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27.豊穣祭 上


 豊穣祭が始まった。


 ミーナとラディは早起きし朝食をすませ、マギーの家へ向かう。総刺繍の服を貸してもらうためだ。

 この日のために、ラディはセバスチャンから編み込みと三つ編み指導を受けていた。

 練習台はセバスチャンだった。すまない。


 ご近所さんの商店街は、『豊穣祭特別価格!』と商魂逞しく営業するところと、すっぱり休むところと二手に別れていた。

 ラディのふくろう魔法薬局は後者だ。


 マギーの家で着せてもらった服は、白ブラウスの上に赤いベスト、黒いスカートで、王都近辺の民族衣装でもある。

 色とりどりの花が刺され、うといラディでも見事だと思う。


 毎年この日のために少しずつ刺していくそうだ。

 服を着せた後、お揃いの髪型にしたいという二人のため、ラディは奥さんと相談する。

 編み込んでから二つの三つ編みにし、総刺繍の白いボンネット帽子をかぶせ、あご下でリボンを結ぶ。

 リボンまで刺繍入りだ。職人の手仕事に尊敬の念を(いだ)く。

 マギーの兄も白ブラウスに黒のトラウザーズ、赤いベストにはモザイク模様の総刺繍だ。


 大人たちも白と黒の上下にベストは変わらない。


「今日は似た格好の人たちが、わんさかいるんだ。

ミーナ、絶対に父さん達の側にいるように」


 ミーナは今日もふくろうのブローチを隠して付けているし、すぐに探し出せる自信はあるが、怪しまれないために注意しておく。


「マギーもだ。お前は夢中になったら、突っ込んでいくからな。ミーナちゃんのお姉さん役になるんだろう?」


「うん、きちんとやるよ。ミーナ、着いてきてね」

「うん、マギー」


 奥さんはお揃いの二人に、「可愛い」を連発している。

 気持ちはよくわかる。

 ミーナはとても愛らしかった。


 去年はちょっとしたよそ行きの服で迷子にならないよう、ほぼ縦て抱っこか肩車で見物した。

 今となっては申し訳なく思う。

 それでも2日目の山車(だし)見物は、豊穣の女神の大聖堂の尖塔の上に《転移》し、《透明》効果を付与した《結界》の中から見物はした。



 今日の目的地の王立競技場、スタジアムを目指し出発する。

 屋台や大道芸を楽しみながら行く予定だ。


 少し行くと、祭り気分を盛り上げる音楽が流れてくる。

 通りで演奏し、数曲演奏すると、おひねりをもらう流しの音楽家もいれば、明日の練習をしている山車(だし)のメンバーもいる。


 大通りに出ると、屋台がずらりと並び、あちこちから売り文句が聞こえる。

 花びらや紙吹雪が舞っているのは、魔術を使った大道芸だろう。

 子どもも大人も足取りが軽くなる。

 ミーナとマギーもあちこちのぞき、にこにこしており、奥さんやラディにすぐに連れ戻されていた。


 屋台は欲しいものを全部食べていると、すぐにお腹いっぱいになりそうなので、皆で分け合い、いろんな食べ物を楽しむことにした。


 チーズと野菜たっぷりの折りたたまれたガレットは、ミーナとマギー、兄と奥さん、ラディとジョニーでひと口ずつ食べる。

 焼きたてチーズが野菜とガレットをとろりとまとめ、噛むと香ばしさとしゃきしゃき野菜のみずみずしさが弾ける。

 ミーナとマギーが「おいしいね」と言い合い、ラディもジョニーと「なかなかいけますね」「確かに」などと頷く。


 牛焼肉串はラディとジョニーは香辛料たっぷりでホットワインと、子ども達と奥さんはあっさりソースの串にホット・レモネードを選ぶ。

 皆ではふはふしながら、笑顔で食べる。

 噛めば湧き出る肉汁と肉の後のホットワインは美味い。思わずジョニーと乾杯する。

子ども達も真似をして乾杯し、皆、笑いあう。

 やはり肉はご馳走だ。


 フライドポテトは、大きめの袋に入れられ、定番の塩コショウから、トマトソースのディップ付きまで、サクサクほこほこ芋の食感と変化する味わいが楽しい。

 「これって切りがないよね〜」とはマギーの言い分だ。


 手や服を汚すと、ラディがすぐに《浄化》する。

 奥さんにはすごく感謝された。

 宝物のような服を汚さないよう、毎年気を使っていたそうだ。

 夫が1年かけて、娘と息子のために刺繍をした晴れの日の服だ。もっともだ、とラディも思う。


 次はデザートで、飴を掛けた甘酸っぱいフルーツ串をパリパリしゃきしゃき食べながら、大道芸を観る。


 魔術を使った手品で、シャボン玉を自由自在に色んな大きさにして、お客を包み込んだり、大きな花びら状の泡を重ね薔薇にしたり、よく工夫している。シャボン液も特殊なのだろう。

