魔石の使い途【傍話】
座っている王妃の前に、宰相が魔石を差し出す。
「こちらです」
「あら」
宰相は王妃の横に周り、魔石をテーブルの上に置くと押し滑らせて、王妃の真正面に移動させた。
「これをテロリストが持っていたの?」
「はい」
「国宝級じゃない」
「そうですな」
「どこで手に入れたの?」
「まだ意識が戻っていないそうです」
「意識?女をまだ生かしてるの?」
「はい。色々と罪を犯していそうですので」
「ああ。そうやって使う予定なのね」
「はい。男と共に魔獣を倒しているところを見られています。2人を救世主などと言う者も現れておるそうですので」
「なによその不愉快な呼び名は?」
「本当ですな。それですので、そんな風に2人を持て囃す者達ごと処分出来る様に、準備をしているところです」
「そう。それなら任せるわ」
「畏まりました」
「でも処刑する前に、どこで手に入れたのか、もっとないのか、訊き出してね?」
「もちろんでございます」
「男も生かしてあるの?」
「それが、男は被害者と目されておりますので」
「処刑しないの?」
「女との関係性次第でございますな。かなり腕が立つらしいので、それなりの使い道もあるかと」
「男は魔石の事を知ってたの?」
「男もまだ、意識が戻っておりません」
「そうなのね」
「女との関係を質し、使えない様でしたら女と一緒に処刑いたします」
「ええ。それで構わないわ」
「畏まりました」
「それで?これは私が貰って良いのよね?」
「もちろんでございます。どの様にお使いになりますか?」
「どの様にも、装身具には出来ないでしょ?」
「大き過ぎますな」
「そうよ。だから杖に使おうと思って」
王妃は傍らの杖に手を伸ばした。
「この杖も大分魔力が減っちゃったから、この魔石で補充するわ」
「なるほど。畏まりました」
「手配して貰える?」
「もちろんでございます。承りました。しかしそうなりますと、聖女様の杖をお預かりしなければなりませんが、よろしいでしょうか?」
「職人を喚んでよ」
「聖女様の御前にですか?」
「あら?駄目なのかしら?」
「どうでしょう?お目を汚す事になるかも知れませんので」
「そうなの?そんな職人しかいないの?」
「調べてはみますが、聖女様の杖を調整させるのです。腕が一流である必要がありますが、その様な者は得てして容姿に無頓着であったりしますし、使い慣れていると言うだけで、汚らしい道具を持ち込もうとする事もございますから」
「多少は汚くても我慢するわ。でも、私に我慢できても、宰相には難しいかしら?」
「いいえ、聖女様。聖女様がよろしいと仰るのでしたら、わたくしに取っての我慢など、ほんの些末な事に過ぎません」
「そう?初めて会った時、顔を蹙めて無かった?」
「いえいえ、聖女様。聖女様のあまりの神々しさに、目が潰れそうなのを堪えていたのでございます」
「良く言うわ」
「お褒めいただき、光栄にございます」
宰相が慇懃な礼をするのを見て、王妃は声を出して笑った。
「まあ良いわ。時間が短いなら預けても良いから。最近は調子がとても良くて、少しの間なら杖がなくても大丈夫そうだしね」
「聖女様のご回復、わたくしも心の底から嬉しく感じております」
「宰相にも長い事、心配掛けたわよね」
「いえいえ、わたくしは聖女様のお力を信じておりました」
「そう?私の事、心配してくれなかったの?」
「聖女様に恙なく健やかにお過ごし頂ける様にとは、わたくしは常に心を砕いております。聖女様の目に邪なものが触れない様にとは、わたくしも心配致しておりますので」
「もう。後でちゃんと聞かせて貰うからね?」
「聖女様のお心のままに」
また宰相が慇懃な礼をして、王妃はそれを見て楽しそうな笑みを零した。