表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
128/138

古馴染み

 ハルをテーブルに着かせ、男は自らお茶の用意をする。

 部屋にはハルと男の2人きりだった。


「まさかあなたに会うとは」

「それはこちらの言葉です。あの、なんとお呼びすればよろしいでしょう?」

「ハルと呼ぶ様に頼む」

「畏まりました。ハル様」

「ハルと呼び捨てて構わない。同席した彼女の前では、必ずそうして欲しい」

「そうですか。畏まりました。実はハルはもう、お戻りになられる事はないと思っておりました」

「そうか。私はどの様な扱いとなったのだろうか?」

「亡くなられた事になっていますが、ご存知ありませんでしたか?」

「ああ。街にはあまり寄る事なく、戻って来たのだ」

「ご自分の葬儀の事も?」

「そうか。耳にする事はなかったが、やはりそうか」

「イラス殿下が立太子なさいました」

「何?これ程早く?」

「はい。近く、婚約式が催されます」

「相手は宰相の?」

「はい。御長女です」

「そうか」

「国王陛下は、あなたの無事を信じていらっしゃいましたが、様々な事柄を王妃陛下と宰相が推し進めたのです」

「そうなのか」

「そして国王陛下は現在、軟禁されていらっしゃいます」

「何?陛下が?何故だ?」

「今後、今回の魔獣騒動の責任を追及されそうです。それなので、間違いが起こらない様にと監視が付けられています」

「何故?何故だ?あなたが付いていながら、何故その様な事態に?」

「わたくしは既に外されているのです。今日、この場にいるのも、職を移されたからなのです」

「そんな、あなたほどの人を何故?」

「国王陛下に重用(ちょうよう)頂いておりましたが、それを目に付けられたのでしょう。職務に相応しい能力がないのに、国王陛下に気に入られただけで席を与えられていると」

「陛下は、何かと手を打って下さらなかったのか?」

「国王陛下の側近が次々と狙われました。わたくしより上の立場の方々もです。国王陛下も救おうとして下さったのですが、わたくしは国王陛下の手のひらから零れてしまいました」

「その様な」

「ええ。わたくしの経歴はハルの先導役から始まりました」

「あ、ああ、そうだな。幼き頃、あなたに剣を教えて貰った」

「それに付いて、幾つかのわたくしの発言を捉え、わたくしの忠誠が国でも国王陛下でもはなく、ハルに向かっているのだと言われたら、真っ向から否定するのはわたくしには難しかったのです」

「その様な事。私の所為だと」

「いいえ。ハルの所為ではございません」


 男はハルにお茶を勧め、ハルはそれに口を付ける。

 男もハルの正面に座り、カップを手に持った。


「歳が近いからと、ハルの剣の先導役に任命されましたが、わたくしは直ぐに抜かれてしまった。そう言う意味ではわたくしは、あの頃から力不足だったのかも知れません」

「抜かれたなどと、なかなか勝てなかったではないか」

「それはありありルールの話でしょうか?」

「呼び方は忘れたが、実戦形式の試合でだ」

「遊びでならそんな事もございましたが、正式な試合では直ぐにハルに負けたのですよ」

「そうだっただろうか?あなたには色々と負けて悔しかった事は覚えているが」

「不思議でございますね。わたくしもハルに負けて悔しかった事は、良く覚えておりますよ」

「そう言うものなのかも知れないな」

「もちろん、勝った時の事も多少は覚えてはおります。ハルは正直な(かた)でしたから、フェイントには良く釣られて下さいました」

「ああ、覚えている。次には同じ手に掛からない様にしていると、別の手にまんまと嵌まったものだ」

「そうでした。同じ手はハルには通用しませんでした」

「それでも次々と新たな手を出して来られ、負けて心底悔しかった筈なのだけれど、私は次の手を楽しみにもしていたのだ」

「わたくしもです。わたくしも新たな手を考え出すのはとても辛かったのですけれど、ハルが狙いに嵌まってくれた時は心底嬉しかったのですが、まあ、昔話はこの辺りにしておきましょう」


 男はカップをテーブルに置くと同時に、反対の手でナイフを投げた。

 ハルは反射的に全力で、体を仰け反らせながら土魔法を使い、床を変質させて盾にする。

 その盾はテーブルを天井まで吹き飛ばしながらも、男の投げたナイフを防いだ。

 ナイフを避けようとしていたハルは椅子から転げる。

 ハルが床に落ちるより先に部屋の壁が吹き飛び、そして壁に開いた穴からリルが室内に飛び込んで来た。

 リルは倒れているハルに抱き付くと、ハルの作った盾と壁の瓦礫も利用して土ドームを作り、自分達の体を包んだ。


「ハル!」


 リルはハルを仰向けにして、額と胸に手を当てる。探知魔法で探るが、ハルは怪我をしていない。毒を飲んでも浴びてもない。

 しかし土魔法と肉体強化を使った所為で、ハルはまた魔力枯渇に陥っている。ハルはナイフの回避と盾を作る事に全力を出してしまった為に、魔力を使い切っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