牢の中にひとり
リルは意識を取り戻し、薄らと目を開けた。
「ハル!」
目を見開いて慌てて体を起こそうとするが、腕が搦んで失敗をする。
リルは寝転がったまま、周囲を見回した。
「え?・・・ここ、どこ?」
周囲には明かりがなく、遠くの壁が辛うじて明るい。
そしてハルは見当たらなかった。
「ハル?」
リルは探知魔法を撃とうとして失敗する。
「え?」
腕を上げると、両手に手枷が着けられていた。
「なにこれ?」
手枷に対して探知魔法を使おうとするとまた失敗する。周囲に対して探知魔法を使っても、やはり失敗をした。
どうやら腕を通る魔力が、手枷を潜った時に散らされる様に感じる。
「魔導具?」
試しに脚で探知魔法を撃ったら成功し、少し魔力が散らされるけれども、周囲の状況が読み取れた。
ハルは見当たらない。
鉄格子がはめられた檻の様なところに入れられているが、どうやら牢屋の様だ。
「え?女子牢?」
牢は幾つもあるが、入れられているのはリル1人だけ。
「ハル、大丈夫かな?」
独り言がリルの口を吐く。
だが考えてみたら、自分も結構な状況に置かれている。
何やら不衛生な場所なので、リルは脚を使って自分の牢にだけ清浄魔法を掛けた。やはり魔力が散らされて多目に消費したけれど、かなりサッパリした。
試しに手で清浄魔法を撃つと、やはり手枷が魔法を邪魔する様に思える。しかし肘からは撃てた。
「手だけ魔法を使わせない魔導具?なんの意味があるんだろう?両手を拘束するのが目的なら、魔導具じゃなくても良いと思うけど?」
仰向けになったリルは両脚を真上に上げて、反動を付けて上半身を起こす。両手を前に突いて立ち上がった。
「両手の拘束も今ひとつだし」
リルは両手を前に伸ばし、鉄格子を掴んでみた。
「あ!杖を使う人なら、魔法が使えないのか!なるほどなるほど」
納得出来てリルは何度も肯く。しかし直ぐに首を傾げた。
「でも、そう言う人達からは杖を取り上げれば、あ、そうか。カトラリーとかを杖代わりにされない様にしてるのね」
リルはまた、何度も肯いた。
納得は出来たけれど、リルは独り言を言う自分が、大分寂しく感じてしまった。
「・・・ハルを助けなきゃ」
魔法を使えば牢は簡単に出られるし、手枷自体も簡単に外せる。けれどそれが今後にどう影響するのか分からない。
牢屋に入れられたのがハルの正体に絡む話が理由なら、冤罪で投獄されたのかも知れない。それなのに脱獄をしたら、本当に罪を犯す事になる。そうなったらハルの足を引っ張ってしまう事になるだろう。
「あれ?そう言えば、壁を壊しちゃったけど、もしかして、その罪で?」
あれはハルを守る為だったので仕方がないのだけれど、弁償するまでは牢から出して貰えないのかも?
今分かっている情報だけだと、どうしたら良いのか分からない。
リルは周囲を見回して、探知魔法で出来るだけ遠くまで探るが、情報は増えなかった。
眉根を寄せて考えていたリルは、「そうだ」と手を打とうとしたが手枷が邪魔で出来なかった。
リルは自分に探知魔法を掛けた。
魔力は大分戻っているけれど、これは目を覚ます迄に結構時間が過ぎたのかも。しかしハルが魔力枯渇を起こした前回の事を考えると、ハルはまだ目覚めていないかも。
自分は怪我をしている。擦り傷と打撲だから、ここまで運ばれた時のものだろう。少し考えて、治療魔法を自分に掛ける。自癒魔法でも良いけど、あの痛みが少しトラウマになっていた。
体力も減っているが、理由は分からない。空腹だからか?
取り敢えずリルはこれ以上体力を消耗しない様に、土魔法でベッドを作って横になった。やはりいつもより魔力を必要としたので手抜き版だ。どうせ自分しか使わないから構わない。
「もしかしたら怒られるかな?出る時にきちんと直せばバレないだろうけど」
怒られるとしても、床に直には寝たくない。体が冷える。体力が奪われる。
「まあいいや。怒られたら証拠隠滅すれば、罪に追加は出来ないよね?」
そう言って肯くとリルは目を閉じて、魔力を回復させながら、今後の方針を考える事にした。