オフリーを出て森へ
オフリーの街で、リルとハルがやろうとしていた事は全て済んだ。
瓦礫に埋もれていた遺体は全て掘り出した。
気付かれなさそうな見えないところで亡くなっている人がいる建物には、その旨を記したメモを入り口に残した。
ダンジョンにももう一度入り、リルが知っているよりも魔獣が少ない事を確認した。
街の火災は消し止められていたが、商店もレストランも軒並み破壊されていた。
冒険者協会の建物も壊されていた。倉庫も金庫も荒らされて、素材も金も持ち去られていた。
リルは迷ったけれど、『輝きの光』のホームも訪ねてみた。しかしそこには誰もおらず、そもそも住んでいるのは別のパーティーの様だった。
リルがポーションを納品していた商店も、入り口は破壊されてはいたけれど店内は荒らされたとは言えず、元から商品が置かれていなかった様子だった。
「行こう」
「もう良いのか?」
「うん」
「分かった」
ハルはリルを抱き上げて、2人をしつこく追い回してくる者達を振り切って、オフリーの街を後にした。
「これからどうする?」
「リルはどうしたい?」
「ハルはどうしたいの?」
「そうだな。最終的には父にリルを紹介したいが」
「え?お父さんに会うなら、まず最初じゃないの?心配だよね?」
「心配は心配だが」
「お父さんもハルが生きてる事を知ったら、安心するでしょ?」
「そうかも知れないが」
「そうに決まってるじゃない」
「だが父に会うのは、私が死んだ事が公表されていたらだ」
「え?なんで?」
「もちろんリルが私の家に嫁いでくれるのなら、このまま直ぐにでも一緒に帰るが」
「それは、だから、だけど、だって、ハルの家がどんなところか知らないし」
「知る気になってくれたか?」
「いや、待って。まだダメ」
「そうだよな。だからこれからどうするかは、リルが決めて良い。私は、俺は、リルが傍にいてくれたら、それで良い」
「・・・一人称、私に戻ってたね」
「ああ。つい」
「オフリーの街に、ハルの知り合いはいなかったの?護衛の人とか?」
「うん?ああ、いなかったな。見知った顔はなかった」
「そう・・・それなら、俺じゃなくて私でも良いかもね」
「うん?一人称の事か?何故だ?」
「う~ん、身元がバレたらハルを暗殺しに来るかもって思ってたけど、ハル、強過ぎだから」
「まあ、リルと2人なら、誰が来ても負ける気はしないが」
「それで逆に、身元がバレた方が、お父さんと会いやすいかも知れないし」
「そうしたら、リルは父に会ってくれるか?」
「会うだけなら良いけど。家に嫁ぐんじゃなければ」
「ああ。その事は別に考えて貰えば良い。ただ、父に会うと言う事は、私の家の事も知って貰う事になるからな?」
「あ、そうか」
「もちろん、いきなり会わせたりはしない。リルの気持ちを優先する」
「まあ、そうして貰えるなら、うん。それでお願い」
「リル」
「うん?」
「好きだよ」
「え?なによいきなり!」
「どの様な未来でも、リル1人に苦労はさせない」
「あ、やっぱり、ハルと結婚したら苦労するのね?」
「私の家に嫁ぐのなら、環境に慣れるまでは・・・リルはそう言う教育も受けているのか?」
「そう言うって、上流階級とかのならないから」
「そうか。それならやはり苦労は掛ける事になる。だが、決して1人にはしない。リルの事は必ず私が支えるから」
「もしもだからね?もしハルのお家に嫁ぐのならだから」
「ああ。その選択肢も、私を父に会わせる為に考えてくれているのだろう?」
「それだけでは、ないけど」
「そうか。でも、ありがとう。好きだよ、リル」
「え?だから、なんでよ」
「私との未来を考えて貰えて、嬉しいからだよ」
「それなら、ありがとうだけでいいでしょ?」
「好きだと言われると迷惑?」
「そんなの、分かってるでしょ?」
「迷惑?」
「そんな事、訊かれるのは迷惑だから」
「そうか。それで?好きだと言われる事自体は迷惑かい?」
「そんな、事は、ないけど」
「それなら言うよ」
「でも、人に聞かれたら、恥ずかしいじゃない」
「人に聞かせる為に言う訳ではないが、人にも聞かせれば牽制になるだろう?」
「牽制って、ハルに女性が近寄って来なくなるって事?」
「リルに男を近寄らせない為だよ」
「ふっ。いらない心配だから」
「いいや。治療した相手とデートをしていたのだろう?」
「そんなの、昔だから」
「子供の頃ではないのだろう?昔と言うほど昔の訳がない。それにオフリーでリルを追って来た男達もいるじゃないか」
「あれは私の捜索依頼が出てたから、その情報料目当てでしょ?」
「いいや。その依頼は取り下げられていたではないか。そして明らかにそうではない男もいた。私と同じく、リルに恋する男だ」
「恋するって」
「私には同類が分かる」
「オフリーの街には、そんな人いなかったから」
「リルがもし、その男達の気持ちに気付いていないなら、私の気持ちにも気付いていないと言う事だな?」
「え?なんでよ?」
「それなので、リルに気付いて貰う為に、私は自分の気持ちを口にするのだ」
「え?そんな必要ないから」
「いいや、私にはある。リル、好きだ」
「あ・・・うん」
「君をとても愛しく思う」
「あの・・・うん」
「リルを守りたいとも思うし、そしてとても尊敬もしている」
「その・・・ありがとう」
「もちろん、破廉恥な気持ちもある」
「なんでよ!」
「それは私が男として、リルを1人の女性として慕っているからだ」
「あの・・・でも」
「もちろん結婚までは、指一本はもう触れてしまっているが、最後の一線を越えない事は誓う」
「あ・・・うん」
「言っておくが、リルに対して破廉恥な気持ちはあるからな?」
「なんで2回も言うのよ!」
「リルが応じてくれるなら、いつでも結婚して欲しいのだと言いたかったのだ」
「それは、分かったから」
「ああ。好きだよ、リル」
「・・・うん」
「好きだ」
「分かったから!」
「ははっ。それで?リルは結局どうしたい?もしも希望がないのなら、私から提案があるのだが」
「うん?なに?聞かせて」
「やはり王都を目指さないか?途中で魔獣を討伐しながら」
「そうよね。他の方向はどうする?オフリーから出た魔獣は、足跡は王都に向かってたけど」
「オフリーからなら王都方向が一番人口が多い。まあ、他国も含めるとその限りではないが」
「じゃあ、空を飛ぶ魔獣がどこに行ったかは一旦考えないで、王都方面に向けてスタンピードの討ち漏らしを倒して行く事で良い?」
「そうしよう」
「序でに魔草とかも採取したい。ポーション作れる様に」
「ああ、構わないが、そう言えば最近はポーションを使っていないな」
「在庫はあるけど、この先にも知らない魔獣が出るかも知れないし、王都に近付くと魔草が見付かんないからね」
「そうだな。そうしよう。手伝うよ」
「うん」
「では、この辺りから森に入るか?」
「うん。これ、ハルが馬を繋いでた木だよね?」
「そうだな。そしてこの先が、リルに命を助けて貰った場所だ」
「ハルに初めて会った場所だね」
森に入るからとリルはハルの腕から下りた。
そしてハルが前を歩くと言って譲らないので、肩を竦めながらもリルはハルの後に付いて、2人は森に入って行った。