33.大雪と申し出
お待たせしました。再開します。
「アルバス!まって!まってたら!きゃっ!」
「わぉーん!わふっ!わふっ!」
3月に入り大雪が降った。
ご近所さんいわく、馬車が通れないくらいの積雪は久しぶりだと言う。
仔フェンリルのアルバスはすっかり喜び駆け回り、もこもこにした完全防寒のミーナと、追いかけっこをして遊んでいる。
子ども達は雪合戦をしたり、動物の雪像を作ったり、めったにない大雪を全身で楽しんでいた。
男達は役割分担し、地道に除雪作業をする。
最低限の行き来ができるようにするためだ。
まずは自分達の店周りと歩道をスコップなどで雪かきし、道路側に寄せて積み上げる。
井戸がある店は水を供出し、優先的に歩道を溶かし、排水溝に流し入れてくれていた。
「午後か夕方には魔術師団がこの辺りにも来てくれる。ひと息入れるか」
「皆さん、寒い中、ご苦労様です。あったまっとくれ」
角の飯屋に皆が集まり食事休憩だ。
おかみさんをリーダーに肉屋や八百屋の奥さん達も、具沢山スープを大鍋で作り、雪かき部隊に振舞ってくれる。
肉と野菜の旨みが溶け込んだスープは、ちょっぴり効かせた胡椒と適度な塩味加減が絶品で、さすがプロの味だ。
皆ではふはふと食べる。お腹の底からあったまる。
パン屋の差し入れ、焼きたてチーズパンも、かりっ、とろっ、ふんわりで、ぱくぱくいける。
惣菜屋からも、熱々の玉子入り揚げハンバーグやフライドチキンなどが届けられる。
肉体労働にはやはり肉だ。
揚げハンバーグは、噛むほどにゆで玉子と肉汁とひき肉が混ざり合い、こくが口の中に満ちる。
フライドチキンはパリッとした食感と、塩とスパイスが染みた柔らかい肉がうまい。
大人も子どもも皆、嬉しそうに頬ばっていた。
ラディもマルメロの蜂蜜漬けをお湯で割り、生姜を足したお茶を飯屋に持ち込み、希望者に振る舞っていた。
「マルメロはかぜの予防にもなりますよ〜。森で取れたハチミツもおいしいですよ〜」
ミーナが呼びかけ、ラディがコップに注いで渡す。
疲れた時には甘いものも欲しくなる。ほとんどの人が飲んでくれていた。
〜〜*〜〜
午後に回ってきた魔術師団の雪掃除は、それだけで見ものだ。
特殊班の空間魔術師は、風魔術師が《風刃》で切り取った雪をどんどん《収納》していく。河に流して溶かすためだ。
水魔術師は《温水》で溶かし、氷魔術師は《解氷》し、それを火魔術師が《乾燥》させていく。
土魔術師は積雪や魔術で破損などが生じた道路などを《修復》していた。
通りの積雪と住民が集めた雪を、あっという間に片付けてくれた魔術師達に、周辺住民は拍手を送り、子ども達は憧れの目を向ける。
彼らはあくまでも任務の一端で、通りをどんどん移動していった。
ふくろう魔法薬局は休業だったが、風邪を引いたかも、という数人が訪ねてきて、薬を処方しておいた。
「お父さん、やさしいね。雪かきで疲れて、お休みなのに」
「風邪は、いや病気は早いうちが肝心だ。早めに薬を飲んでよく食べよく休めば治りも早い」
「早いうちが“かんじん”なんだ。“かんじん”、“かんじん”。辞書で調べてこよ〜っと」
ミーナは知らない言葉があると、聞かずに辞書で調べるようになった。
前々からラディが言ってたことを実行しているだけなのだが、「ねぇ、なぁになぁに」が聞けないと、妙に寂しかったりもする。勝手なものだ。
「その前にお風呂に浸かってあったまるぞ。それこそ風邪予防だ。アルバスもな」
「はい、お父さん。アルバス、行こ」
風呂上がりも一人と一匹はラディにより、もふもふもこもこにされた。
ぽかぽかの部屋で、魔術を駆使して作った、ほかほかのかぼちゃスープと、にんにくソースの効いた甘辛肉と野菜のソテーでお腹いっぱい、幸せな夜だった。
〜〜*〜〜
と思ったのに、コイツはなぜかやってくる。頭から湯気を立てていた。
「どうした。今日は何の用だ?」
「ミーナにこれ以上男を近づけるでない!不躾にも触りおって!」
「ああ、一緒に遊んでて、転んだの助け起こしたり、雪まみれになった帽子をはたいて、またかぶせただけだろうが。
気まぐれな妖精でも、たまには下のモンの面倒を見たりするだろう?一緒だ」
「ミーナは我の花嫁ぞ!みだりに触れていいものではない!」
「まだ花嫁じゃないっつーの、なんべん言やあ、わかるのか?!このポンコツ頭の色ボケ爺!」
