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26.実りの時

※日常系です。


「きれい……」


 11月に入り落葉樹が紅葉した森に、ミーナは見とれる。

 ラディには、時の流れの波間に現れては消える景色に過ぎないが、ミーナの表情で違ってみえる。

 弟子達から「綺麗だ」と聞いても、『そうか』という“認識”のみだった。

 ミーナの感嘆が加わると、色鮮やかに変化し、ラディも『美しい』と思える。

 残っている人の感性が、無意識にミーナに応えている。

 ラディはまだそれに気づいていない。


「ミーナも綺麗だぞ。

さあ、アカヒメカゴの実を取ろう。風邪によくきくんだ」

「はい、お父さん」


 籠のように凹んだ赤い実を、ミーナはせっせと取る。

 ラディは他にも風邪や流行性感冒に効果のある素材を《採取》する。

 患者が増える寒く乾燥した冬に備えるためだ。



 昼食は、ラディが森で採ったオカドリタケとオカドリタケモドキを使い、きのこスープを作った。

 いい匂いのオカドリタケは一度《乾燥》させるとさらに香ばしく、水で戻すと旨みたっぷりのいい出汁になる。

 食感もしこしこと食べごたえがある。

 食用として人気が高く、ギルドから常に依頼が出ている。味は変わらないので、傷のある買取りで値引きされるものを使う。

 オカドリタケモドキも柔らかく食べやすい。これは食べるぶんだけを取った。



「お父さん、いいにおいだね。すっごくあったまる」


「オカドリタケの香りだ。群落を見つけたんだ」


「しこしことぷにぷにとあって、おもしろいね」


「しこしこしてるのがオカドリタケ、ぷにぷにしてるのがオカドリタケモドキ。どっちもうまい。

こうしてパンに浸すと……」


 スープに浸した熱々のパンを、ラディはほんの少し《加冷》し、ミーナの口許に持っていく。

 パクッと食べたミーナが目を見張り、にっこぉと笑う。

 

