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31.雪の不思議


「どうじゃ、どうじゃ、見事な細工であったろう?」


 親子水入らずで過ごした冬至の晩にも、遠慮なく押しかけてくる。

 それが精霊王だ。見事な浮かれっぷりだ。

 こっちの都合はお構いなしなのだから、覚悟はしているラディも多少は腹が立つ。


「ああ、見事なモンだった」


「あれは我が我が森で作ったのじゃ。ドワーフに作らせた見事な細工をお主が断るゆえ」


「貴金属はダメだと通告したぞ。何度も言わせるな。最初からあれを出せばいいものを」


「我が花嫁にふさわしい宝物を与えぬお主が悪いのじゃ!」


「ミーナを人間として育てることにお前も合意した。自分で自分の道を選べる身分の人間は、金銀細工を4歳の時から持ったりしてねえんだよ!

お貴族様は、お前のトコと同等かそれ以上に縛られるんだ。いい加減、人の世を学べ!

もし花嫁を選んでも、『話題がまったく合わない』って嫌われるぞ?!」


「ミーナは自然が愛でておる。草花や森の生き物の話だけで充分じゃ」


「今はな。二十歳の人間の女性にそれが通じるか考えてみろ。あのオルゴールにも、ブローチやマギーとおそろいの指輪を大事に入れてたんだ」


「ふ、ふん!わかった。少しは考えておいてやろう。

いい気分のままで帰りたいしの。ではまた来る」


 精霊王が《転移》して消える。ヤツにしてはあっさり去った。ラディにはそれが何か引っかかった。


——俺が却下した自鳴琴(オルゴール)は、ドワーフが作った。それにそっくりなアレは、ヤツが作ったって言ってたよな。

ってことは、材質違いのほぼ同じものが、ドワーフに突き返してなければ、ヤツの手元にあるってことだ。


 偶然にもヤツが欲しがっていた、“おそろい”となっていた。それが何を意味するかは、ラディにもわからない。

 ミーナが眠った後、再度《精査》したが何も引っかからなかった。


 ただ精霊王の“不思議”は、ラディにも手が出せないこともある。

 なぜ“涙”が真珠や宝石になるのか。それも本気泣きしかならない。人のことをいろいろ言うが、ヤツこそ摩訶不思議だ。

 頭をガシガシかいたラディは、『要経過観察だな』と一旦は据え置きし、そのまま眠った。


〜〜*〜〜


 年末年始は大晦日と新年1日だけ休み、ふくろう魔法薬局は営業を続けていた。

 今日の待ち合いでは、ある話題で持ちきりだった。


「ね、見た?」

「見たわよ〜。気になっちゃって、ちょっと夜ふかししたけど、この目で見たわ。

どうして雪が降ってるんだろうね〜」

「え?なになに?」

「このところ、ほぼ毎晩、真夜中に雪が降ってんの。寒いは寒いけど、雪降るような天気じゃないでしょ?

