第1城壁での討伐
魔獣が残した泥と足跡を追って行くと、建物の上階から顔を出す人もちらほら現れた。更に進むと、リルとハルと同じ様に、泥と足跡を追う人もいる。
そしてだんだんと通りには人影が多くなり、それは直ぐに混雑に変わった。
「この人達、魔獣は平気なのかな?」
「どうだろう。だがどちらにしても、これ以上は進めない。脇に入ろう」
「うん」
混雑を避けて脇道に入る。しばらく進むと直ぐに人影は減っていった。
「あそこだけ?」
「魔獣が通り過ぎたから、出てみたのかも知れないな」
「この辺はまだみんな、建物に閉じ籠もってるもんね」
「この辺りから戻ろう」
「うん」
進行方向を戻し、2人は第1城壁に向かう。
少し進むとまた人影が出て来るので、先の混雑を予想して避けながら、2人は第1城壁を目指した。
第1城壁の前まで辿り着くと、壁から離れた位置に兵士が壁と並行に並んでいる。兵士達は皆、第1城壁を向いていた。
その兵士達の視線の先には魔獣達がいる。
魔獣達は第1城壁の下を掘ったり、第1城壁の上から攻撃してくる兵士達に魔法を撃ったりしていた。
「ねえ?ハル?この人達は魔獣を攻撃しないの?」
「命令が出ていないのだろう」
「それじゃあここで何をしてるの?」
「訊いてみるか」
ハルが兵士に近寄って、1番階級の高い1人に尋ねる。
その兵士は、魔獣が街に逃げ戻らない様に、守っているのだと答えた。
その答えを聞いたリルが兵士に礼を言って、ハルを引っ張って離れた。
「そんな命令、ある?攻撃すれば良いよね?」
兵士達に聞こえない様にと、リルが小声でハルに尋ねる。
「上も混乱しているのだろう。魔獣が街を襲う事など、軍は想定していないからな」
「でも、守ってるなら、少なくとも武器を構えておくべきなんじゃない?」
「そうだな」
「口を開けて眺めてる人も結構いたよ?」
「私語をしていないだけマシだろう」
ハルの答えにリルの眉根が寄り、リルのその表情にハルは眉尻を下げる。
「まあ、兵士の事は軍に任せておくしかない。私達は私達で、魔獣を倒していこう」
「良いの?邪魔するなって怒られない?」
「そこの兵士は大丈夫だ。城壁の上の兵士は手柄を奪ったと、抗議をして来るかもな」
「どうするの?」
「構わない。倒そう」
「ハルのお父さんに、迷惑が掛かったりしないの?」
「父本人は、魔獣が早くいなくなれば、喜ぶ筈だ」
「本人は?」
「周りが何かと言うかも知れないが、それはいつもの事の筈だ。構わない」
「そう。じゃあ、お父さんが喜ぶなら頑張ろうね?」
「ああ」
2人は一応、兵士達の傍を離れてから剣を抜いた。
「面倒臭いのは、私が魔石を撃つね」
「ああ、頼んだ。それ以外は私が剣で倒す」
「うん。魔石は採れたら採る。時間が掛かっても良いよね?」
「問題ない。後から復活して、一般人が傷付いたら大変だ。確実に行こう」
「うん。じゃあ必ずちゃんと採るから、それで」
「ああ。よろしく頼む」
「こちらこそ」
ハルは剣を構える。そこにリルがその場で土魔法で盾を作り、ハルに持たせた。
リルは片手に短剣、もう一方に魔石を持つ。
2人は城壁の上からの攻撃が少ない場所を選んで、魔獣に近付いて行った。
ハルは肉体強化を使った時よりは剣速が落ちていたが、それでも一撃で魔獣を切った。リルが直ぐさま魔石を取り出す。
「背後からだから隙があるのもあるだろうが、簡単過ぎるな」
「そう?こんなもんじゃない?」
「魔獣も柔らかい」
「あ、そうだ。可食部分、確保する?」
「どうせ2人では食べきれないだろう?」
「そうね。ハルはダンジョンの魔獣と比べてるんでしょ?ここにいるのは外の魔獣だから、ダンジョンのより柔らかいよ」
「それもそうか」
「でも、ウリボアがいたら少しお肉を確保したいな」
「ふふっ。それならミディアも頼む」
「分かった。任せて」
2人は会話をしながらも、次々と魔獣を倒していった。
稀に硬い魔獣がいたが、それもリルが魔石を撃ち出して、弾けさせた。
城壁に沿って進む2人は、地上や城壁の上にいる兵士に目撃されていった。
地上の兵から冒険者かと問われる事もあり、そうだと答える。地上の兵士はそれきり邪魔をしたりする事なく、2人が魔獣を倒す様子を見守った。
城壁の上の兵士は、自分の担当位置の魔獣が倒される時に、初めて2人に気付く。そしてその後は攻撃を止めて、2人が遠離って行くのをただ見送っていた。
「少し休むか?」
「そうね。魔獣が穴を掘るには、まだまだ時間が掛かりそうだしね」
「どれくらいだ?」
「今のところ、1番早いのでも、10日は掛かりそう」
「私達がこのペースで第1城壁をひと回りするなら、3日は掛からない」
「なんだ。余裕ね」
「ああ。他にも魔獣を倒す者がいれば、明日には終わるだろう」
「じゃあ休憩」
リルは土ドームを作った。
2人に注目していた兵士達は、いきなり現れた土ドームに驚く。
ハルにはその驚いた声が聞こえていたが、特に近付いてくる様子がないので、兵士の事は気にせずに土ドームに入った。