「おいしい。甘くてふわぁってスープがしみでてくる〜」


「そうだろう?パンもスープもおいしくなるんだ」


「お父さん、魔法使いみたい。あ、魔術師だった」


「そりゃ光栄だ」


 焚き火であぶったウィンナーをはさんだ即席サンドイッチも、プチッという食感の後のじゅわあと広がる肉汁の旨味を、パンが吸い取ってくれる。

 きのことお肉の旨味を堪能した後は、みずみずしく甘酸っぱいりんごでさっぱりしたミーナだった。


 仔フェンリルのアルバスは干し肉を与えると、嬉々として食べている。

 遊び回ったためか、白い毛並みは赤や黄色い落ち葉だらけだ。


「お父さん。アルバス、きれいにしないの?」


「今してもまたああなるだろう?帰る前にするよ」


「あっ、そうか。頭がいいね、お父さん」


「そりゃどうも」


 実の父と思っている存在が、何百年も生きた人外に近いモノだと知れば、ミーナはどう思うだろう、と、ふとよぎったがすぐに振り切る。

 今は独り立ちできるよう、育てることに集中しよう。


「さあ、昼休みは終わりだ。今日は午後も働くぞ」

「はたらくぞ〜」


 一日みっちり素材採集で、ミーナは帰りの馬車で、ラディに寄りかかりうとうと眠る。

 アルバスも荷台で丸くなり、可愛い寝息の二重奏だった。


〜〜*〜〜


 ギルドに到着し、まだ眠そうなミーナを縦抱きに抱え、受付カウンターに並ぶ。

 とっぷりと日も暮れた後で、(かえ)って空いており、女装趣味のローラことローランドが笑顔で出迎える。



「あらぁ、お久しぶりね〜。ラディさん。

まあ、ミーナちゃんはおねむなのね〜。まるでお人形だわ」


「今日は一日中森にいたんでね。で、これを見つけた」


 ラディは採集バッグから、オカドリタケをカウンターに並べる。

小さな山ができるほどだ。


「うふふ、また良いものを。ちょっと待っててね〜」


 奥へ行き、重さを計ってきたローラが足取り軽く戻ってくる。


「あたしも1本、分けてもらうことにしちゃった。おいしいんだも〜ん。役得ね。

あ、“例の件”は話が進んでるわよん。『冒険者ギルドがそこまでするのか』とか『冒険者の食いぶちを奪う』とか言ってたけど、結局はお金を取ったみたい」


「安定供給が第一だし、今のままだと自然種は遠からず王都近辺から消える。やるなら今のうちだ」


「その通りなのよね〜。あ、はい、どうぞ」


 カウンターに金貨7枚と銀貨3枚が並べられる。ラディは受け取り、その内の銀貨1枚をローラへ滑らせる。


「お世話になってるローラさんが喜んでくれるなら何よりだ。で、何か面白い話はあるか?」


 ローラは地声で声を(ひそ)める。


「魔術師団で不正が発覚した。

何でも火魔術師班の班長が、予算を着服してたらしい。

魔術師団の信用に関わるって極秘扱いだが、摘発元が、魔力枯渇した前の氷魔術師班の班長らしいぜ」


「え?ソイツは確か、ニクスってヤツじゃないか?」


「そうなのよ〜。滅多にない“魔力枯渇”で事務部に部署移動したらしいんだけどさ〜。

魔術が使えなくなったショックで人が変わったのか、すっごく下手(したで)になってたんですって〜。

でも不正に気づいたんだから、有能はどこに行っても有能なんだって評判よ〜ん」


「なるほど。確かに面白い。また来る」


「ラディさんなら、いつでもどうぞ〜。ミーナちゃんもね〜」


「……ねむ、ぃにゃ。パパ、だい、しゅき……」



 ミーナの寝言にラディとローラは顔を見合わせる。

 ローラは大爆笑を口に当てた手で押さえ、ラディは首を赤くしギルドを去った。


〜〜*〜〜


 秋の豊穣祭——


 王都には豊穣の女神の大聖堂がある。

 また、“壁”外を少し行くと農地が広がり王都の台所と言われ、大聖堂にその収穫物が積まれる季節でもある。

 祭りは3日間に渡り盛大に行われ、さまざまな催し物も開かれる。

 ふくろう魔法薬局も3日間はお休みだ。


 ミーナとラディは、マギー一家に誘われ、初日に出かける約束をした。

 マギーの白ブラウスに合わせる、ベストとスカートと帽子は、父親である刺繍職人のジョニーが娘のために心を込めた総刺繍の品だ。

 成長に合わせ着られなくなったものも取ってあり、ミーナに貸してくれるという。


「いや、そんな大事なもの借りられません」

「マギーがミーナちゃんとお揃いがいいって聞かないんですよ。お願いします」


 娘達はすっかりその気で、あとはラディの許可次第だ。


「では、せっかくのご好意、ありがとうございます。

ミーナ、大切に着るんだよ」

「はい、お父さん!ジョニーおじさん、マギー、ありがとう!」


 ミーナは嬉しくてぴょんぴょん跳ね、マギーも一緒に跳ね回り、二人の父から注意される。


「いや、お礼の意味もあるんですよ。ラディさんの目薬を使うようになったら、調子が良くなりましてね。本当に感謝してます」

「それは薬効と病症が合致したんでしょう。何よりです」


 刺繍職人は目を酷使する。

 実はラディはジョニーに調合した目薬に《回復薬》をほんの少し混ぜていた。効き目がよくなるはずである。



 ミーナが祭りを楽しみに待つ中、エディントン伯爵家へ刺繍のレッスンに行く日が来た。

 今日は襟元を赤のリボンで結んだ深緑色のワンピースで、結い髪もセバスチャンの自信作だ。

 前回からレッスン後のお茶会に出席し、ミーナも伯爵家に慣れてきていた。


 いつも通り、ラディはロバートの診察をする。

 筋肉の付き具合も順調で、持久走の距離も、素振りの回数も伸びたと嬉しそうに話す。

 成果は()め、寒い時期は故障を防ぐためにも、基本の体操、特に柔軟を行うよう助言し、薬を処方し終える。


 読書をしながら待っていると、レッスンを終えたミーナとクレア夫人が現れロバートも参加しお茶会となる。

 ミーナもほぼ音を立てずに、お菓子と紅茶を味わえるようになっていた。


 最初の招待から半年——


 幼いながら、よくここまで来たと思う。

 セバスチャンに教えたら喜ぶだろう、と思っていると、エディントン伯爵が現れた。

 話がある、とにこにこだ。


「ラディ殿。豊穣祭のパレード見物、ご一緒にどうかね?」


 パレードは2日目に開催され、さまざまな山車(だし)が練り歩く。魔術を用いたものも多い。


「あら、楽しそう。ミーナさんから(うかが)いましたが、2日目は特にご予定がないとか。

今年はふだんより良い桟敷(さじき)になりましたの。是非……」


 桟敷(さじき)は大通りに設置され、貴族やギルド、富裕層が見物する席だ。

 ミーナは茶色の瞳をきらきらさせラディを見上げる。

 ミーナは悪くない、決して悪くない、と思いつつ、ラディは微笑み、申し出を承諾した。


ご清覧、ありがとうございました。

コミカルなファンタジーを目指しつつ、ミーナとラディパパの成長と、精霊王様の斜め上溺愛、その周辺を描けたら、と思います。


誤字報告、ありがとうございます。参考にさせていただきます。

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― 新着の感想 ―
 ローラさん! お久〜 お元気そうで何よりです♬  っ! 口を押さえて爆を抑えるなんて、肺が苦しかったでしょ、ローラさん。腹筋も頑張ったと思います。お陰で、ラディさんの色付いた首筋を視姦できましたわね…
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