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鬣の魔獣

 4頭の魔獣が時間差を付けて、ハルに襲い掛かって来る。飛び掛かる事はせず、ハルの脚を狙って来た。

 それをハルは蹴って()なす。場所はほとんど動かずに、ハルは躱し続けた。

 1頭ずつ交代で襲って来るかと思うと、突然2頭同時に同方向から向かって来たり、逆方向から掛かって来たりする。

 魔獣は襲い掛かるリズムもわざとずらしたりもしていた。


 リルは土魔法で魔獣に罠を仕掛けようとするけれど、土魔法を発動する瞬間に魔獣は飛び退(ずさ)って距離を取った。


「もう!」

「魔法に敏感なのだろうか?」

「そうみたい」

「私が撃った礫も躱されそうだったな。魔法の発動を読まれたみたいだ」

「でもそのお陰で、こうやって絶え間なく魔法を撃ってれば、近寄って来ない」

「確かにそうだが、倒す事に繋げないと」

「でもハルは休めるでしょ?」

「・・・ああ、そうだな。ありがとう」

「どういたしましてだけど、助走して来た!」


 1頭が遠くから勢いを付けて走って来る。リルの罠を飛び越える積もりの様だった。

 その魔獣がハルに飛び掛かった瞬間、リルは土魔法で魔獣の体を包む。そして飛び掛かった勢いを上手く上方に逸らしながら、目の前に魔獣の胸を曝させた。

 その胸に魔石を礫で包んだ弾を撃ち込むと、魔獣の上半身が弾けた。

 残りの魔獣が2人から少しだけ距離を取る。


「この方法でイケると思う?」

「賢い様だから、直ぐに対策を取って来そうだな」


 4頭の魔獣が四方から、ゆっくりと2人に近付く。

 リルは土魔法を使うタイミングを計った。

 そして4頭それぞれの後ろから更に、助走を付けた4頭が迫って来る。

 後ろからの4頭が飛び掛かるのに合わせて、前の4頭もハルの脚を狙って飛び付いた。

 リルは土魔法で4正面に壁を産み出す。

 ハルの脚を狙っていた4頭は、その壁を回り込んだ。助走を付けていた4頭はそのまま飛び掛かっているので、回り込む4頭に合わせて壁を動かすと、飛び付かれる。

 リルは壁と壁の間に刃を渡す。

 そして同時に他の魔獣よりひと回り大きい、鬣のある9頭目が建物の上からハルに飛び掛かって来ていた。

 リルは9頭目に魔石を包んだ礫の弾を撃つ。

 魔石は9頭目にだけある鬣が弾の方向を少しずらし、弾は皮膚で弾かれた。

 ハルは腕を掲げ、9頭目に噛み付かせる。


「ハル!」


 ハルは9頭目を振り回し、リルの作った土壁ごと回りの8頭を弾き飛ばした。

 空から魔法が降り注ぐ。


「リル、魔獣達を囲む壁を」

「え?」


 リルは「なんで?」と訊きながらも、ハルの魔力で魔獣達を囲む壁を作り出した。


「おそらくこいつが、この群れのボスだ。こいつを倒せば、他の魔獣が逃げ出すかも知れない」

「ごもっとも!」


 リルは壁を高くして、建物の上からも外に飛び出せない様にする。

 そしてハルの腕に噛み付いたままの、鬣付きの9頭目の胸に礫で包んだ魔石を撃った。

 しかし魔獣が体を捻り、弾は魔獣に掠り傷を付けるに留まる。


「え?」


 ハルは魔獣の腹を蹴り上げて、地面に仰向けに落とした。

 リルは間髪入れずにその胸に弾を撃つ。

 しかし魔獣はまた身を捩り、弾は掠り傷しか付けられなかった。

 魔獣がハルの腕を放して立ち上がろうとする。

 ハルは鬣を掴んで、魔獣を押さえ付けた。

 しかしリルを抱いていてもハルの体重は、魔獣からすると大した重さではない。

 魔獣はハルの体を跳ね上げた。

 放さなかったが鬣は千切れ、ハルはリルと共に宙に飛ぶ。


「魔石を」


 ハルの声に反応したリルは、空中で魔石を手渡した。

 2人が落下してくるのを、魔獣達が待ち構える。

 その中心で鬣を持つ魔獣が、ハルを目掛けて飛び上がった。

 ハルは魔石を持った手を真っ直ぐ魔獣に向ける。

 鬣の魔獣は大きく口を開けて、鋭い牙をハルに向けた。

 その口を目掛けてハルは、魔石を撃つ。その魔石の進路をリルが僅かに修正する。

 ハルの撃った魔石は鬣の魔獣の口から入り、魔獣の魔石を砕いた。鬣の魔獣の上半身が弾ける。

 ハルは鬣の魔獣の残った下半身を空中での足場にして体制を立て直し、リルを抱いたまま無事に着地をする。

 呆気に取られたかの様に動かない残りの魔獣は、リルの土魔法で持ち上げられた。

 我に返った魔獣達は、足が届かなくされているので動けない。


「これで全部だろうか?」

「うん。傍に集まってくれてたから、楽に拘束出来たね」


 ハルに腕から下ろして貰ったリルは、魔獣達の下から胸を狙って、1頭1頭倒していった。

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