終わった~
「終わった~」
「食事にするか?」
「食べずに一晩中だったもんね」
「ああ。もう夕方だし、丸1日食べていない」
「食べて寝よう!」
「街に戻るか?店はやっていないだろうが」
「ここで良いよ!戻るの面倒臭い!」
「そうか。分かった」
ハルはリルを腕から下ろさないまま、土ドームを作って2人を囲む。
ハルはそのままベッドも作ると、その上にリルを下ろした。
「後で火を付けてくれ」
「ううん、手伝うよ」
リルはそう言ってベッドから立ち上がる。
「疲れただろう?休んでいてくれ」
「手伝う。って言うかやる」
「・・・そうか」
「うん。任せて」
「ああ、任せた」
ハルはリルに料理を任せて、自分はテーブルや食器を用意した。
「出来たよ~」
「ああ、ありがとう」
「どう?おいしそうでしょ?」
「ああ。とても美味しそうだ」
「さあ、食べよ食べよ」
「ああ、頂きます」
「う~ん、おいしい!」
「さすがリルだ」
「そう?やっぱり?」
「ああ。とても美味しい」
「だよね?これ、外のウリボアの肉なんだけど、ダンジョンのウリボアも結構おいしいのよ」
「味が濃いのだったか?」
「そうなの。よく覚えてたわね?少し採って来ればよかったね?あんなに倒したんだし」
「そうだな」
「ハルの言う通りやったから簡単だったけど、前に倒した時は結構大変だったんだ」
「そうだったのか?」
「うん。とは言っても、私は見てるだけだったけど」
「うん?リルは手を出さなかったのか?」
「足手まといだったから。外のウリボアを倒した時も、ハルがいなくちゃダメだったでしょ?」
「そうだっただろうか?」
「そうそう、そうだったから」
「だが今ならリルひとりでも、充分に倒せるな」
「魔石を当てて?」
「ああ」
「でも可食部分が減っちゃうし、魔石も採れないけどね」
「それでも倒せる事には変わりない」
「・・・そうね」
急にリルの声の調子が下がる。
「・・・リル?」
「うん?なに?お代わりする?」
「いいや」
「他のにする?ミディアもまだ残ってるよ?」
「いいや、大丈夫だ」
「ダンジョンのミディアも肉を採ればよかったね」
「そうだな」
「あとクワイバーンも」
「うん?クワイバーンは食用に向かないのではなかったか?」
「でもハルは味音痴だし、もしかしたらおいしいって思うかもよ?」
「不味いと言われてるのだから、食べるのは遠慮をしたい」
「私には不味くても、ハルは平気じゃない?でもハルなら臭がるかも?」
「そうなのか?」
「全然、臭くなんかないけどね」
リルはあははと笑い声を立てた。
「もうお肉いいなら、ハルが先に寝て」
「いいや。リルが先に寝て欲しい」
「だってハル、ずっと寝てないでしょ?」
「まだ大丈夫だ。問題ない。難しい魔法は全てリルが撃っていたのだから、リルの方が疲れているだろう?探知魔法も使い続けているのだし」
「探知魔法はクセだから平気。息するみたいに使えるから」
「そうだとしても、もう休んで欲しい」
「それなら、一緒に寝る?」
「・・・念の為に訊くが」
「え?なにを?」
「それは破廉恥な意味ではないのだよな?」
「え~?ハルのハレンチって良く分かんないから、もしかしたらハルにはハレンチかもね?」
「そうか。それなら遠慮をして置こう」
「え~?逆にハレンチじゃないかもよ?」
「まあこれまでも、隣り合って寝たりはしていたけれど、今は私が見張るから、リルには安心して眠って欲しい」
「そう?じゃあ?お言葉に甘えるね?」
「ああ」
「先に寝るね?」
「ああ」
「一緒に寝たくなったら、寝ていいからね?」
「その様な事があるなら、破廉恥にならない範囲を守るよ」
「うん。信じてるから」
「分かった」
「でも眠くないかも」
