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嫌いな相手

 食事が済んで出されたお茶を前にして、ハルがリルの事を考えていると、ハルの見知っている男が尋ねて来た。

 ハルは顔を蹙めそうになるのを(こら)える。


「お前が魔獣を倒した冒険者か」


 男は椅子に座っているハルを見下ろしてそう言った。

 男はハルが誰だか気付いていない。

 ハルとは因縁のある相手で、相手はハルを嫌っていた筈だ。立場上反撃できないハルを揶揄う様に、何かとちょっかいを出された。そう考えると、気付かれていないのなら、余計な事はされないだろうから良かったと思える。ちなみにハルも当然、相手が好きではなかった。


「あなたは?」


 ハルも相手を知らない事にする。嫌悪が表に現れない様に気を付けた。


「お前に名乗る必要はない。住む世界が違うので、仕方がないから許してやるが、口と態度に気を付けて、私が訊いた事に答えろ。お前が魔獣を倒していた冒険者だな?」

「ええ」

「そこは『はい』だ」


 ハルはカチンと来た。「ああ」と返したかったけれど、気を遣って「ええ」を選んだのだ。それなので今度はわざと「そうか」と返した。


「なんだ、その言葉は?!『はい』だと言ってるだろう!」

「ああ。分かった」

「貴様!」


 男が掴み掛かって来るので、ハルは体をずらして男の手から逃げていく。

 そのハルの動きに釣られて男は重心を動かし、ハルが中腰のまま椅子から体を離すと、男は椅子に躓いた。

 ハルは自分が手を出していない事を明らかにする為に、男から離れたところに立つ。

 転びそうになった男はテーブルに手を突くが、中心を一本足で支えている丸テーブルはどっしりと安定した作りの筈なのに、男の体を支える事なく傾く。

 椅子の上に腹這いになった男の上に、傾いた丸テーブルの上からカップやら花瓶やらが滑り落ちた。花瓶は男の頭に当たって音を立てたが割れる事はなく、男も怪我をしなかった。目に見える男の被害は、ハルの飲みさしのお茶が掛かったくらいだ。


「痛い!あ!熱い!」


 椅子の上で体を捻ったので、男は椅子から転げ落ちた。椅子と丸テーブルの間に、男はテーブルクロスを巻き込んで落ちる。落ちてからも「熱い!」と転げるので、テーブルクロスが男に巻き付いて、簀巻き状態になった。

 兵士やメイドが慌てて声を掛けるが、その顔は笑っていた。

 お茶は飲み頃の筈でそれ程熱くはないのに大袈裟だと呆れて見ていたハルも、さすがに男が気の毒になって、花瓶を拾い上げると花を抜き取り、男がお茶を被って熱がっていると思われる場所に、花瓶に残っていた水を掛けた。


「冷たい!」

「大丈夫か?」


 ハルは椅子を退かし、テーブルクロスの端を持って男を転がす。転がりながら男はテーブルクロスから出て来た。


「火傷か?」


 俯せになっている男のシャツの、お茶で変色した部分にハルが触れると、男はハルの手を振り払った。


「貴様!」


 男は床に座り込んで、傍に立つハルを睨み上げる。


「立てるか?」


 ハルが差し出した手を男が叩こうとするので、ハルは手を避けた。

 全力でハルの手を叩こうとして空振りをした男の腕が、びっと音を立てる。


「痛い!」


 男は腕を抱えて蹲った。


「大丈夫か?」


 男は腕を押さえながら痛い痛いと床の上で騒ぐ。先程熱がっていた時にしろ大袈裟だ、とハルは呆れた。しかし男は剣の鍛錬などしなかった筈なので、痛みに慣れていないから仕方ないのか、とハルは思い直した。

 ハルはオロオロとしている兵士に告げた。


「筋を痛めた様だ。医師を喚ぶか、医務室に連れて行った方が良い」


 兵士が肯いて扉の外に連絡する。

 ハルは丸テーブルを直し、椅子に腰掛けると、オロオロとしているメイドにお茶のお代わりを頼んだ。

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