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脅し

 年配の男性にハルは詰め寄った。


「本当にリルは無事なのか?」

「もちろんだ」

「だが、あなたはリルに会っていないのだろう?」

「それは、そうだが」

「ちゃんと食事が届けられたりしているのか?」

「それは大丈夫だ」

「ちゃんとした物だろうな?食べられない物を届けていないだろうな?」

「いや、大丈夫だと思うが」

「そもそも私達はいつまでここに足留めされなければならないのだ?」

「いや、いつまでと言うか」

「私とリルは文官から話がしたいからと王宮に連れて来られた。しかし一向に話がない。私達に話があったのはあの時の男性なのか?」

「あ、いや。他にもあるのだが」

「それなら何故いつまでも話さないのだ?」

「しかし、彼女の容疑が晴れないうちは」

「リルは無実だ。良いか?私と同席した男性は魔獣に襲われた。そして魔獣との闘いで壁が壊れた。もしかしたら壁を壊したのは魔獣ではなく、私か男性かも知れない。男性は怪我を負い、私も頭を打ったりしたのだろう。そこへリルが来て私を治療した。私を守る為に土ドームも作った。そして私の治療に魔力を使い果たして、リルは気を失った。どうだ?これ以外に考えられるか?」

「いや。調べ直したが、魔獣の痕跡は見付からなかった」

「誰が調べたのだ?」

「王宮の調査官だが」

「その人間は魔獣に詳しいのか?」

「それは分からないが、何らかの痕跡があれば見逃す事はない」

「それならリルがやったと言う痕跡があったと言うのだな?」

「いや、それは」

「ないのなら何故、リルは牢に入れられたのだ?」

「それは、彼女が壁を壊した事の目撃があったからで」

「分かった。その目撃者に会わせて貰おう」

「いや、それは出来ない」

「何故だ?そんな人物、本当はいないのではないのか?」

「いや、彼女と一緒の部屋にメイドがいただろう?そのメイドが見ていたのだ」

「では何故そのメイドに会わせられないのだ?」

「それが、その、実はそのメイドが行方不明で」

「それでは目撃者がいないのと同じではないか。リルを解放しろ」

「そうはいかない。分かってくれ」

「犯人が必要だと言うなら、そのメイドが犯人ではないか。魔獣ではなく、魔法使いが私達に傷を負わせたし、壁を壊したのだ」

「いや、そうはならんだろう?」

「魔獣には無理でも、魔法使いになら調査官が分からない様に証拠を消せるだろう。そして意識がないリルの所為にして、リルが目を覚ます前に逃亡したのではないか」

「メイドにはしっかりとした家と身分がある。その様な事はする筈がない」 

「リルにはそれがないから犯人だと言うのか?」

「いや、そうではないが」

「メイドを犯人にするとメイドの実家がうるさいが、リルを犯人にしても、騒ぐのは私だけだからなんとでもなると思っているのだな?」

「いや、違う。そうではない」

「そうではないなら、今すぐリルをここに連れて来るんだ」

「いや、それは、出来ない」

「リルには食事が届いていると言ったな?」

「え?ああ」

「つまり、面会しようとすれば出来る筈なのに、敢えてリルから事情を聞かない様にしているのだな?」

「いや!違う!牢の管理官が捕まらないのだ!」

「そのメイド、お前の関係者か?」

「違う!派閥も違うのだ!そんな筈がないだろう!」

「派閥など知らん。リルを連れて来ないなら、私が牢に行く」


 ハルが立ち上がると男性も立ち上がった。ここまで話を聞いていた兵士は剣を抜き、扉の前に立ち塞がる。メイドは扉の外の兵士に緊急事態である事を告げ、外から兵士も入って来る。


