治療が済み次第、その者にも救助活動をさせよ」
「畏まりました!」
「余はここで指揮を取る。報告のある者はここに来させよ」
「御意!」
ハルの父親は肯いて、ハルの作った即席の玉座に腰を下ろす。リルが渡した毛布は、マントの様に扱われていた。
リルとハルは次々と掘り起こしては、人を治療していく。
「あなた神官ね?」
「ああ、そうだ。私を助けたのは、ああ、それは私の杖だ」
「向こうに指揮所がある。治療が出来るなら手伝ってくれ」
「うん?ああ、分かった。手伝わせてもらう」
「あなたは薬師?」
「そうだ。助かった。だが持っていた薬は割れて」
「これ持ってって、薄めて使って」
「薄めて?」
「向こうに指揮所がある。材料の手配も出来るかも知れない。薬を作ってくれ」
「そうなのか?分かった。行ってみよう」
その間にも後回しにする人の目印として、土魔法で棒を立ててその上部を変形させてメッセージを記した。
「なにここ?」
「床が抜けたみたいだな」
「中に強い魔力反応だけど、ああ~杖」
「人は?」
「人も強い」
「なら行こう」
「うん」
穴に降りるとリルは迷った。
「え?どっち?」
「迷うなら近い方で良い」
「そうだけど、やっぱりあっち!」
リルが指差す方を目指す。
「誰か!助けろ!」
瓦礫の下から声がした。
ハルが一瞬で瓦礫を退かす。
その下には王太子の背中が見え、その下にはオフリー領主の娘がいた。王太子はオフリー領主の娘を庇って背中には大怪我をしていたが、結構元気だった。
今度はリルがまた一瞬で王太子を治し、無傷だったオフリー領主の娘に命じた。
「治療手伝って」
「え?・・・ええ」
リルとハルは次の場所を向く。
「あ、でもわたくしの杖が」
「あん時の杖ならそこ!」
リルはハルの腕の上から娘を見ずに指差した。
「場所が分かるなら取って来い!」
王太子が怒鳴ると、ハルが王太子を振り向く。
「お前が取るのだ!」
「お前って、え?兄上?」
「良いから早く救助に回るのだ!」
「あ、はい!兄上!」
「兄上?」
首を傾げるオフリー領主の娘に、王太子が杖を拾って来て渡す。
「君は魔力はまだ大丈夫か?」
「はい。杖があれば大丈夫です」
「では一緒に救助をしてくれるか?」
「はい。わたくしは聖女ですので」
オフリー領主の娘は王太子に手を借りて、瓦礫の上に立ち上がった。
リルは次に神官を助けた。
「この人、神聖魔法が使える筈。少し時間が掛かるけど先に治す」
「それなら私は他の人を掘り出す。どこら辺だ?」
「そことそこ」
リルは光魔法で位置を示した。
ハルはその場所を掘り起こして行く。
リルが神官を助け終わると、ハルは王妃と宰相を掘り起こしていた。
リルが王妃を指差しながら、宰相に向かう。
「その人助けて!」
王妃を指差されて、神官は躊躇した。その後ろからオフリー領主の娘が「はい」と返事をして、瓦礫の上を王妃に駆け寄ろうとする。その娘をリルとハルを真似て、王太子が抱き抱えて王妃まで運んだ。
「私の母を頼む」
「はい、王太子殿下」
オフリー領主の娘は力強く肯くと、王妃の治療に取り掛かった。
その間にリルはオフリー領主を助けて、ハルと共に別の場所に向かった。