 最後は大きなシャボンの球に、女の子を包み込み、泡のドレスを重ねて着せて、拍手喝采だった。

 泡を凹ませたカゴに、皆が銅貨や銀貨をおひねりで入れていく。


 銀貨を入れたラディの袖をミーナがつんつん引く。

 きらきら茶色い瞳を輝かせていると思ったら、「家に帰ったらやってね」とおねだりだった。

 「帰ったらね」と答え、どの魔術を組み合わせれば、ああなるか、考えつつ、マギー一家とスタジアムへ向かった。


〜〜*〜〜


 ここでは冒険者ギルド主催のトーナメント戦が開かれていた。

 と言っても真剣勝負(ガチ)ではなく、デモンストレーション的な試合が多い。ギルドの花形のショーの色合いが濃かった。

 それでも人気の催し物だ。


 ミーナに服を貸してくれると聞き、お礼はいらないと言われたが、『さすがに』と思い、受付のローラに相談した。

 銀貨5枚の手数料を払い、関係者や取引先用の席を購入できた。

 もちろん少々お高い正価だ。


 席は正面寄りで中々いい場所だ。ローラに感謝する。

 ジョニー一家も初めてで、特に兄が楽しみにしていた。

 確かにS級同士の試合なぞ、滅多にお目にかからない。

 観覧席の前には、透明な防御壁があり、観客の安全は保証されている。

 安心して迫力を楽しめる、という訳だ。


 ちょうど始まったのは、A級の魔法剣士と水魔術師の試合で、水魔術を駆使した攻撃に、魔法剣士は魔術で《強化》した剣技で対抗していた。


 巨大な《水球》は切り裂かれ四散し、《水流》は巻き取られ、振り払われる。

 すぐ前の防御壁に水がバシャッと飛んできて、ミーナもマギーもびっくりしている。

 兄は興奮し、魔法剣士を応援している。


 さまざまな技を繰り出していたが、最後は《水壁》で魔法剣士が取り囲まれ、《流水》で大量の水を注ぎ込まれる。

 魔法剣士が溺れかかるところを、《身体強化》の力技で、フィールドを踏み抜き、大きな穴を開け水を抜く。

 ここで審判が()め、引き分けとなった。

 フィールドは土魔術師がすぐに《整地》し元に戻る。


 その後も、色んな冒険者達が、見応えと娯楽を兼ね備えた試合を見せてくれた。

 最後のS級の火魔術師の《火龍》と、風魔術師の《風龍》の戦いは圧巻で、観覧席の防御壁がびりびりと震えるほどだ。

 魔術が生み出した2頭の龍が生み出す火柱や竜巻に、ミーナは「すごいね、すごいね」と夢中になっていた。

 これも引き分けたが、大喝采を浴び、魔術による花吹雪で、華やかに花びらが舞い散っていた。


〜〜*〜〜


 スタジアムからの帰りは、屋台で子ども達と買い物をした。

 ラディとジョニーが、「銀貨1枚以下で好きなものを選びなさい」と言うと、兄は本を、ミーナとマギーはお揃いの指輪を選んだ。

 本は『魔道具入門』、指輪は色とりどりの小花がエナメル模様で描かれていた。

 指輪の屋台では、ジョニーも奥さんに相談しながら選んでいた。夫婦円満で何よりだ。


 ジョニーの家で夕食をご馳走になり、着替えて帰る途中、肩車をねだられる。


「うっわ〜。やっぱり高〜い。気持ちい〜い」


 夜は冷えるので《適温》にし、ミーナのはしゃぐ声を聞きながら帰宅した。


 約束どおり、入浴時にシャボン液を作り、泡の表面を《膨張》させながら《固着》させ《浮遊》させる。

 全く違うものだが、見かけは似ている。

 ミーナはご機嫌なまま、湯上がりにソファーで(しゃべ)っていると、こてんとぜんまいが切れたように眠り、ラディがベッドに運ぶ。


「おやすみ、いい夢を」


 ラディはすうすう寝息を立てるミーナの額に手を置き、栗色の髪を優しく撫で、久しぶりにあどけない寝顔を堪能する。

 自室に戻ると、どこからか微かに聞こえてくるざわめきや音楽をよそにぐっすり眠った。


ご清覧、ありがとうございました。

コミカルなファンタジーを目指しつつ、ミーナとラディパパの成長と、精霊王様の斜め上溺愛、その周辺を描けたら、と思います。


誤字報告、ありがとうございます。参考と学びになります。

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