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21.人外と人 2


「なぜ、我を連れて行かなかったのじゃ?

誘わなかったのじゃ?ひどい〜」


 またも嘘泣きをしている、精霊王という名の美麗すぎる(じじい)だ。

 ラディが眠っていたところを、結界をどんどんしつこく叩きまくり、無理矢理起こして大迷惑だ。

 休み明け初日で魔法薬局は混み合い、大忙しだったのに、コイツはお構い無しなのだ。

 高貴な御方は、人外も人も、下々(しもじも)の事情を考えてくれないらしい。


「なんでお前を連れてかなきゃいけないんだ」


「ミーナは我の花嫁ではないか」


「だから、まだ花嫁じゃないっつーの。

文句がそれなら、俺は寝る」


「我なら花冠をもっと上手に作れるのじゃ。我が子達を総動員すれば、花のドレスもすぐに編めるのじゃぞ」


「これほど言ってんのに、ほんとに分かんねえヤツだなぁ。やりすぎは()めろって言ってんだろ?

ミーナの部屋を花冠で埋めるなんてやってみろ。また締められたいのか?ん?」


 やろうと思っていたのか、ぎくっとし肩が跳ねる。


「んなことしたら、ミーナは驚きすぎて、(おび)えるぞ。

エディントン伯爵家の兄弟は『(おび)えさせた』って責めてたくせに、自分はやるのか?

ズルすぎるぞ。

(じじい)なら(じじい)らしく、歳下のガキに手本を見せろや」


「あんなに可愛い笑顔、山羊にも見せてたのだぞ。

我は山羊以下か?!」


「今のところはそうだな。いや、下手したら山羊未満か。

ミーナは山羊に名前付けて、可愛がってたからな」


「ラディよ。我の扱いがひどい、ひどすぎる!

我はミーナの花婿」


「じゃねえよな、まだ。ミーナが20歳になったら、選ぶってんだろ。くどい。何万回言ったと思ってんだ!」


「何万回は言い過ぎじゃ。5963回じゃそうな。

我が子が教えてくれた」


「精霊にムダなカウントさせるんじゃねえ!

あ〜、寝る。も〜寝る。お前も帰れ、山羊以下精霊王」


「この“力”の主人の話は聞きたくないのか?」


 しっしっと手を振ったラディに向け、手のひらを差し出し、ニクスの“力”を呼び出す。

 “力”は精霊王の周りをくるくる飛び回り、腕をすべり台のようにして無邪気ささえ感じられる。


 感謝なしにこき使われることもなく、可愛がってくれる相手から離れたくはないのだろう。

 前回よりもさらに精霊王に懐いており、ニクスがよほど真剣に祈らないと、帰らないように思えた。


 だが、所詮は他人事(ひとごと)だ。伝えるべきは伝えた。

 あとは本人次第だ。


「……聞きたかねえな。まだお前の傍にいるって事は祈りが足らねえんだろ?と言っても数日しか経ってねえ。

その調子だと数ヶ月はかかるだろ」


「なんじゃ、つまらん。もっと親身に聞くかと思えば、おぬしも案外冷たいの。さすが龍じゃ」


「………………おい、ほんとに怒らせたいのか?」



 ラディの声が重く低く響く。

 “龍の気”を身体深くから呼び覚ますと、青みを帯びた金色に発光し、精霊王を本気で威嚇(いかく)する。

 《変化(へんげ)》の魔術は解除され、本来の金髪と青い瞳に戻っていた。

 光を避けるように飛びさった精霊王は、天井に張り付く。


「悪い!我が悪かった!言い過ぎた!()めよ!

