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36.話し合い


 久しぶりにヤツがやってきた。

 そう、精霊王だ。

 ミーナとの話し合いを聞いてたのか、ってタイミングに、この薬局にかけてある結界をラディ自身で《探査》し確認したほどだ。


「ふふふ、我の言った意味がわかったかのう?」

「今夜の用件はなんだ。なければ寝る」


 精霊王のもったいぶった態度にラディはカチンとし、さっさと切り上げようとする。

 ミーナとの話し合いもあり気が立っていた。

 ラディの油断から娘を泣かせ、いらぬ負担をかけたと思っていた時に限って精霊王だ。つまみ出したくもなる。


「ちょっと待て。なぜ我が来たのか気にならぬのか?」


「お前はミーナにしか関心がないからな。その周辺か本人に変化があった。それでやってきた。

毎回毎回、お疲れ様。以上」


「だから待てと言うに。そなたに養育を託しているとはいえ、我の花嫁じゃぞ。知る権利はあろう」


「ただしくは花嫁“候補”だ。20歳になったらミーナが決める。何度も言わせるな」


 ラディのこの言葉はさらりと流し、都合が悪くなるとさっさと自分の用件を伝えてくる。相変わらずだ。


「それで何があったのじゃ?

そなたの従者がこの辺りに部屋を借りた。何ゆえあってのことじゃ」


 やっぱりセバスチャンの件か。それくらいしか変化はないからな。


「お前に言う義理はない」


「はあ?だから、我はミーナの夫だと申しているではないか」


「夫“候補”な。セバスチャンに余計な手出しはしないと言うなら、話してやってもいい」


「…………」


 ほらな。やっぱり何かする気だったわけだ。


「“約束”しなければ話せない。当たり前だろう。

それとセバスチャンに手出ししたら、ミーナが悲しむ。

部下どもをしっかり抑えろよ。

よろしく頼むわ。おやすみ」


 精霊は“約束”を破れない。ここは遠慮なく使わせてもらう。

 さすがのセバスチャンも精霊王相手に勝ち目はない。


「だから待てと言うに。わかった。手出しをせねばよいのだろう。言って聞かせもする」


「“約束“だぞ。ミーナを泣かせるな」


「わかった。“約束”する」


 ラディは今夜の話し合いをかいつまんで伝えるが、精霊王の理解と関心はやはりズレていた。


「うんうん、無理もない。我の花嫁は心優しく、人の醜い悪意などを思いもせぬのであろう。

やはり我の許で育てたほうが」


「だ〜か〜ら!まだお前の花嫁じゃない!

醜い悪意は人だけじゃない。精霊にも魔物にもある。神にだってあるくらいだ。

悪戯に見せかけ代々の花嫁をいじめ、ミーナをトラブルに巻き込もうとしたヤツらが何を抜かす!」


 ラディははっきり過ぎるほど伝える。でないとコイツには通じない。これでも通じない時がほとんどなのだが。


「……それはそうじゃが、最もひどいのは人じゃ。

それは知っておろうに」


「俺から見たらたいした違いはない。

それに俺とセバスチャンで魔術は教えることになるだろう。平民同士なら面倒くささは貴族とは段違いに楽だ。

心配ご無用。

早く帰って寝ろ。その美貌とやらに差し支えが出るぞ。

お前の取り柄はそれくらいだ」


「何を言う。我は精霊王ぞ。本気を出せば、この世界など……」


「はいはいはい。わかった。俺は眠い。お前は知りたいことを知った。これで手打ちだ。

俺が睡眠不足だと自分のせいだとミーナが気にするからな」

「やはり、我の花嫁は心優しく……」


 永遠のループになりそうだったので、ラディは強固な《遮音》と《結界》を張りぐっすり眠った。


〜〜*〜〜


 翌朝、表面上はいつものミーナだった。

 『質問はしていい』と言ったので、かなりの『なぜなにお嬢ちゃん』になっていた。

 まあ、それもかわいいから時間の限りは許す。


 主には魔術の教育過程の比較だ。

魔術師団附属と王立高等学院、セバスチャンだとどういうことを教わるのか、何度も聞いてきた。ラディも根気よく教えた。


 ミーナのためにも次の刺繍のレッスンに行く前に、片をつけておきたい。


 ラディは王城の騎士団本部になるべく目立たないように手紙を届けるため、空いた時間に冒険者ギルドを訪れた。

 受付の女装趣味のローラことローランドが手を振り迎えてくれる。


「あっら〜。お久しぶりね〜。素材の購入かしら?」


 笑顔で対応してくれる相手に、ラディは手紙と小金貨を1枚、すっとカウンターですべらせる。


「手紙を届けて欲しい。王城の騎士団本部、エディントン伯爵宛てだ」


 ローラは地声の(ささや)き声で確認してくる。


「ヤバいモンじゃないだろうな」


「ギルドと騎士団の仲を邪魔する気はさらさらない。そんな命懸けのことを誰がする?

