倒し方
同じ魔獣が襲って来るのが途切れると、リルはハルの腕の中からハルを見上げて「下ろして」と言った。
「リル、話し合いは後だ」
「うん?聖女の事?違うから。礫を作る」
リルはハルの胸を押して、ハルの腕から下りようとする。ハルはリルが落ちそうなので、腕を解きながらしゃがみ、リルを放した。
リルは建物の瓦礫を掴み、礫に変えるとバッグにしまう。
「リル?」
「・・・なに?」
リルの声は機嫌が良くない。
「この魔獣だが」
「リンゴリラ?」
「ああ。どうやって倒したのだ?」
「魔石を礫で覆ったの。こんな風に」
リルは礫と魔石を組合せて弾を作り、ハルに見せた。ハルはそれを受け取って、摘まんだ指先で角度を変えて、色々な角度から弾の作りを確認する。全体的にはいつもの礫と同じ雫型だ。礫の部分で魔石を包んでいるが、隙間が開いていて中の魔石が見える。
「それをリンゴリラの胸に穴を開けられる硬さにして、穴を開けられるギリギリの強さで撃ち出すと、リンゴリラに当たった衝撃で中の魔石が砕けるけど、砕けた魔石がリンゴリラの魔石に当たるから」
「硬さと速度と当てる場所を正確にコントロールするのだって、難しいな」
「慣れだから。ハルにだってもう出来るかも」
「いいや。探知魔法で魔獣の魔石の位置や、胸の硬さも把握出来なくてはだろう?」
「それはそうだけどね」
「それに練習するのは今ではない」
「そうね。今はとにかく倒すの優先ね」
「ああ。それでは続けるか?少し休むか?」
「続ける。早く倒しきって、怪我してる人も治そう」
リルが両手を伸ばして来るので、ハルはリルを抱き上げた。
「ああ。だが、怪我人の治療は聖女がしているのではないか?」
「瓦礫の下敷きになってる人もいるし、家の中にいる人はほったらかしみたい」
「そうなのか?」
「あそこから目で見て、怪我してそうな人しか治してないのよ。きっと」
「助けるのは、後回しだな」
「うん。魔獣を倒さないと、怪我人や死人は増えるから」
「よし。この先に進めば良いか?」
「うん。続きをやっていこう」
ハルはリルが指差した、まだ通っていない方に向けて走り出した。
魔獣がいるといちいち退治するのも時間が掛かるので、2人は魔獣が諦めない様に追い掛けさせて、ある程度の数が集まってから倒す様にした。
効率は上がり、討伐にリズムが出て来る。
ハルが立ち止まると、同時に何頭もの魔獣が襲い掛かって来た。リルは魔石だけで倒せる魔獣を先ずは倒していく。それらを倒しきると次に、礫で包んだ魔石が必要な魔獣を倒した。
時々、神殿の尖塔から魔法が飛んで来る。けれどリルは魔力を打つけて、その魔法を無効化して散らした。
足を止めて、集めた魔獣を倒していると、リルが「新手!」と叫ぶ。
「知らない魔獣だから気を付けて!」
リルが指差す方向には、魔獣の姿がまだ見えなかったけれど、ハルは「分かった」と返した。