24.栗ひろい
※日常系です。
「あのね、マギーがね」
このごろのミーナの話題の3割ほどを、友達になったマギーが占めるようになった。
初めての経験で楽しそうだ。
マギーも学校と家の手伝いで忙しいが、時々薬局に来て、ミーナの部屋で話したり、アルバスと遊んでいく。
友達になった朝、マギーの父親には、『過去に誘拐未遂があり、極力1人は避けている』と伝えた。
驚かれたが、遊ぶ時はミーナの部屋で、という申し出に納得し、マギーにも話してくれた。
父親は刺繍職人で、娘の服や小物にも刺していた。それを持ってきてミーナに見せたりする。
ラディも見たが中々見事だった。
マギーは、ミーナのことを妹のように思い始めているようだ。
ただしミーナがマギーの家へ遊びに行くのは、『ミーナが魔術を身につけてから』と約束した。
「恐いモノが来て、父さんの大切なミーナを連れていくかもしれないんだ。
ふくろうのブローチもあるけど一人は心配だ」
「魔術を覚えて、ミーナが自分で守れるようになったらいいんだよね」
「父さんが試して、合格したらね」
ミーナはセバスチャンの授業に、より真剣に取り組み始めた。
世界が広がり、目標ができるのは良いことだ。
同時に、ラディは少し寂しくも感じ、「おいおい」と自分に苦笑していた。
〜〜*〜〜
マギーは良い変化で、ありがたくもある。
問題は、精霊王の忘れ物、というか置いて行かれた、ニクスの“力”だ。
あの夜、逃げないよう丸い《結界》を張り、セバスチャンを呼び出し相談した。
「精霊王が来るまで、預かるしかないか」
「しかしラディ様。このままですと、この“力”は魔素切れで消えてしまいますが……」
“力”を保つため、主人の魔素は必須だ。
「俺の魔素を与えると面倒になりそうだ。
セバスチャン、城のモノから少しずつもらって、与えてくれるか。
城に預けるのが一番なんだが、ヤツの反応は読めないんだ」
あの気まぐれ爺は、「おぬしの好きにしろ」か、「なぜ勝手なことを。なぜここにおらぬ」か、てんで予想がつかない。
目立たない容器も用意してくれることとなった。
で、翌日持ってきたのが、蓋付きの丸いガラス容器だ。
底に土を敷き草花を植え、小さなブランコを置き、まるで“力”のための小さな庭だ。
「城のモノに事情を説明したところ、『可哀想だし、土や草花に魔素を付与しておけば、長持ちする』と申しまして……」
「その通りなんだが……。どうしてブランコを?」
「遊ぶかもしれない、と申しまして」
「そうか……」
やむなく受け取り、“力”を移すと、元気よく草花と戯れた後、ブランコに乗った。
「……乗ったな」
「……乗りましたな」
「このまま、《結界》と《隠匿》を掛け、奥の部屋に置く。ミーナには見えない。
セバスチャン、世話を頼む」
「かしこまりました」
その声はどことなく楽しそうだった。
〜〜*〜〜
精霊王が現れぬまま10月半ばが過ぎた。
ミーナとアルバスを連れ森へ向かう。いつもの二頭立ての馬車だ。
今日は薬草採集の後に楽しみがある。
栗ひろいだ。
以前に見つけた栗の古木が、実りを迎えていた。
かなり早出だがミーナはご機嫌だ。
採集を済ませ昼食後に連れて行くと、ミーナは歓声を上げる。
「うわあ、おっきい〜!お父さん、前から知ってたの?」
「ああ、花が咲いてたの、見つけたからね。覚えといたんだ」
タヌキや小動物にとっても年に1度の恵みで、かなり気配がするため、《結界》を張る。
熊などの大型動物と魔物よけだ。
彼らにとっては、栗と肉とで二度美味しい場所だ。
アルバスは尻尾を振り、駆け出そうとする。
「待て!アルバス!
