国王への報告【傍話】
ハルと会話をした年配の男が、国王の私室を訪ねた。
「国王陛下。ご報告に参りました」
「ああ。冒険者達はどうだった?」
「2人とも意識を取り戻しております。ただし女の方は壁破壊の犯人として捕らえられておりました」
「やはりそうか。女は何か言っておったか?」
「その女には会えておりません。牢を管理する者の行方が知れず、会う事が叶いませんでした」
「そうなのか?」
「はい。ですので生きているかどうか、本当に牢にいるのかどうか、今のところ不明です」
「ふむ。しかしあの2人は余が王宮に招いたのだ。余の名を出しても駄目であったのか?」
「はい」
「となると王妃達の手が既に回っておるのだろうな」
「そうであろうとわたくしも考えます」
「男の方はどうだ?」
「そちらは会う事が出来ました」
「そちらにはまだ手が回っておらんのか」
「その様です。女が壁を壊したとするなら、男には罪はありません。魔獣達を倒した英雄ですし、取り敢えず監視下に置いただけで良しとしておるのでしょう」
「なるほどな。魔獣を倒す様な男を下手に拘束しようとして、暴れられても困るだろう」
「はい。ですが強い魔力が確認された件に付きましては、何も知らない様でございました」
「そうなのか?あれ程強力だったのに?」
「はい。気付いてもいない様子です」
「鈍い、で済むのか?」
「あるいはそれ以前に、意識を失っていたのではないかと」
「あの魔力、あの場から発生していたのであろうとの報告であったな?」
「はい」
「現場がどれ程の状態であったのか、想像するしかないが、たとえ気を失っていても目を覚ますのではないのか?」
「普通でしたらそうでございます」
「それは、何か普通ではない理由が見付かったと言う事か?」
「はい。根拠としては弱いのですが、あの冒険者の男、見覚えがあるような面立ちです」
「ほう?どう言う意味だ?」
「王家の方々、特に先代国王陛下の若い頃に似ております」
「父に?」
「はい。そして瞳と髪の色合いは、先代陛下より国王陛下に似ておりました」
「余に?」
「はい」
「余の兄弟、つまり父の落とし胤と言う事か?」
「先代陛下かそれ以前の方達に縁付くのかは分かりませんが、本人はその様な素振りは見せませんでした。そして土魔法が少し使えるだけだそうで、他は使えないとの事ではあるのですが」
「そうなのか?光魔法も?」
「使えないそうです。しかし、隠している可能性はございます」
「王家に列ぶ者なので、あの魔力を現したと?」
「そう考えますと、辻褄が合います」
「神官に、鑑定をさせたいところだが」
「ええ。神官が真実を口にするかどうか」
「いや、しないだろう。隠しておいて画策に使う筈だ。その男が王家の血を引くかどうかは置いておこう。英雄として讃えるのは難しいか?」
「今のまま、男1人を英雄とするのは無理な様に感じました。女を何とかしないと難しそうです。ただの冒険者仲間ではなさそうですので」
「男女の仲と言う訳か」
「はい。そして宰相達が女を犯罪者にすると言うのなら、女を無罪にするのは難しいかと存じます」
「男に他の女を宛がってはどうだ?女の事を諦めないか?」
「試してみますが、魔獣を倒した英雄だと言っても所詮は平民です。町娘なら喜んで相手をするでしょうが、王宮に立ち入れる身分の者では平民の相手をしたがる娘はなかなか」
「生娘ではなくても良いだろう?」
「もちろんですが」
「その手の女もいたのではなかったか?」
「今はそういう女達は宰相陣営に付いております。下手に使おうとしますと、こちらの足を掬われかねません」
「そうか」
「それよりは魔獣から王都を救った英雄として立つ事で、女を救えるとした方が、男に言う事を聞かせられそうです」
「分かった。それで良い。それに付いては任せる」
「畏まりました」
「男をくれぐれも宰相達に奪われない様に」
「それは心得てはおりますが、出来る限り早く男をその気にさせる事で、宰相達に男の身柄を奪われたとしても、国王陛下の味方として行動させる事を狙います」
「そうか。そうだな。その筋が現実的だな」
「はい」
男と国王はその後も、報告や指示を遣り取りしたが、どれに付いても王妃と宰相の影が掛かる話ばかりだった。