退治と治療
リルが魔獣のいる場所にハルを誘導しながら、次々と魔獣を倒していく。
魔石だけで倒せる魔獣はハルも倒す。失敗してもリルが倒しきる。ハルは少しずつ、失敗を減らしていった。
礫で包んだ魔石ではないと倒せない魔獣はリルが倒す。その魔獣の胸を曝させるのは、主にハルがお膳立てをした。
「あっちに鬣!」
そう言うとリルは周囲を壁で覆う。リルを抱いたハルはリルが指差した方向に走った。
鬣の魔獣が2人の視界に入る。
鬣の魔獣は咆哮と共に魔力を2人に打つけて来た。
リルがその魔力に魔力を打つけて逸らせる。
鬣の魔獣が牙を剥いて、ハルに飛び掛かって来た。
その口にハルは腕を突っ込んで、手に持っていた魔石を撃ち出す。
鬣の魔獣は弾け飛んだ。
2人は群れの残りを1頭1頭倒していく。
「やはり、ボスを倒すと連携して来ないな」
「ボスが命令してるんだろうけど、ボスがやられて動揺もしてるのかも」
「ああ。確かに脆くなり過ぎる」
会話しながらも、2人は次の魔獣を目指した。
「また知らないヤツ!」
「硬かった魔獣のボスの様だが?」
「リンゴリラに似てるけど、大きさが全然違う」
「もっと硬いと言う事か」
リルが礫で包んだ魔石の弾を撃つ。
当たった魔獣は弾け飛んだ。
「そうでもないのか?」
「多少硬い程度だったみたい」
2人は立ち止まらずに、次の魔獣を目指す。
隈無く移動する事に時間は掛かったが、街中には魔獣がいない事をリルが探知した。
「今のが最後だったみたい」
「ではダンジョンか?治療か?」
リルはダンジョンに向けて、探知魔法を撃った。
「魔獣は増えてないみたい。治療で、あそこから」
「分かった」
リルを抱いたまま、ハルは建物の中に入る。
怪我をして気を失っている人に、リルは治療魔法を撃った。
「次!あっち!」
「分かった」
ハルは壁に穴を開けて通る事を一瞬考える。しかし引き返して建物から出て、通りを通ってリルが指差す方に向かった。
リルが魔法で治療をするのを見て、1人の男が走って来る。
「助けてくれ!子供が死にそうなんだ」
「ムリ!」
リルは次の場所をハルに示した。ハルはそこを目指して走り出す。
「・・・何だと?」
男は一拍遅れて、ハルを追って走り出した。
リルが治療を終えて次の方向を示すと、男が追い付いて来た。
「なんで俺の子供は助けてくれないんだ!」
「死んでたらムリ!」
「死んでるもんか!まだ生きてる!」
ハルは男を避けて、リルが示す先に走る。
リルが治療してハルが次の場所を目指すと、また男が追い付いて来た。
「待て!人殺し!」
ハルが男に視線を向けるが、リルがその頬に手を当てて、ハルに前を向かせる。
「構わなくていいから」
そう言ってリルは自分の指差す先を見詰めていた。
突然現れたリルとハルを信用できずに警戒して、怪我人を庇う人達もいた。
その場合は力尽くで治療する事もあるが、邪魔する人を排除するのに時間が掛かると判断したら、治療せずに次の場所を目指した。
大切な人を助けてくれと、リルに請願しながら追い掛けて来る人間は他にも何人もいたが、リルはそれを全て無視した。
リルを追い回す人達の騒ぎで、街中に魔獣がいない事に気付いた人達も、通りに顔を出してくる。
中にはやはり、身内が怪我をしている人もいて、その人達はポーションを求めて商店に向かった。
商店は魔獣を避ける為に、扉を硬く閉ざしている。商店の前に集まった人々は、店を開ける様に騒いだ。その騒ぎで更に人が集まる。
やがて商店の扉は打ち破られ、店内の商品が持ち去られた。
街の通りではポーションが奪い合われる。その事で怪我をする者もいるし、命を落とす者さえいた。
リルもハルも騒動には気付いていた。
「無視するから」
リルはハルにそう告げると、建物の中にいる次の怪我人を示す。
通りに出ている怪我人は、尖塔の上の女が見付けて治すと、リルは思っていた。そしてリルを騒ぎに巻き込みたくなかったハルも、「ああ」と肯いた。