ミーナ。さっきも話したけど、栗のイガは刺さると痛いんだ。触らないこと。使うのはコレだ」
アルバスに命じた後、ぶ厚い手袋をしたミーナに子ども用トングを渡す。
「うん、これでひろうんでしょ」
「そうだ、えらいぞ。父さんがこうやるから、栗の実を取れるか?」
ラディはイガの両側を靴で踏んで押さえ、中の栗の実をミーナが取りやすくする。
アルバスは回りをぐるぐる歩き、くんくん嗅ぎ回っている。
「はい!お父さん!」
ミーナはわくわくしながら、濃茶色のつやつやした実を恐る恐るつまむ。
「とれた!」
「じゃ、この袋に入れる」
「はい!」
イガの中にある3粒の栗をつまみ、よいしょ、よいしょとラディが広げた袋に入れる。
繰り返しの中、時々火バサミから栗がころんと落ちる。
「あ、まって!栗さん!」
あわてて手で拾うミーナも可愛らしい。
しばらくすると、ミーナは「イガを踏むのもやりたい」と言いだした。
「ミーナは体重が軽いから、よく開いてるのじゃないとな。ほら、これなんかどうだ?」
「やってみる!」
ぱかんと口を開けたようなイガを両足で踏みつけるが、最初はうまくいかず、時間をかけて、やっと取れる。
「できた!」
「よくできました。っと、アルバス!」
目を離した隙に、栗のイガにちょっかいを出して、鼻先を刺したらしい。
「くぃんくぃん」と涙目で見上げてくる。
「アルバス、大丈夫?」
「さっきも言っただろう。アルバス」
「くぃ〜ん」
「お父さん、アルバス、痛そう」
「もう二度とやるんじゃないぞ」
ラディはアルバスの目を見ながら言い聞かせ、《回復》を掛ける。
喜んでいたミーナに疲れが見えたので、残りは適当な量をラディが《採取》し、栗拾いはお仕舞いだ。
「これで終わり?」
「ああ、これだけあれば充分だ。
森の恵みは皆のものだ。独り占めはよくない」
「ご近所さんたちに、わけてあげられたらなあって」
「それは無理だ。この木だけじゃ足りない。
ミーナ。この栗でお菓子を作って、お裾分けはどうだ?」
「うん、すてき!ありがとう、お父さん」
「と決まれば、早く帰ろう」
「はい、お父さん。わ〜い。栗のお菓子だ〜。どんなのだろ〜」
うきうきしたミーナの足取りは軽い。
帰りの馬車でもご機嫌で、どういう菓子かも聞いてくる。
ラディはセバスチャンが勧めてくれた菓子とレシピを思い出しながら話すと、「楽しそ〜」と目をきらきらさせている。
材料や道具を買いこみ帰宅する。
「栗がゆで上がるまでミーナはお風呂に入っといで。その後お手伝いだ」
「はい!お父さん!アルバス、行こうっ!」
ラディはその間、夕食の下ごしらえを終える。
湯冷めしないよう、《適温》にすると、ラディは茹で栗を小さな《風刃》で二つ割にし、中身を取り出していく。
ミーナは教えられた通り、スプーンで少しずつくり抜く。最後はラディもスプーンで手伝う。
ミーナに1粒食べさせ、自分も味見だ。
ほんのり甘く、ほくほくしている。
「うん、うまい。今年は当たりだ」
「おいしいね〜」
「これでマロンペーストを作れば、いろんなお菓子ができる。お裾分けはクッキーだ」
「ミーナ、クッキー、作るの初めて!」
ここからは魔術をフル活用だ。
《粉砕》した栗と牛乳、砂糖を《撹拌》しペースト状にすると、バターや薄力粉など混ぜクッキー生地を作り延ばす。
ミーナは自分とラディの分を、ハートや星形の型抜きで生地から抜いていく。
お裾分け用はラディが作る。
型に合わせ丸く薄く《成形》した生地を《焼成》し、自宅用はオーブンで焼いて完成だ。
すぐに《加冷》し、お裾分けは紙袋で包む。
「……これで完成だ」
「お父さん、すっご〜い」
「ミーナこそ、よく頑張った。一晩置いた方が美味しいらしいんだが。どれ、お茶にして味見するか」
「はい、お父さん」
ラディに助けられながら、やり切ったミーナはにこにこだ。薬草茶と共に試食する。
ほろっと崩れる、焼き立て独特の柔らかな食感に、栗の風味と香りが楽しい。
「おいし〜。“かくべつ”ですね〜」
「うん、うまい。これもいける。“格別”って誰から教わったんだ?」
「あのね」
アルバスを抱え、取って置いたゆで栗を食べさせながら、ラディはミーナの話に耳を傾けた。
ご清覧、ありがとうございました。
コミカルなファンタジーを目指しつつ、ミーナとラディパパの成長と、精霊王様の斜め上溺愛、その周辺を描けたら、と思います。
誤字報告、ありがとうございます。参考と学びになります。




