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会話

 ハルは届けられたバッグを受け取って、軽い事に驚いた。


「これだけか?」


 届けに来た年配の男は「ああ」と答える。


「王宮に入る際に預けた剣は、まだ返せない」

「それは分かるが」


 バッグの中身を出して確認していたハルは、険しい表情を作った。


「魔石などは?」

「魔石?いや。バッグの中身は現場に落ちていたままの筈だが?」

「肉もポーションも入っていないな」

「何?どれだけの物が足りないのか、分かるか?」

「いや。中身はリルが管理していたので、詳しい個数は分からない。だが魔石も魔獣の肉もポーションも、バッグに入れてあったがなくなっている」

「牢に入った女性が持っている可能性はない筈なのだが」

「そうだな。管理はどうなっているのだ?」

「確認しよう。しかし正確な個数が分からないと、確認も難しい。あるいは女性の持ち物として扱われ、別管理になっているか」

「わざわざバッグから出してか?」

「いや、分からん。とにかくそれも視野に確認をしよう」

「ああ。頼む」


 年配の男は難しい顔をして帰って行った。



 荷物の中にはハルの目当ての物があった。手鏡だ。

 しかしハル用とリル用の両方ともバッグに入っていたのは計算外だった。

 ハルは自分用の手鏡に魔力を流した。するとリル用の手鏡が振動する。


「それはそうだな」


 リルの事だから手鏡が手元になくても、連絡を取る為に新たな手鏡を作るかも知れない。

 しかしリルは今、牢に入れられている。魔法が使えない様にされている筈だ。


「それならそもそも、手鏡も使えなかったか」


 ハルは自分の考えが甘かった事に、苦い顔をした。

 そこへ、手に持ったハル用の手鏡が振動した。


「え?」


 魔力を込めると手鏡に映った自分の顔が、リルの姿に切り替わる。


「リル!」


 鏡の中のリルは、人差し指を唇の前に立てた。

 そして鏡に指で文字を書く。左右が逆さになった鏡文字だが、ハルはそれを読み取れた。


「盗聴は大丈夫?」


 ハルも鏡に文字を書く。


「されているかも知れない。色々な魔力の流れを感じる」

「無事なのね?」

「ああ。無事なのか?」

「うん。どうする?」

「どうとは?」

「脱獄しない方が良い?して良い?」


 ハルは思わず頬を緩めた。


「しなくても大丈夫か?」

「うん。待てる」

「ではまだ待っていてくれ」

「分かった」

「辛い思いをさせて申し訳ない」

「全然」

「リルが無事で良かった」

「ハルも無事で良かった」

「リル。大好きだ」

「もう!」


 最後にリルの怒った表情を映すと、手鏡に映るのはハルの顔に切り替わる。

 自分がリルに向けていた表情がハルの目に映った。


「無事で良かった」


 ハルは目を瞑り、両手で掴んだ手鏡に額を付け、そう呟いた。

 わざわざ「もう!」と書いたリルが、ハルは堪らなく愛おしく思えた。



「もう!」


 リルは鏡に流す魔力を切ると、仰向けに横になった。


「そんな事、言ってる場合じゃないのに」


 そう言いながら表情がだんだんと緩む。


「無事で良かった」


 そう呟いてリルは目を瞑った。


 ハルは脱獄を待って欲しいと言っていた。

 ハルの方で何か計画があるのかも知れない。

 そう言えば自分の状況を伝えた方が良かったかも?とリルは思い付く。脱獄なんて言ったけど、牢に入っている事も伝えていない。

 リルは体を起こして魔力を流し、壁を鏡にしてみた。

 牢の中を照らす光魔法で、鉄格子も見えて鏡に映っている。

 その事をハルは何も言っていなかったから、私が牢に入れられてる事は知ってたのね、とリルは思った。


「なら良いか」


 リルはまた仰向けになって目を瞑る。


 ハルは通信できた事に驚いていた。つまりまだ自分と会話する準備が出来ていないかも知れない。自分も話す事を決めていなかった。

 また後で連絡が来るだろう。

 その時の為に、何を話すか、考えておかなくちゃ。


 リルは光魔法を消して、暗い牢の中で、考えを整理した。



 ハルは夜、暗い室内のベッドの上で布団を被った状態で、手鏡に魔力を短い時間だけ流す。

 リルから直ぐに折り返し応答があって、ハルは通信を繋げた。


「ハル?」


 ハルは手鏡に文字を書くが、リルには通じない。


「真っ暗で見えないんだけど、何か書いてる?」


 リルにそう書かれてハルは「申し訳ない」と声を出した。


「待って!喋らないで!待ってね?」


 そう言うとリルの周囲が明るくなる。それは手鏡を通して、ハルの布団の中を明るく照らした。


「布団の中よね?外に光、漏れてない?」


 リルに訊かれ、ハルは布団の中に手鏡を置いたまま、外に顔を出した。室内は暗いままで、布団も光っては見えない。


「大丈夫」


 布団の中に戻ったハルが書いた文字は、今度はリルにも読めた。


 2人はその夜遅くまで、お互いの現在の状況と今後どうするか会話をした。

 そして大体の方針が決まり、お互いに惜しく感じながらも会話を終了させる。


「最後に、少しで良いからリルの声を聞かせて」


 ハルにそう書かれてリルは肯いた。


「おやすみ、ハル」

「好きだよ、リル」

「もう!」


 リルは魔力を切ると仰向けになる。

 色々と会話ができた事で安心して、リルの頬は緩んだ。


 翌日。

 リルは壁にもう一つ、寝っ転がっても使える位置に鏡を作った。

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