第2城壁での攻防
王都は王宮を中心に作られている。その中心を含み、第1城壁に囲まれている部分は第1層と呼ばれた。
第1城壁と第2城壁の間は第2層。
そしてリルとハルは第4城壁を越えて第4層に入り、第3城壁の前まで来ていた。
「中にいっぱいいるみたい」
「そうだな」
「どうする?第4層に残ってないか、ひと回りしてみる?」
「残っていても後回しで良いのではないか?」
「そうだね。第3層を片してからにしようか。どれだけいるんだか分かんないけど」
第3城壁の城門を壊し、2人は第3層に入る。リルにはまだ見えなかったが、ハルには第2城壁に取り付く魔獣の姿が見えた。
「傍まで行ってみよう」
「ここに残ったりは」
「え?今更?」
リルは眉を顰めてハルを見上げた。
「リルをこの場に残す、良い理由があれば良いのだが」
「ないなら言わないでよ」
「だがせめて、先に作戦を立てないか?あの量に1度に襲われたら、さすがに危険だろう?」
「う~ん、私にはまだ一部しか感じられてないけど、やっぱり多い?」
「ああ。私に魔獣の強さが良く分からないからかも知れないが、それでも例えば、虫だらけの部屋に入るのに躊躇うのと同じくらいには躊躇する」
「それはためらうよ。ええ~?そんなにいるの?」
「土ドームで安全を確保して、そこから狙い撃ちをするのはどうだ?」
「そうね。でも、土ドーム作る時の魔力を感じて、襲って来るかも」
「そうしたらリルが素早く作って、そのあと私が硬化しよう」
「うん。入り口はどうする?魔獣が1列に入って来れる様にしようか?」
「そうするとそこに魔獣の死骸が積み上がって、直ぐに塞がるな」
「それはどうやっても同じだから、一カ所で倒して、その下をどんどん掘り下げていくしかないんじゃない?」
「位置固定で狩るなら、確かにそうだな」
「後は入り口の先に硬い壁。礫が魔獣を突き抜けても城壁を壊さない様に」
「なるほど。入り口の左右にも壁を作るか。撃った礫が魔獣に弾かれても、周囲を守る事が出来る」
「そうね。そしたらその壁を入り口側は狭く、反対側は広くすれば、魔獣が勝手に入り口に集まるね?」
「良し、それにしよう。作るのはドーム、正面壁、脇壁の順で、魔獣が迫って来たらリルは壁が出来ていなくても撃ってくれ」
「あ、なるほど。了解。私が撃ち始めちゃったら、ハルが残りを作るのね?」
「ああ。それでいこう」
「うん」
肯きあって、ハルはリルを抱き上げた。近付いていって急に魔獣が襲って来たら、そのままリルを抱えて全力で逃げる為だ。
第2城壁に近付くと、城壁の上からは人間が魔法や弓矢で魔獣達を攻撃しているのが分かった。
そして下から魔法を撃って人間を攻撃している魔獣もいる。
「魔獣も魔法を使うのだな」
「魔獣に取って魔力ってホントに命綱だから、滅多に魔法は撃たないけどね。魔力切れになると死んじゃうらしいし、減るだけでも防御力や瞬発力に影響あるって言うし」
「そうなのか」
「でも、どっちもどっちね。外の魔獣の魔法は、やっぱりあんまり攻撃力がないみたい」
「ダンジョンの魔獣は、やはり魔法も強いのか?」
「そうらしいよ。危ないから撃たれる前に攻撃してたから、聞いた話だけだけど」
「あまり攻撃力がないと言っても、兵士と同程度には威力がありそうに見える」
「・・・そうね」
「うん?どうしたのだ?」
「壁の上の魔法使い、兵士と冒険者みたいだけど逆に、どちらも外の魔獣と同程度にしか威力がないなって思ってたから」
「リルの知っている冒険者は、もっと強いのか?」
「・・・ハルを見慣れたからかな?攻撃魔法を使えない私が言うことじゃないし、疲れてるのかも知れないしね」
リルは明言を避けた。
2人は警戒をしながら土ドームなどを作るが、立てた作戦は少し無駄になる。
リルとハルがかなり近付いても、土ドームや壁を作るのに魔法を使っても、魔獣達は気にする素振りは見せるけれど2人に向かってくる事はなく、第2城壁への攻撃を止めなかった
「なんか壁の向こうに、よっぽど魔獣が欲しがるものがあるのかな?なんか中から変な雰囲気は感じるけれど」
「変な?王都は元はダンジョン都市だったが、それに関係するのだろうか?」
「良く分かんない。人の気配も多過ぎるし、私達2人だけだと、魔獣には魅力が感じらんないのかもね?」
「だが、どうする?傍から直接攻撃して、いきなり反撃されたら危険だ」
「正面の壁、城壁ギリギリに移せる?幅も広げて」
「目の前の魔獣を押し退ければ、それは出来るが」
「それでハル、少しずつ魔力を漏らしてみてよ。中の魅力に勝てたら、魔獣が振り向いてくれるだろうし」
「分かった。やってみよう」
ハルは正面の壁を動かして、第2城壁に取り付いている魔獣達を後ろから押す。
しかしそれだけでは魅力が足りない様で、魔獣達はハルの作った壁を避けて、第2城壁に取り付き続けた。
正面の壁が第2城壁と重なると、魔獣達は正面の壁に回り込んで、今度はそれを攻撃する。土ドームの2人からは正面の壁に攻撃する魔獣達の背中や尻が見えた。
そこまで準備すると、ハルは少しずつ魔力を漏らしていった。
そして正面の魔獣を中心に、チラチラと土ドームを振り返ったり、第2城壁の中と土ドームとを見比べたりする魔獣が出て来た。
そのままハルが漏らす魔力を増やし続けると、やがて土ドームを目指して走り出す魔獣が出て来た。
「やった!」
「成功だな」
「じゃあ最初の予定通り、倒していくね」
「ああ。任せた」
リルは礫を撃ち出して、魔獣が入り口に辿り着く前に倒していく。魔獣の数が多過ぎるので、魔石同士を打つけるのは大型の魔獣にだけ使う事にしていた。
そしてハルは、周囲の状況を警戒しながら礫を作ってリルに渡し、入り口の傍を少しずつ掘り下げて、倒された魔獣が邪魔にならない様に沈めていった。