「なんだ?お前達。私の行く手を塞ごうと言うのか?」

「君をこの部屋から出す訳には行かないのだ」

「その理由は?」

「それは、その」

「お前が何を企んでいるのかは知らんが、魔獣から王都を救った人間に対し、礼儀を持って接するべきだったのではないか?」

「いや、だから、この様な部屋を宛がっているではないか?」

「理由も伝えず道を塞ぐのは、礼に悖るのではないか?」

「それは、しかし」

「そして道を塞ぐお前達は、魔獣より強いのだな?」

「え?いや」

「私が剣を持たないから御せると思っているのなら、その思い違いを体で味わうが良い」

「いや、待ってくれ!」

「もう充分に待った」

「いや、あと数日、数日だけ待ってくれ!頼む!」

「根拠は?何を根拠に待てと言うのだ?」

「根拠は話す。だから一旦座ってくれ」

「それなら道々聞こう」

「え?道々?」

「推し通る。納得出来たら引き返しても良い」

「英雄にならないか?」

「・・・何を突飛な」

「突飛でもない。君が魔獣を退治している姿を見て、王都民の中には君を英雄と呼ぶ者達が増えているのだ」

「その英雄の1人を犯罪者扱いにしている事が知られたら拙いと言う事か」

「いや、英雄は君だ。彼女ではない」

「なに?リルの方が魔獣を倒しているぞ?」

「そうなのか?君が剣で倒したのではなく?」

「第1城壁ではそうだが、後からリルも魔法で倒していたし、第2城壁ではリルの方が倒した数が多かった」

「第2城壁でも倒しているのか?」

「ああ。私を英雄に担ぎ上げるのも良いが、私は事実を口にして回るぞ」

「・・・分かった。彼女を解放して、ここに連れて来る様に動こう」

「やはり今までは、リルを解放する気などなかったのだな?」

「いや、そうではないが」

「リルを解放するとの言葉を私が信じると思うか?」

「いや、先ずは何としても彼女と連絡を取るから、それまでは待ってくれ」

「リルが無事かも分からないのに、どうして待てると言うのだ」

「いや、この後直ぐに、無事を確認する」

「直ぐに出来る事を何故今までしなかった」

「それには都合があるのだ」

「やはり信じられん」

「事情は後で説明する。取り敢えず直ぐに彼女と連絡を取る。彼女と連絡を取った事が分かる、2人の間の合い言葉の様なものはあるか?」

「それはリルに訊け」

「分かった」


 年配の男はそう言うと、後ろで剣を構える兵士達を押し退けて、部屋から出て行った。

 そしてそのまま国王のところに行くと、リルがハルより魔獣を倒している事を伝え、リルを英雄にする事を提案する。

 剣士のハルと魔法使いのリルを英雄とする事で、英雄の信奉者を更に増やせるとの判断から、国王はそれを認めた。

 そして牢への介入権を年配男性に与える。

 年配男性はその権利を持って、牢の食事係に鍵を開けさせ、リルを訪ねた。


 事前にハルから手鏡で連絡を受けていたリルは、ハルに無事を伝える合図として、「ハルにミディア肉を食べさせて」と年配男性に告げる。

 年配男性はその言葉を持って、ハルの元に戻った。


「彼女からの伝言だが、『ハルにミディア肉を食べさせて』だそうだ」

「そうか。リルは無事なのだな」

「ミディア肉を用意するか?」

「リルに焼いて貰ってくれ」

「いや、牢の中では火を使うのは」

「牢から解放すれば良いだろう?」

「分かった。手続きを進めるが、それには時間が掛かるのだ」

「私が推し通る方が早いか?」

「いや、直ぐに進める。逐一報告するから推し通るな。良いな?」

「そう言えば、事情の説明もするのだったな?リルの無事は分かったのだし、事情次第では考えなくもない」

「事情も直ぐに説明するが、少し待て。説明する許可を貰ってくる」

「それよりなにより、リルにちゃんとした食事と寝具を届けるんだ。先ずはそれが一番先だ。それに許可が必要なら、先ずはそれを取る様に」

「分かった。彼女の食事と寝具、次に事情説明、そして彼女の解放だな?」

「もちろん、解放が先でも良い。それなら寝具はいらぬしな」

「・・・分かった」


 年配男性はまだ集まっている兵士達を押し退けて、足早に部屋を後にした。

 ハルの雰囲気が落ち着いたのを見て、兵士達は緊張を解き、部屋の外に出て行く。

 部屋に1人残った兵士とメイドだけは緊張を緩められず、早く今日の仕事が終わる事を願っていた。

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