「なにお〜。言わせておけば!おぬしの養育は甘いのじゃ。ミーナを見て『かわいい、マジかわいい』とか言う男もいたのじゃぞ!」
「そりゃ、アルバスにだろ?」
「はあ?!なぜあの仔フェンリルに?!」
「この辺りで、ミーナに面と向かって『かわいい』って言えるマセガキはまだいねえよ。俺もそこは把握してる。
犬が大好きなマークって子がいる。雑貨店の末っ子だが、アルバスが大のお気に入りなんだよ」
あのマギーに突っかかられた一件が広まり、『ミーナちゃんが好きなのか?』と親がマークに聞いたところ、きょとんとしていたという。
ミーナといつもいるアルバスを気に入り、『かわいい』と言ったのをマギーが誤解したという、大人の間では笑い話となった。
マギーはマークにも謝り、二組の両親ともども『お友達』ということに落ち着いていた。
「はあ?ミーナがあのフェンリルよりかわいくないというのか?!許せん!」
「お前、いい加減にしろ!!対象はミーナじゃないんだ。これで話はおしまいだ。この付きまとい変態野郎!」
「これだけではないわ!おぬしも油断しておる!後悔しても知らぬぞよ!」
精霊王がさあっと一陣の風となって、花の香を残し消える。
「油断……。なんのことだ……」
ラディは残された芳香に顔をしかめ、《清浄》で香り成分を除去した。
〜〜*〜〜
数日経ったある夜、夕食後にソファーで食後の薬草茶を飲んでいると、ひと息ついたミーナが切り出す。
「お父さん、お話がしたいことがあるの」
ミーナはきりっと顔を引き締め、茶色い瞳は少し緊張している。
「ミーナ、なんでも話してごらん」
ラディに促され、背中を押されたように話し始める。
「あのね。この前の大雪の時、魔術師団の人たちが雪をどかしてくれてたでしょ」
「ああ、そうだね。いろんな魔術を組み合わせて見事だった」
「豊穣祭の山車の時も、すごかった。
お父さんがこんな魔術を使ってるんだ、って教えてくれたのが、もっと、もっとすごかったけど……」
あの夜、ミーナに質問されて、《投影》で山車の映像を小さく再現し、『ここは水魔術と風魔術の組み合わせたものだ』などと説明した。
『あれはどんなだったの?』と次から次へと質問され、『なぜなに癖が出てるな』と思いつつ、自分も楽しかった記憶を思い出す。
『ランドラドラの龍退治』の山車を説明させられたのは、さすがに気恥ずかしかったが——
「ミーナにそう思ってもらえて、父さんは一番嬉しいよ」
「うん、それでね。えっと、あのね……」
ミーナは続きを言うか、言わないかで迷ってるようだった。
もうすぐ5歳だが、ラディとセバスチャンの教育のためか、並みの4歳児ではない。
これは“大いなる力”を内包したミーナ自身にも起因していると思われたが、許される時はなるべく子どもの時間を過ごさせてやりたかった。
「なんでも話してごらん。父さんはミーナの味方で、ミーナの話を聞きたいと思ってるよ」
義父だということもその経緯も言い出せぬまま、偽善的だとも思うが、事実でもある。
ミーナは静かに深呼吸し、気持ちを落ち着かせようとしている。これもラディ達が教えたことだ。
『よしよし、きちんと実践できてるな。あとで褒めてやらないと』などと思っていると、ミーナがゆっくり話し始める。
「……あのね。この前の、“刺繍”のレッスンのあと、クレア夫人が、話してたの。
魔術師団の、魔術がたくさん、勉強できる“がっこう”がある、って。
それで、ミーナに、行ってみたくないか、って」
ラディは、精霊王の『お前は油断している。後悔しても知らないぞ』という捨て台詞を思い出していた。
ご清覧、ありがとうございました。
コミカルなファンタジーを目指しつつ、ミーナとラディパパの成長と、精霊王様の斜め上溺愛、その周辺を描けたら、と思います。
誤字報告、ありがとうございます。参考と学びになります。
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活動報告でもお知らせしていますが、作者都合により、基本週に1回、他は不定期更新とさせていただきます。
よろしくお願いいたしますm(_ _)m
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