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伝えられる幸せ

 ハルは目を閉じて、耳を澄ませていた。土ドームの外の音を拾う為だ。

 その耳がリルが小さく唸る声を拾う。

 ハルはリルの髪を撫でた。


「う・・・うん・・・ハル?」

「ああ、おはよう、リル」


 リルが目を開けると、膝枕をしているハルと目が合った。

 リルは一拍置いて、顔を隠した。


「寝顔!見たでしょ?!」

「いいや。リルが目を開けるまで、見ていなかった」

「ウソ!」

「本当だよ」

「ウソばっかり!」

「リルの可愛い寝顔をみたのなら、思わずくちづけてしまったに違いない。その様な破廉恥な事を寝ているリルにすると思うのか?」

「え?まさか?!」

「していないよ」

「・・・ホントに?」

「もちろん、したかったけれどね」

「・・・どっちなの?」

「初めてのくちづけが、リルに気付かれずにするのなんて、有り得ないだろう?」

「・・・してないなら、いいけど」

「ああ。するのなら、2人の思い出となるものにしなければならないものな」


 リルはガバッと体を起こす。そしてハルの胸を両手で押した。


「はい!交代!ハルが寝て!」


 ハルは押されるままにベッドに倒れる。


「ああ、分かった」


 そしてリルに対して両腕を差し出す。


「リルも一緒に寝ないか?」

「なに言ってるの」

「リルが寝る前に、先に誘っていただろう?ほら」

「・・・ハレンチなんじゃないの?」

「ああ。リルには破廉恥だ」

「なによそれ」

「リルにだけだよ。リル」

「なに?」

「好きだよ」

「もう!」


 リルは差し出されているハルの手をぺちんと叩いた。その手を掴んでハルはリルを引き倒す。


「ふざけないで」

「ふざけてなどいるものか」


 ハルは体の上にリルを乗せて抱き締めた。


「起きるまで、こうしていてくれないか?」

「なに言ってるの。こんな格好、重くて寝られないでしょ」


 リルはハルの胸を押して、体を起こそうとする。


「こうしてリルの重みを感じていたい」


 ハルはリルの頭に手を回し、髪を撫でた。


「リル、好きだよ」

「・・・ハル?寝不足で変になってるんでしょ?」

「そうかな?確かにリルに対しての気持ちが、抑え(がた)くはなっているな」

「いいから、寝て」

「リルが一緒に寝てくれるなら」

「そんな、子供みたいな事を言って」

「素直な気持ちだと言う意味では、子供の様かも知れないな。しかし、この様な事を感じられるのも、この様な事を言えるのも、リルに対してだけだ」

「・・・なんなのよ、もう」

「こうやって破廉恥な事を夫婦以外でしてはいけないのも良く分かる」

「分かっててやるの?」

「ああ。こうしていると愛しさが募る」

「え?ハル?」

「切なくもあるけれど、リルは嫌か?」

「ホント、どうしたの?疲れ過ぎた?」

「嫌か?」

「・・・イヤじゃないけど」


 ハルはリルに微笑む。


「リル」

「・・・なに?」

「いつまでも、私の傍にいてくれ」

「それは、考えるって言ったでしょ?」

「ああ。好きだよ、リル」

「あ、うん」

「リルに好きだと伝えられるだけで、私は幸せだ」

「・・・ハル」

「リル。幸せをくれて、ありがとう」


 リルはハルの胸元に顔を付けた。


「ハル」

「ああ」

「私こそ」


 リルは目を閉じて「ありがとう」と囁く。ハルが「ああ」と返した声の振動が、リルの体を包んだ。



 いつの間にかまた眠ってしまっていたリルは、ハルの腕の中で目を覚ました。リルは慌てて体を起こす。


「あ!ゴメン!」

「お早う、リル」

「もう早くもないよね?重かったでしょ?ゴメンね?」

「いいや」


 ハルはリルの腕を引いて、再び自分の上にリルを乗せた。


「気持ちの良い重さだ」

「なによそれは」

「食事にするか?リルはこの数日で軽くなってしまっているだろう?」

「え?そう?」

「ああ。このままでは健康に悪いのではないか?」

「そんな事はないと思うけど」

「最近は食事が魔獣の肉に偏り過ぎかも知れない。やはり街で食事を取るか?」

「偏りは考えるから食事は作る。でもオフリーの街には行こう」

「・・・いいのか?」

「うん」

「このまま街を離れるのもありだよ?」

「このまま離れたり出来ない。まだ埋まっている人がいるから」

「そうか。分かった」


 ハルはリルを抱いたまま体を起こし、そして立ち上がった。


「ハル、下ろして」

「このままが良い」

「もう魔獣はいないから、抱き上げて走って貰う必要ないでしょ?」

「それでもこのまま」

「ハル。私に自分の足で立たせて」

「・・・そうか」

「うん」


 ハルはリルを下ろす。


「失礼な扱いをしてしまっていた様だ。許して欲しい」

「ううん。心配してくれたのでしょう?」

「そうではあるけれど、半分は破廉恥な気持ちだ」

「もう!でも抱かれるよりは、ハルの隣に立っていたい」

「そうか。ありがとう。このままずっと隣に立ってくれると嬉しいな」

「それは考えるから」

「ああ、よろしく」

「うん」

「リル?」

「うん?」

「好きだよ」

「もう!」


 リルはハルの背中を叩いた。

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