表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/143

焼肉

「ふう」


 リルは詰めていた息を吐いた。男はリルを見て礼を言う。


「終わったんだな?ありがとう」

「え?いえ、まだ全然。まだ魔力枯渇特有の怠さがありますよね?」

「うん?魔力?・・・俺は魔法は使えないのだが?」


 リルは男に背を向けて、イガグリズリーの肉を1ブロック手に取って、包んでいた葉を剥がしながら「そうですか」と返した。

 土魔法で作った皿の上に肉を置いて、熱魔法で加熱する。

 肉の焼ける(にお)いが土ドーム内に漂う。


「それは?」

「魔力が減ったので、補充しようかと」

「随分と美味しそうな臭いがするな」

「ええ。美味しいですよ」


 リルは肉に手を翳したまま、男を振り返る。


「治療途中ですし、まだ食欲は出ませんよね?」

「俺か?いや、どうだろう?」

「今は魔獣の肉しかありませんけれど」

「魔獣?ゴボウルフと言うやつか?」

「いえ、別のです。食べてみますか?それとも魔獣肉は()めて置きますか?」


 魔獣肉を忌避する人もいる事をリルは知っていた。もし男もそうなら、傍で肉を焼くのもリルが食べるのもイヤがるかも知れないと、リルは遅ればせながらに思う。


「いや・・・分けて貰えるなら食べてみたい」

「そうですか?分かりました」

「いや、君?何をしているのだ?」

「え?肉を焼いてるんですけど?」

「手で?」

「手、というか、魔法でです」

「魔法って、杖は使わないのか?」

「さっき使ったら燃えてしまって、新しいのを取って来てません」

「燃えた?取って来る?」

「ええ、間に合わせの杖だったので、燃えてしまいました」

「杖を使わなくても、魔法が使えるのか?」


 さっきの回復魔法も杖を使わなかったけれど見えなかったのかな?とリルは思って「ええ」と男に肯き返す。


「精度は落ちますけど」

「・・・そうか。使えるのだな」

「はい」

「もしかして私の体も杖なしで治したのか?」

「あったりなかったりでした」

「そうか・・・すごいな」


 リルはなんて応えたら良いのか分からず、取り敢えず「はい」と返しながらイガグリズリー肉に視線を戻した。ちょうど良い焼き加減だ。

 小さな皿を作って、作ったナイフで肉を小さく切り分けて載せて、リルは男に見せた。


「まずはこのくらいで試してみますか?」

「そうだな」

「口に入れますね」

「あ、いや、後で良い」

「後?」

「冷めてからで良い」

「そうですか?味が落ちますよ?」

「ああ。私には構わず、君は食べなさい」

「そうですか?それなら先に頂きますね?」

「ああ」


 土魔法で作った串を肉のブロックに刺し、一部に塩を掛けるとそこにリルはかぶり付いた。美味しい。

 そのリルの様子を見詰めていた男は、横になったままで小皿を傍に引き寄せた。

 それに気付いてリルは、串を作って男に渡す。別の小皿に塩も入れて、男の傍に置いた。

 男は受け取った串を肉に刺して皿から持ち上げ、しげしげと観察し、臭いを嗅ぎ、唇で触れて温度を確かめてから、口に入れた。

 男は肉をゆっくりと噛む。

 男が大丈夫そうなのを見て、リルは自分の肉に意識を戻した。

 しばらくは咀嚼音のみが土ドーム内に響く。


「美味しいな」


 男の声にリルは肉から顔を上げる。


「大丈夫ですか?もう少し食べますか?」


 持った串を立てて訊くリルに、男は微笑みを向けた。


「ああ。頂こう」


 その言葉にリルは肯くと、まだ口を付けていない部分から、先程と同じ程度の大きさに、肉を3つ切り出して小皿に載せる。


「無理なら無理せず残して下さい」

「ああ」


 男は皿を受け取って肉を1つ串に刺すと、今度は躊躇わずに口に入れた。

 それを見たリルは笑顔を浮かべて、また自分の肉に集中した。



 リルの魔力はそこそこ回復した。イガグリズリー肉の消化が進めば、更に回復するだろう。

 しかし先程の結果を思うと、男に回復魔法を掛けるにはまだ心許ない。


「肉を食べられるなら置いてきますけど、魔法は使えないんでしたよね?」


 男はかなりの魔力容量を持っているみたいなのに、魔法が使えないなんて、リルには意味が分からない。けれど何もしなくて魔法が使える様になる訳ではないのだから、世の中にはそう言う人もいるのだろうと、リルは結論付けた。


「・・・ああ」


 男は少し不機嫌そうに応えた。


「それでは残りの肉を焼いて置きますね」

「今か?」

「はい。焼きながらも魔力は回復する筈なので、大丈夫です」

「あ、いや。君はどうするんだ?」

「どう?どうとは?」

「これから君は、どうする積もりなのだ?」

「これからでしたら、旅を続けますけど?」

「旅?君はこの辺りの人間ではないのか?」

「ええ、まあ」

「・・・俺の荷物はどうした?」

「シャツと上着はここに」

「ボロボロだな」

「ええ。ズボンもパンツも同じでしたけど、そっちは一応直しました」

「直した?」

「はい。さすがにズボンを履かずには出歩けないかと思って」

「直したって、もしかして、脱がしたのか?」

「はい。最初に全身の傷を確認したので、脱がせたのはその時に」

「・・・そうか。思ったより力があるんだな」

「力と言うよりコツです」

「コツ?慣れているのか?」

「はい。素早く治療する必要がある時がほとんどだから、素早く脱がすし、直ぐに移動したりするから、素早く着せます」

「そうか。手間を掛けた」

「はい。ただ、切れた糸を無理矢理紡いだので、生地は弱くなってるし、色も微妙です」

「色?」

「はい。裏地と混ざってしまったので、直した所が目立ちます。ちゃんとした杖があれば、もっと綺麗に直せたんですけど」

「いや、構わない。ありがとう」

「はい。後は鞘です。剣は辺りにありませんでした。他に荷物がありました?」

「バッグに色々と入れていたのだが」

「この近くには見当たりません。私の探知魔法でも何も見付かりませんでした」

「そうか。ペンダントもなかったか?」

「はい。どの様なデザインですか?」

「・・・いや、良い」


 そう答えて男は、リルのバッグをチラリと見た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