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気になる事

 森の中では、魔獣が見付からなかった。


「森の掃除屋もいないから、死骸は残ってるけど」

「奥まで、かなり静かだな」

「魔獣だけじゃなくて、普通の動物も見付からないね」

「鳥の声も聞こえない」

「そうね。魔獣の足跡から外れたら、なにかいるかと思ったけど」

「弱い生き物は遠くまで逃げてしまったのか」

「それとも食べ尽くされたか」


 リルは辺りを見回す。


「取り敢えず、魔草を採取して、道を戻ろう」

「分かった」


 リルは探知魔法を頼りに、ハルはリルに教わった知識を頼りに、2人とも魔草を摘んでいった。



 森の中には、魔獣の大群が移動した跡が残っていた。

 それはオフリーから王都の方向に真っ直ぐに進んでいる。

 そしてその途中には、リルとハルが大量の魔獣を倒した全ての場所があった。


「やっぱり、スタンピードでダンジョンから出た魔獣は、全部倒したのかな?」


 話題を探してリルがハルに声を掛ける。既に何度か口にした話題ではあった。


「私が知っている知識では、スタンピードでダンジョンから溢れる量は、ダンジョンの規模に比例するとの事だが」


 ハルはこれまで他の可能性などを答えていたが、そろそろ答えのネタが思い付かなくなって来ていた。 


「比例してるのかな?」


 リルは本当は他の事が訊きたい。


「そもそも、どうやって量を測るのか、分からないな」


 リルが魔獣の足跡から色々と情報を集めているのを思い出して、ハルはその様な事柄から何か手掛かりが掴める可能性に付いて考えていた。


「そうよね」


 自分から話題を振っておいて、リルの返しは素っ気なくなる。


「そう言えば、集めた魔石を数えれば、途中までの魔獣の数は分かったな」


 ハルには魔石の大きさと魔獣の体の大きさが比例する様に思えた。


「そうね」


 リルはやはりどうしても、聖女の事が気になっていた。


 ハルは出会って直ぐの頃、リルに聖女なのかと訊いた。

 冒険者協会でも、ハルは聖女の捜索依頼の話に質問をしていた。

 オフリーでも、神殿の尖塔のバルコニーにいた女を聖女かどうかと気にしていた。

 聖女が現れたとの神託の事も口にしていた。


 リルにはハルと聖女に、何らかの関係があるように思えた。


 そう言えばハルは神様の加護もあったと言っていた。

 リルにはハルの神様の加護が見られなかったので良く分からなかったけれど、もしかしたらハルと聖女を繋ぐ何かかも知れない。


 そう考えてやっぱりハルに訊こうかと思ったところで、リルは別の話を思い出した。


「ねえ?ハル?」

「うん?どうした?」

「あなた、鬣の魔獣に噛まれても、怪我をしなかったわよね?」

「そうだな」

「もしかしてそれ、前に言っていた神様の加護ってヤツ?」

「確かに健康を授かる加護の筈だったが、これまで怪我をした事など何度でもあるぞ?」

「そうなの?」

「ああ。リルに助けられた時も、私は怪我をしていただろう?」

「そうだけど、う~ん?ちょっと気になるから休憩して良い?」

「ああ。構わないが、何をするのだ?」

「少し試させて」


 リルは土ドームを作って中にベンチを置くと、そこにハルを座らせた。


「ちょっと、引っ掻いても良い?」

「うん?腕をか?」

「そう。噛まれた辺り」

「ああ。構わないよ」


 リルはハルの腕に触れて確かめる。


「普通に柔らかいわよね?力を入れてみて」

「こうか?」


 ハルは腕の筋肉を硬くした。


「うん。筋肉は硬いけど、肌は柔らかそう」


 リルが爪を立てると、ハルの皮膚に血が滲む。


「ゴメン!直ぐ治す!」


 リルが治療魔法をハルの腕に掛けると、直ぐに赤みが消えた。


「内出血みたいなのも治るのか」

「ゴメンね?痛かったでしょう?」

「まあ、普通に。しかしもう大丈夫だ」

「ホント、ゴメン」

「だが魔獣に噛まれた時は、感触はあったが痛い感じではなかったな。血も出ていなかったよな?」

「うん。肌も骨もなんともなかったけど、聖女の魔法の所為じゃないのよね?」


 リルが「聖女」で眉間を少し狭めたから、ハルは苦笑いをしそうになったけれど、眉間に力を入れて「ああ」と真面目な表情で返す。

 しかしその後直ぐに、自分の思い付きに顔が緩んだ。


「俺がリルに弱いだけなのかもな?」

「もう!人が真面目に心配してるのに!」

「申し訳ない。悪かった」


 ハルは謝罪をしようとして、つい崩れた表情になる。そしてリルに心配された事が嬉しい事と、リルとの遣り取りに慣れて自分が大分気易い感じになっている事が嬉しくて、リルにニヤけた顔を見せてしまった。


「もう!」


 リルに叩かれたハルの腕が良い音を出す。そしてその一撃は骨にまで響いて、ハルはかなり痛かった。

 ハルは顔を蹙めたけれど、ニヤけ顔を止めさせる程ではなくて、却ってふざけている印象をリルに与える事になる。


「もう!」


 リルはもう一度ハルの腕を叩いた。

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