それもさらさら〜って、少しだけ。不思議よね〜。誰か魔術でもかけてるのかしら?」

「雪降らせるのって、氷魔術でしょ?魔術の中でも珍しい。ラディさんも魔術師だけど……」


 カウンターで別の患者の薬を説明し終えたラディは、おしゃべりな女性患者達と目が合う。


「私は薬を《調合》する際、ごく狭い範囲と量しか、氷魔術はできません。凍らせないと抽出できない成分もあるんです。

雪を降らせる《降雪》の魔術なんか無理ですよ」


 ごく真っ当な魔法薬師として答える。


「そうよね〜」

「ごめんなさい、変なコト聞いちゃって」

「あら、そういえばミーナちゃんは?」

「今は魔術の本を読んでます。夢中になってまして……」


 今もセバスチャンが来て教えてくれている。近ごろ特に熱心になっていた。

 最初に習う光の詠唱魔術、《点灯》が初めて成功した時は嬉しくて仕方なく、ラディにも披露した。

 セバスチャンは教師としては厳しく、“まぐれ”レベルでは“認定”しなかったため、ミーナなりに努力を重ねやっと合格した。

 その日はお祝いに、夕食が豪華になったほどだった。


 今は“看板犬”のアルバスが患者を出迎え、待ち合いでかわいがられている。


「まあ、あんな小さいのに。偉いわねえ。

っと、どっこいしょ。アルバスちゃんもいつ見てもかわいいわね〜。でもいつまで経っても小さいまんまね。小型犬なのかしら?足はこんなに太いのにね」

「太いのはあんたのお腹で十分よ」

「そりゃそうだ。ところでさ〜」


 成長の遅いアルバスが話題からそれて、ラディはホッとする。

 それよりも“真夜中の雪”が気になっていた。

 ある事象と時を一致していたからだ。


 最近、風邪の患者が減っていた。

 王都での流行は続いているにも関わらず、“ご近所さん”区域だけ、ぱったり風邪では来なくなっていた。

 隣接する区画からは変わらずやってくるので、忙しさが多少楽になったくらいだが、気にはなっていたのだ。


——真夜中の雪か。確かめる価値はあるな。


 ラディは次の患者のため、調合室へ入っていった。


〜〜*〜〜


「でね、今は《水滴》をやってるの。セバスチャンがやると、10回唱えたら10回とも、コップの中に水が出てくるの。ホントすごいの。ミーナもがんばるんだ〜」


 授業を終え、午後後半からは魔法薬局を手伝ったミーナは、セバスチャンが作った夕食をラディと食べ、今は湯上がりぽかぽかで、にこにことご機嫌に話す。


「じゃ、呪文を覚えたかな?」


「『こらいよりの大気にとけうかび、この世のしゅべてに内包しゅるものよ。

こにょ指がしめしゅものへ(いで)よ』。

あ〜ん、うまく言えてないよ〜」


 魔術の呪文は古代魔術語を用いる。4歳児でここまで言えれば大したものだ、と思うが、口には出さない。


「習い始めにしてはまあまあだ。基本は大切だ。しっかり学びなさい。そろそろ休もうか」

「はい、お父さん」


 ベッドで寝かしつけるが、あの冬至の夜から、眠る前には自鳴琴(オルゴール)を鳴らして、とねだる。

 聞きながら、「みんなの風邪、早くよくなるといいのにね。お父さんもご近所さん達も大変だもん」と言ったりしながら、いつのまにか眠っている。

 《催眠》の魔術もない。ごく普通に眠っている。


「実物を見るしかないな」


 ラディはミーナの寝顔を眺め、(つぶや)いた。


〜〜*〜〜


 真夜中、調合室で作業をしていたラディは、外のわずかな変化に気づき、ドアから出た。

 確かに雪が舞っている。

 それも美しい結晶体だ。この気温ではありえない。

 手に落ちたひとひらの雪に触れ、昔の記憶を思い出す。


「コイツは“清めの雪”だ」


 “清めの雪”や“清めの雨”は、魔術ではなく“魔法”だ。精霊や神などの領域だった。

 地上の(けが)れ、不浄な存在を、《浄化》よりも長く強く払ってくれる。

 道理で風邪が治るわけだ。


 と同時に、これをやってるヤツはほぼ確定だ。

 魔法薬局に戻り、奥の部屋に入ると、やっぱりいた。


 ドヤ顔で、立ちポーズを決めている。

 美貌がさらに際立っているのが腹が立つ。

 美男好みの神殿に、供物(くもつ)としてぶち込んでやるかと思うほどだ。


「お前、何やってる?!」


「ふふふのふ〜〜〜ん。

魔術ではない。我の“力”でミーナの祈りを叶えてやっているのじゃ。

優しいの〜。眠る前に『皆さんの風邪が治りますように』じゃぞ?

このまま育てば、さぞや心が清らかで、我にふさわしい花嫁に」


 ラディは精霊王の頭に、《結氷》で作った氷の粒を降らせる。


「痛い!何をするのじゃ!」


「止めろ!いろんな意味で介入すんな!

なんで《結界》を越えて知っている?!」


「ふふふ〜。わかるまいて〜。我も驚いたほどじゃ」


「あの、自鳴琴(オルゴール)、壊してくる」


「や、やめておじゃ!やめるのじゃ!ミーナが悲しむぞえ?」


「変態おっさんの覗き趣味を叶える父親がどこにいる。どうせ、最初の自鳴琴(オルゴール)と共鳴かなんかしてるんだろうが!」


 図星だったらしく、右袖で口許を隠す。

 そういう仕草もいちいち美麗なのが、今夜は特に気に食わない。


「さっさと持って来い!でないとマジで二十歳まで出禁だ!」


「ひぃ〜〜、この冷血漢め!」


「ああ、龍だからな。お前には特に冷え切ってるわ!」


 そこから続いた精霊王の泣き落としにも屈せず、実力行使しようとして、やっと諦める。

 渋々持ってきた白金細工の自鳴琴(オルゴール)は、呼び出したセバスチャンにより、城の宝物室に無事にお蔵入りとなる。


 セバスチャンは自鳴琴に“精霊の涙”を入れ、「ふふっ、お気の毒ですな」と囁いた。

ご清覧、ありがとうございました。

コミカルなファンタジーを目指しつつ、ミーナとラディパパの成長と、精霊王様の斜め上溺愛、その周辺を描けたら、と思います。


誤字報告、ありがとうございます。参考にさせていただきます。

ブックマーク、★評価、いいね、感想などでの応援、ありがとうございます(*´人`*)

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