エディントン邸じゃない場所で、目立たずに話したいだけだ。となると執務室が一番いい」


「なるほど〜。わかったわ〜。確かにお預かりしま〜す」


「いつもありがとう。助かるよ」


 明るい声に戻ったローラに、ラディはさらに銀貨を1枚すべらせる。


「あら、まあ。こんなにいいの?」


「これはローラさんが頼んでもらう手間賃だ。よろしくお願いする。じゃ、また来る」


「ラディさんならいつでもお待ちしてま〜す」


 笑顔で手を振り見送ったローラとギルドの仕事は確実で、翌日には返事が来た。

 その日は薬局を休み、セバスチャンに来てもらい、ミーナの魔術の勉強と、アルバスの面倒を見てもらう。

 ミーナにはよその魔法薬局の相談を聞いてくると説明した。今までにもあったことなので、すんなり納得してくれた。


〜〜*〜〜


 エディントン伯爵の指示に従い、王城と騎士団本部の受付で伯爵の名刺と許可証、ラディの身分証明書を見せると、案内をつけすんなり通してくれた。

 市民層としてはそれなりの恰好をしていたので、怪しまれなかったのだろう。


「これはよく来てくださった、まずは一服」

「ありがとうございます、エディントン伯爵閣下」


 エディントン伯爵は笑顔で迎え入れてくれ、小姓が紅茶を入れてくれたあと、人払いした。

 紅茶を互いにひと口味わい、話を切り出してくれる。


「で、大切なご用件とは?」

「実は……」


 ラディはクレア夫人の言動とミーナの反応、そしてすでに知っているだろうが、魔術師団付属学校と王立高等学院魔術科の平民の現状、また娘には自分なりの教育プランがあることを説明した。


 一通り聴き終えたあと、エディントン伯爵はなんとラディに謝罪した。本当に誠意ある人間だ。


「妻が誠にすまぬことをした。あれはご存知の通り魔術師の家系だ。ミーナさんに才能があると思い、手元で育てたくなったのだろう」


「ご厚意は大変ありがたいのですが、私もすでに準備を整えておりました。ですので、伯爵閣下から奥様にお伝えいただければ、大変ありがたいのですが……」


「ラディ殿。二人っきりだ。デニスと呼んで欲しい。

失礼を承知で申し上げる。できればその“準備”を教えていただけまいか?妻に話す以外は他言はしない」


「私の素性をご存知のデニス様には、特に隠すことでもございません。

私の師匠、バルバトリ・ヴァスティタスには、魔法学を研究する友人がおります。

ヒポポクラーク先生です。師匠を通し交流があり、私も時折手紙を差し上げております」


 机の上にそっと手紙を置く。

 バーリことバルバトリと親交があり、ラディもよく知っている。

 この手紙も《転移》し本人に書いてもらったものだった。


「なんと!隣国の魔法学の権威、ヒポポクラーク教授とは!失礼する」


 手紙を改めたあと、ゆっくりと深呼吸していた。


「つまり、ミーナさんの家庭教師にご自分のお弟子のお一人を遣わしてくださると。こういうお話ですな」


「はい、仰るとおりです。実はその方はすでに帝都においでで、私どもの魔法薬局の近くに引越されました。ですので、奥様のお心遣いは辞退させていただきたく存じます」


「事情はわかりました。この手紙をお借りしてよいかな?」


「デニス様。それには魔術がかかっております。

私達家族と、先生のお弟子・ヒポポセヴァーノ先生に悪感情がある方は開けられません。念のため申し上げておきます」


 どういう意味で言ったか、伯爵は理解したようで淡緑色の瞳を細める。


「なるほど……。最初に読ませた方がいいな。

教えていただき感謝する」


「とんでもないことでございます。ご理解いただき、こちらこそ大変ありがたく存じます。

奥様に『ご厚意は大変光栄でした』とお伝えくださいませ」


「うむ、必ず伝えよう。ご足労だった」


 最後に労り送り出してくれる。

 エディントン伯爵が妻を(たしな)めてくれる人格者でよかった、と騎士団本部を出て自由な青空の下でしみじみと思った。


ご清覧、ありがとうございました。

コミカルなファンタジーを目指しつつ、ミーナとラディパパの成長と、精霊王様の斜め上溺愛、その周辺を描けたら、と思います。

誤字報告、ありがとうございます。参考と学びになります。


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