「良いから。横になるだけでも良いから、寝てくれ」
ハルはリルを立たせて、ベッドに誘った。
「でも」
「抱いて運ぼうか?」
「・・・大丈夫」
リルはスルリとベッドに横になる。
「灯りいる?」
「いいや。消して貰っても構わない」
「大丈夫?」
「ああ。大丈夫だ」
「夜目が利くもんね」
「ああ」
「それって、真っ暗でも私の寝顔が見れちゃうって事?」
「そうだな」
「それってなくない?」
「うん?何がないのだろうか?」
「レディの寝顔を見るなんて」
「分かった。見ない様にするから。それについても安心して寝てくれ」
「そう言う問題じゃないんだけど」
ハルは微笑むとベッドに腰を下ろし、リルの顔の上に手を載せて、目蓋を閉じさせた。
「ハレンチ」
「そうだな。灯りは点けたままでも良い。そうすればリルが見えるものと私が見えるものは同じだろう?」
「そうじゃなくて、見られるのが問題なんだってば」
「だから見ないよ。眠れないのなら喜んで話し相手を続けるけれど、目は閉じて」
「眠れない事もないけど」
リルは顔に置かれたハルの手を両手で押さえる。
そしてハルの手を動かして、リルは自分の頬に当てさせた。
ハルはもう一方の手をリルの顔に当てて、やはりリルの目を閉じさせる。
リルは片手をハルの手の上に置いた。
「ハルの手、気持ちいい」
「・・・そうか。それは良かった」
「癒やされる~」
「疲れ目には温めるのが良いと聞いた事がある」
「・・・そうなのね」
「私もなるべく早く、治療魔法を覚えたいな」
「え~?癒やしてくれるの?」
「ああ、もちろん。リルの助けになりたい」
リルはハルの手を放し、ハルの腰に抱き付いた。
「・・・ハレンチでゴメンね」
「ああ」
ハルはリルの髪を撫でる。
「・・・でも、ありがと」
「・・・ああ」
ハルはリルの背中にも手を当てた。
「街で・・・」
「ああ」
「・・・いっぱい、人が死んでたね」
「ああ」
「・・・小さい子も赤ちゃんもいた」
「ああ」
「・・・魔獣倒してる間にはまだ生きてた人も、治療に回った時には亡くなってた」
「そうか」
「まだ生きてる人も、命を留める治療に時間が掛かるから、見捨てたの」
「そうか」
「もっと早くオフリーに来てたら、きっと助けられた」
「そうだな」
「あそこで寝過ぎたりしなければ良かったのに」
「・・・そうか」
「そうでしょ?」
「リルだけの所為じゃない」
「でも・・・だって・・・」
「リルが自分を責めるのなら、私ももっと早く走れば良かったし、魔獣の倒し方に迷ったりしなければ良かったのだ」
「そんなの・・・それは、だって・・・」
「先に街の人を治療していたら、もっと多くの人が魔獣に傷付けられていた」
「それは、そうだけど」
「来る途々で魔獣を倒さなければ、オフリーの人々をもっと救えたのかも知れない」
「・・・うん」
「その代わりに他の街に被害が出ていたのかも知れない」
「・・・うん」
「そもそも私達が王都にそのまま向かっていたのなら、スタンピードの情報はオフリーが滅んだニュースとして知ったのかも知れない」
「それは、そうだけど・・・そうじゃないよ」
「ああ。だがもし、リルが自分を責めてしまうと言うのなら、その罪は私も一緒に背負うから」
「え?・・・ハル?」
「リル。辛い荷物は1人より2人で持つべきだ」
「・・・ハル」
「リル?」
「・・・うん?」
「これまでにも色々な事を経験して来たと思うし、中には悔しかった事もあったのだろう。それを今までは1人で抱えて来たのだと思うが、これからは私が一緒だから」
ハルは体を倒し、リルの体の上に重ねる。
「だからリル。安心をしてくれ」
リルの体が小刻みに揺れた。
リルが「うん」と呟いた声も震える。
ハルはリルの背中をそっと擦り続けた。