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大丈夫

 リルは寝ているハルから魔力を引き出し、周囲の探知にも、魔獣を引き寄せる為にも、倒す為にも、地面に沈める為にも使っていた。

 それらに自分の魔力も使っているが、それは魔法発動の為の僅かな量で、実際に魔法を実行する為の魔力はハルから譲り受けていた。


 そのハルからの魔力が突然途絶えた。


「ハル?!」


 リルは咄嗟に土ドームの入り口を塞ぎ、傍に横たわるハルを振り向く。

 ハルはただ寝ている様に見えた。

 リルは土ドームの周囲を探って危険のない事を確認した。ハルの魔力に集まっていた魔獣は、直ぐにも散っていっている。

 腹に触れているハルの手から手を離し、リルはハルの額と胸に手を当てた。

 胸からはハルの鼓動が伝わり、呼吸もしている事が分かる。

 リルは探知魔法でハルの状態を確認した。


 ハルの魔力は枯渇をしていた。


「ハル!」


 体力が減っていっている。体力を消費して魔力を産み出している。


 リルはポーションを取り出すと、2つの選択肢が頭に浮かんだ。

 ポーションを自分で飲むと、ハルに回復魔法を撃つ。


「ハル」


 以前と同様で、ハルに回復魔法を撃っても体力は回復しないし、魔力は回復しているのか分からない。


「大丈夫」


 探知魔法では、魔力枯渇以外の問題は見付からない。


「大丈夫」


 震えを感じてハルの胸元に手を差し入れた。

 ハルの体が熱く感じるが、探知魔法で探ると熱がある訳ではない。却って少し低いくらいだ。それよりリルの指先が冷たくなっていて、震えているのもリル自身だった。


「ハルは大丈夫」


 ポーションをもう一本取り出して、リルはまた2つの選択肢を思い浮かべる。

 ハルが直接飲んだ方が早く効果がある。効率も良い。

 しかしリルはまた自分でポーションを飲んだ。

 ハルに回復魔法を撃つが、魔力は回復しているのか。


「絶対大丈夫」


 自分が回復魔法を使っているのか、分からなくなってくる。

 魔力は消費している。次のポーションを飲む。

 体に染みついている魔法の発動を確認しながら撃ちだす。


「大丈夫。間違ってない」


 もう一本飲む。魔力の流れも確かめる。


「大丈夫。ハルは魔力を漏らしてない。あの時とは違う」


 不意に不安が込み上げて、ハルの心拍と呼吸を確認する。


「大丈夫」


 丁寧に丁寧に、細心の注意とありったけの想いを込めて、回復魔法を撃つ。


「よし、体力の減少は止まった。大丈夫」


 回復魔法を撃ち、また撃つ。


「大丈夫」


 次のポーションを取り出す。

 体温が少し低い所為で、色の変わったハルの唇が目に入る。

 もっと色をなくしている自分の唇にポーションの瓶を当てる。手持ちのポーションを全て出し、ベッドの上に並べた。


「あの時だって助けられたんだ。絶対大丈夫。絶対助ける」


 リルはハルに回復魔法を撃ち続けた。

 ポーションを使い切ると、魔獣の肉で魔力を補充して、また撃った。


「絶対大丈夫」


 ハルの顔色が少し良くなり、それに気付くとリルはハルから離れ、ポーションを作り始めた。

 一本出来たら飲んで回復魔法を撃ち続け、また次を作る。


「ハル」


 やがて、リルの探知魔法でハルの魔力が検知出来る様になった。


「良かった」


 リルはやっと息をする事を思い出せた気がした。


 ハルは魔力を漏らしていない。

 体力も減っていない。分からないけれど魔力は回復していっている筈。

 脈も呼吸も少なめだけど、睡眠時だと思えばしっかりとある。体温もさっきよりは上がって来ていた。

 これで大丈夫だ。


 リルはハルの隣に横になる。


「ハル。ごめんね」


 リルはハルの胸に手を当てて、ハルの肩に顔を付けながら目を瞑った。



 土ドームの外からの音でハルが目を覚ますと、隣にはリルが眠っていた。


 土ドームの入り口は閉じられている。

 外から僅かに音が聞こえて来るが、魔獣がいるにしては静かになっている。

 しかし寝ている間に、魔獣を倒し終えたとも考え難い。

 体を動かすと、ポーションの空き瓶がベッドの上に転がっていた。下にも転がっている。

 リルをみると、その顔には疲労が見て取れる。リルと寝顔を見ない約束をしていたのに見てしまった事に気付いたハルは、慌てて視線を逸らして、心の中でリルに謝った。

 外から聞こえる何かの音は気になるが、リルに探知して貰ってからではないと、入り口を開くのは危険だ。

 それに、自分が寝ている間は魔獣を倒している筈だったリルが、自分の隣で眠っているのには、何か重大な理由がある筈だ。


 ハルは体のだるさと少しの頭痛を覚え、寝過ぎの所為かとも思ったけれど、リルが起きるまでは横になっている事を決意して、気になる外の音が聞こえない様に、土ドーム内にもう一重のドームをベッドを覆って作る。

 するとベッドに横になっているのに眩暈がした。貯まり始めた魔力を使ってしまっていた事に、ハルは気付いていなかった。

 ハルは胸に載っているリルの手を握り、もうひと眠りしようと目を閉じた。



 少しは魔力を回復したハルと、多少は疲れが取れたリルが目を覚ました時には、第2城壁の中に魔獣が侵入していた。

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