ポーションと情報
箱を持った男がまた、鍵を持った男と一緒にリルの牢を訪ねて来た。
「差し入れを持って来ました。低級ポーションは出来ましたか?」
微笑む箱男の口調は最初の状態に戻っている。
リルはポーションを3本持って、男に見せた。
「ええ」
「もう3本も?」
「あの魔草だとこれで全部よ」
「え?あれなら20本くらい作れる筈でしょう?」
「それならそっちで薄めて売れば?」
箱男は眉間に皺を寄せたが、直ぐに微笑みを浮かべる。
「では、引き取らせて貰います」
「情報は?」
「まあまあ。差し入れを持って来ましたから」
箱男は鍵男に牢の扉を開けさせた。
箱男が中に入ると、鍵男は素早く牢の扉を閉めて鍵を掛ける。
箱男は振り返って鍵男を睨んだが、直ぐにリルに微笑みを向ける。
「王都で有名なスイーツを持って来ました。有名店のサンドイッチもありますよ?」
「貰って上げても良いけど、情報がなければこの場で瓶を割るわよ?」
「いや、ちょっと待て!」
「今すぐ帰るなら、情報を持って来るまで待って上げるわ」
「待て。情報はある」
「そう?何に付いて?」
「ハルと言う男の安否に付いてだ」
「そう」
リルは床にポーションを1本置いて、後ろに下がった。
箱男が素早くポーションを手に取る。
「では情報を教えて」
「ああ。男は無事だ」
「ええ。それで?」
「それで?」
「それだけではないでしょう?無事なのはそっちの人が言ってたじゃない」
箱男は牢の外の鍵男をまた睨んだ。箱男は顔を戻してリルを見る。
「一時期、意識がなかったらしいが、怪我もなく、健康に問題はないらしい。良かったな?」
「そう。それで?」
「・・・それだけだ」
「小出しにするのは良くないわよ?」
「小出しになんてしてない」
「まあ良いわ。ハルが無事なのは嬉しかったから、オマケして上げる」
「それは、どうも」
「それで?ポーションは後2本あるけど、他に何かない?ハルに付いてではなくても良いわよ?」
「・・・魔獣は王都に運び込まれたとの噂がある」
「・・・下がって」
箱男を下がらせると、リルは先程と同じ様に床にポーションを置いた。リルが下がると男がそれを手にする。
「それで?」
「誰かが王都に魔獣を運び込んだとの噂が、人々の間で広がっている」
「それで?」
「兵士も犯人を捜しているらしい」
「犯人がいるの?」
王都の第5城壁から第2城壁まで、魔獣が壊したとリルは思っていた。
「容疑者なら」
「運び込んだって、城壁に予め穴を開けてたって事?」
「そうなのか?」
「知らないわよ。私が訊いてるんじゃない」
「・・・一番の容疑者はあんたらしい」
「え?私?」
「王宮の壁を壊したんだろ?」
「壊してないわよ」
リルはハルと、王宮の壁を壊したのは魔獣と言う事にしようと話し合っていた。
「だが、あんたなら城壁も壊せるかも知れないし、変な丸っこい傘みたいなの作ってたらしいじゃないか?」
「傘?土ドームの事?」
「良く知らないが、城壁の傍になんか作ったろう?それがトンネルになってて、魔獣を次々と城壁の中に送ったって話も出てる」
「へー」
「へーって、違うんだな?」
「違うわよ」
「だがあんた以外に本当に犯人がいるなら、その犯人はあんたの所為にするかもな」
「なるほど。私ならもう捕まえてるから、手間が掛からないものね。それで?」
「いや。この話は以上だ」
「良い事を教えて貰ったわ。もう1本も上げるから、下がって」
「え?良いのか?」
「その代わり、もっと色んな情報も集めてね?」
「ああ。任せろ」
箱男はポーションを3本手に入れると、ナイフを取り出した。
リルは警戒を高めるが、箱男は自分の手を切った。
「何してんの?!」
リルは反射的に自癒魔法を使ったが、手枷が魔力を散らす。
「いや、大丈夫」
箱男はそう言うと、ナイフで切った傷にポーションを掛けた。傷は一瞬で消える。
「本物みたいだな」
「・・・試したって事?」
「人に売る前に、仕入れた物の品質を確かめるのは当たり前だろう?」
「呆れた」
「だがこれなら、あれで3本しか作れないのも納得するしかない」
箱男は持って来た箱をリルの方に押した。
「魔草は前のよりは良いかと思う。次も鮮度の良いのを選んで持って来よう」
「そう。でも、何本作れても、渡せるのは情報次第だから」
「ああ。分かった。差し入れにリクエストはあるか?」
「・・・考えとく」
「そうか」
箱男は鍵男に扉を開けさせる。
牢の外に出るとリルに片手を挙げ、箱男は鍵男と帰っていった。
魔獣を王都に持ち込んだ容疑者にされている事は、早速その夜、リルはハルに伝えた。