低級と下級
リルは魔力が回復して来たので、手鏡を作ろうとした。
ハルはあれで助かった筈。鍵を持っていた男の言葉でも、不自由はしていなそうに思えた。それならハルはきっとリルに、連絡を取ろうとする筈だ。
リルの両手には魔力を散らす手枷がはめられている。手枷を壊すと面倒な事になりそうなので取り敢えず手枷はそのまま、足を使って手鏡を作ろうとしてハタと気付いた。手鏡を作っても手で持っては使えない。手枷はまだ壊したくない。どうしよう?
そこでリルは手鏡を2つに分ける事にする。
1つはアンクレット。鏡の機能はないけれどハルの魔力波を刻んで、ハルから連絡が来たら振動させる。こうすればいつ連絡が来ても分かるし、傍に誰かがいても気付かれない。
もう一つは牢の壁を手鏡の代わりにする。手で持たなくて済む様にだ。普段の見た目は壁のままで、リルが魔力を流すと鏡になる。ハルの魔力波も魔法陣も、壁の中に隠した。
ハルから連絡を受けられる様に準備出来たので、リルはポーションを作る事にした。
男が持って来た箱には下級ポーションを作る為の器具と魔草、それに魔石を細かく砕いた粉が入っている。
「この粉、なんだろう?」
リルがポーションを作る時には魔石の粉は使わない。
魔力枯渇をしたハルを助ける時は、今回リルは魔石の魔力を吸い出して使った。
「もしかしたら、ポーションを作る時の魔力を補充する為?魔石のままだと脱獄に使えたり?分かんないけど」
そう言えば、とリルは思い出す。オフリーの商店の店主が下級ポーションの作り方を説明した時、魔石に付いて何か言っていた。
「確か、魔石も魔草も自分達で用意しろ、だったけど、魔石を砕いて欲しいなら金を取るとか?うん。そんな事を言ってた気がする」
そうするとこの粉は本来、下級ポーションを作る時に使うのかも知れない。
リルは試したくなったが取り敢えず、いつものやり方でポーションを作ってみる。ただし魔力を込めるのは足からだ。
ポーションの瓶は牢の壁を材料にした。
「う~ん?何とか出来たけど、効率が悪い。魔草の鮮度が悪いのもあるし、やっぱり魔力が散り易くて神経を使う」
いつも通りに数本作ったところで、魔石の粉を試しに使ってみる事にする。
リルは魔力を込めるタイミングで、魔石の粉を投入してみた。すると出来上がったのは透明なポーション。売られていた下級ポーションとそっくりだった。
「ええ~?これがホントの下級ポーションなの?探知魔法だと大分効果が弱いみたいだけど?」
リルは飲む気にはなれなかったけれど、取り敢えず味見だけしてみた。
「確かに不味くない。でも効果がやっぱり薄そう。それに魔石を使ってるのに飲んじゃって平気なの?」
リルは少し考えて、その下級ポーションを捨てた。
そして魔石の粉から魔力を取り込む。リルは自分の足先から魔力を消して、そこから魔石の魔力を取り込んだ。足先に入って来た魔力は移動させ、足先を常に低魔力状態にして、魔石の粉から可能な限り魔力を取り込む。そして魔力を失った魔石の粉は、牢の壁に埋め込んだ。
「ポーションの作り方が違う事、わざわざ教える必要ないよね」
マゴコロ商会のスルリに杖を取り上げられたのも、この方法のポーション作りなら、作る時に魔法を使わなくて済むからかも知れない。温度管理にリルは熱魔法を使ったけれど、それも器具を使えば代用できる。
杖を取り上げられてからリルが味わった苦労を思い出すと、箱を持って来たスルリに似た雰囲気の男に、情報を渡す気にはなれなかったし、渡す必要もリルにはない。
「じゃあ続きを作ろうかな」
そう言ってリルは魔力を回復させる為に、低級と呼ばれていた先程作ったポーションを1本飲んだ。
それはいつも通りに不味かったけれど、効果も性能も安全性も、いつも通りのポーションだった。