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王宮へ

 その日の夕方。

 ハルと一緒にリルも、王宮を訪れていた。

 王宮を目の前にしてリルが囁く。


「ハル」

「リル?大丈夫か?」


 案内している男に聞こえない様に、ハルも囁いて返した。


「やっぱり、ヤな感じが強くなった」

「行くのを止めるか?」

「イヤな感じなのに、ハル1人では行かせられないよ」

「しかし、リルに我慢させるのも」

「我慢?雰囲気がイヤなだけで、行くのはイヤじゃないよ?」

「そうなのか?」

「それにこんなところでそれほど緊張してないのも、イヤな感じのお陰みたいだし」

「そうなのか」

「うん。だから行くのは大丈夫。ただ報告しただけ」

「分かった。でも何かあったら直ぐに教えてくれ」

「うん。分かってる」



 王宮内は装飾品も壁も天井も、柱の1本さえも素晴らしい彫刻がなされていたりする見事なものだったのだが、警戒をしているリルの目には、映ってはいるものの見えてはいなかった。


「リル?大丈夫かい?」

「うん」


 ハルの腕に手を預けてエスコートをして貰いながら進むけれど、リルにはもちろんどこを歩いているかなど分からない。道を覚えられる気もしていないから、リルはハルの腕を放した瞬間に迷子になりそうだった。つまりはリルは、少しも大丈夫ではなかった。


 男に先導されて、1つの部屋に案内される。

 リルとハルが並んでソファに座りながらしばらく待つと、別の男が入室して来た。その瞬間にハルが立ち上がる。リルも真似して腰を浮かしたが、ハルに手で制された。


「お待たせした。立たなくて良い。君達が魔獣を率先して・・・え?」


 ハルは男の傍に近寄る。

 ハルを見た男の顔に驚きが現れたのがリルにも見えた。

 男が口を開こうとすると、ハルは人差し指を立てて自分の口に当てる。


「先に少し話せるだろうか?」


 ハルの囁く声に、男はゆっくりと肯いた。

 ハルは軽く肯き返すと、リルを振り返る。そして腰を折って、顔をリルに近付ける。


「この方と、少し話をして来る」

「えっと、ハル?大丈夫なの?」

「ああ、もちろん。リルも一緒に来るかい?」

「私も、良いの?」

「もちろんだ。ただし」


 ハルは口をリルの耳に近付けた。


「彼は私の正体に気付いた」


 そう囁いて、ハルは顔を離すと、リルに微笑みを向ける。

 リルは手招きをして、ハルに顔を近付けさせて、囁き返した。


「一緒に行ったら、私も正体を聞く事になるよね?」


 ハルはまた顔を離し、リルに肯く。


「ここで待ってれば良いの?外で待ってても良い?」

「直ぐに戻るし、この方からの用事も私達2人にある筈だから、ここで待っていて欲しい」


 ハルはまた顔を近付けると「ここは安全だから」と囁き、微笑みを見せて肯いた。リルも肯き返す。


「うん、分かった。待ってる」

「ああ」


 ハルは男を振り向いた。


「隣の部屋で話せますか?」


 リルもハルも男も使った廊下に繋がる扉ではなく、ハルは別の扉を手で示す。


「ええ。ではそちらの部屋で」

「ありがとうございます」


 男に先導されて扉を潜る時、ハルはリルを振り向いて、軽く手を挙げた。リルがハルに肯き返すとハルはまた微笑む。その微笑みを浮かべたままハルは、隣の部屋に入って行った。


 リルはハルが入って行った隣の部屋の方をジッと見詰める。

 その様子を見て心配しているのかと思った給仕が、気持ちを(ほぐ)そうと、リルにお茶のお代わりを勧めてみた。

 しかしリルは給仕に微笑みを向けながらもお代わりを断って、また隣の部屋との壁を見詰める。

 リルは探知魔法で、ハルの状況を確認していた。

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