ヒーラーの仕事と後衛の役目【傍話】
「ちょっと!アンタ!なんで魔石を集めてないんだよ!」
「うん?」
「おい、大声を出すなよ」
「それは私に言っているのか?」
「アンタに決まってんだろ?!魔石を取ってないから魔獣が生き返っちまってたじゃないか!」
「大声を出すなって」
「そうよ!あなたヒーラーでしょう?!なんで集めないのよ?!」
「キミも止めろ。大声を出すな」
「私の常識では、魔石採取や換金部位の剥ぎ取りは、後衛の仕事だが?」
「なんだと?!」
「何ですって?!」
「おい!オマエら!大声を出すなって言われてるぞ!」
「詰まりこのパーティーなら、アーチャーと魔法使いの貴女方だな」
「何でアタシがそんな事やんなきゃなんないんだよ!」
「そうよ!そんな事したら汚れるじゃない!」
「私は確かにヒーラーだが、今のポジションは前衛だ」
「そうだけど、剥ぎ取りはヒーラーの仕事でしょう?!」
「このパーティーの前のヒーラーは戦闘の役に立たなかったそうだから、剥ぎ取りなどの汚れ仕事も荷物持ちなどの力仕事も、喜んでやったのだろう。しかし私は前衛だ。暇ではない」
「前衛だろうが後衛だろうが、アンタ、ヒーラーだろ!」
「そうよ!ヒーラー風情が何を偉そうに言っているのよ!」
「オマエら!大声を出すなって言ってんだろうが!」
「何言ってるのよ!」
「アンタがリーダーだろう!このナマケモンにビシッと言ってやれよ!」
「分かってるよ!なあ?オマエは入ったばかりでこのパーティーの事を知らないだろうが、『輝きの光』ではヒーラーが剥ぎ取りをする事に決まってるんだ」
「浅層で魔石を集めなかったのも、私にやらせる積もりだったのか?」
「そうだよ。オマエの仕事だし、浅層は大した金にならないから見逃してやったが、倒した魔獣が生き返るのはヤバいだろ?」
「私に後衛の仕事をさせるのは契約違反だ」
「はあ?!アンタ!何言ってんだ?!」
「契約がなによ!そんなの臨機応変でしょ!」
「オマエ!リーダーの俺に逆らうのか!」
「私は戦闘力、特に殲滅速度を買われて、マゴコロ商会と契約した」
「マゴコロ商会なんてダンジョンの中じゃ関係ないだろ!」
「戦闘以外のタスクは、私の経歴にそぐわない」
「はあ?!回復は戦闘以外のタスクだろうが!」
「『輝きの光』のポーションは、素晴らしいと知っている。回復役をしなくて良いとの事だったから、契約を受けたのだ」
「アンタ!バカなのか!」
「ヒーラーが回復しなくて良い訳ないでしょう!」
「契約書を読んでないのか?」
「何が契約書よ!」
「私の職種は確かにヒーラーだが、私はアタッカーとしてマゴコロ商会と契約しているのだ」
「は?」
「はあ?!」
「何言ってんだオマエ!」
「何を言っているはこちらのセリフだ」
「こ!この!」
「貴方達はどうする?」
「ど!どうする?どうするって?」
「私は貴方達と、これ以上の先に進むのは危険だと判断した」
「はあ?!」
「ここから引き返すが、貴方達はどうする?」
「ふざけんな!」
「そうよ!魔石も何も集めてないのに!」
「そうだよ!帰れる訳ないだろ!」
「ではここでお別れだ」
「ふざけんな!」
「それこそ契約違反でしょ!」
「貴方達がな」
「何ですって!」
「ところで貴方はどうする?」
元僧兵はよそ見をしていた斥候に声を掛けた。
「アンタも言ってやれよ!」
「そうよ!何で何も言わないのよ!」
「いつもみたいにオマエもコイツに言ってやれ!」
「キミら!うるさい!黙れ!」
いつもヘラヘラしている斥候が怒鳴ったのに驚いて、三人は声を失った。
斥候は耳に手を当てて、道の先を探る。
「みんな。静かに逃げよう」
「え?」
「どうしたの?」
「何かあるのか?」
「魔獣の気配が濃い気がする。なんか臭うだろ?」
「え?そう?」
「気の所為ではないの?」
「ああ。何も感じないけど?」
「キミはどうだい?」
斥候に訊かれて元僧兵は首を傾げた。
「全く分からない」
「キミ、ヒーラーだろ?」
「・・・貴方達のヒーラー像が歪んでいるのは分かったが、御覧の通り私の拳は血だらけだ。血の臭いしかしない」
「・・・顔にも血が付いてるぞ?」
「うん?そうか?」
「取り敢えず、静かに逃げよう」
そう言うと斥候は音を立てずに歩き始める。その後を元僧兵が顔を拭きながら続く。
「え?おい?どうする?」
「アンタがリーダーだろ?」
「そうよ、あなたが決めなさいよ」
「あ、じゃあ、『輝きの光』のみんな、今日はこれで」
「あ!なんか聞こえた!」
「ホント?逃げましょう!」
「ああ!アンタも早く」
「ほら!リーダー!逃げるわよ!」
「あ、ああ、おお」
『輝きの光』は無事にダンジョンから出たけれど、元僧兵以外は出入り口で倒れこんだ。体力が尽きていたのだ。