このヒトの街を破壊する気か?!」


 威嚇(いかく)時に現れる、特有な縦長の青い瞳で見上げた後、ラディは“龍の気”による発光を収める。


「……破壊はしない。ミーナが悲しむ。

お前も知っての通り、俺は人であって人ではないモノだ。本気で怒らせるな」


 精霊王はふんわりと降りてきて、哀れみの目を向ける。それがいかにも美しいのだから、余計に不快だ。

 イケ(じじい)に何が悲しくて、同情されなきゃならないんだ。


「あの龍が病いにならねば……」


「言っても仕方ないことだ。あの龍も好きでなった訳じゃねえ。アイツや俺を(あわ)れむな」


「わかった。すまぬ。今宵は帰る」


「もう、しばらく来るな。じゃあな」



 精霊王を見送ったラディはミーナのために結界が安全か確認すると、王都の上空へと一気に《転移》する。


 “龍の気”を呼び覚ますと、人の身体では熱が(こも)る。

 発散させるためには、気温が低い遥か上空を飛ぶか、水に(もぐ)るのが手っ取り早い。

 夜警の騎士や魔術師達に見つからないよう、夜の闇に姿を隠し、遥か上空で一旦停止する。

 たとえ見えても、あるかあらぬか、芥子粒(けしつぶ)のようで、星に(まぎ)れているだろう。


 月光に照らされ宙に浮かぶ姿が、雲に影を落とす。

 風が金色の髪をなびかせる。冷たい大気に熱が奪われ、火照りを吸い取り心地いい


 身体奥深くで、“龍の血”が騒ぐ。

 ラディは星が(またた)く遥かなる(そら)へ雄叫びを上げる。

 人としての理性が、咆哮(ほうこう)を直上へ向け、地上には届かない。

 誰にも、セバスチャンにさえ、見られたくはなかった。

 身体に(うず)く熱を変化させ、(そら)へ青みがかった金色の光を上げる。

 一瞬のことで、地上からは流れ星にしか見えないだろう。


 そのまま、青く(うつ)ろな眼差しを地上へ向けると、王国の版図が見えた。

 夜も更け、不夜城がある主要な街以外は真っ暗だ。

 その闇が心の暗闇を誘う。


「こんなことをするヤツが、こんな眺めを知ってるヤツが、人を名乗るか……」


 ラディは(つぶや)くと、独り、月の光輪を抜け、雲の上、星の海を渡り、熱を散らした。


〜〜*〜〜


 9月に入り、夏の暑さも落ち着いてきたころ、ミーナが伯爵家で刺繍を習い始めた。

 2週間に1度だ。

 ただ1人で行かせる訳にはいかないので、ラディも着いていく。

 この影響で、以前はロバートが魔法薬局まで来ていたが、ラディが往診する方式となり、迎えの馬車でミーナも連れて行く。


 ラディがロバートを診察している間、ミーナが刺繍を教わる。

 ミーナの方が長引くため、ラディはサロンで、ミーナのための魔術の教則本を読んで待つ。

 終われば、ラディ達は馬車で魔法薬局へ送られ、薬は帰宅後調合し、侍従が馬車で持ち戻る。

 そういった段取りを組んだ。


 2週間に1度となると、ラディはまだしもミーナは服が足りない。

 伯爵夫人から『贈りたい』と言い出されないよう、前回と同じ店に秋物を買いに行った。

 ミーナは喜んでもいたが、この歳にして出費が気になるようだ。


「お父さん。前の服でいいよ。長袖だしかわいいよ」


「ウチの可愛いお嬢さんは、すくすく育って、服より大きくなってるんだよ。

父さんはミーナの服が買えて嬉しいんだけどな」


「いいの?伯爵家にいく服って“お高い”んでしょ?」


 また言葉を仕入れてきてる。この調子は、近くの奥さん方だろうな。

 伯爵家の馬車が来る度に、飽きもせず見に来るのだ。

 ミーナの服を、「可愛いのがもっと可愛くなった」だの、「ミーナちゃんはどっかのお嬢様みたいだねえ」などと言い合う。

 “お高い”は、薬局で接客してる時に言われたんだろう。


「もう忘れたのか?ヒモウリを見つけたのはミーナだぞ。あの金貨25枚の買取り金の半分はミーナのものだ」


「え?ミーナはウリを見つけただけだよ」


「見つけないと根っこを掘れないだろう?

半分はミーナのものだ。

それに父さんは普段は贅沢(ぜいたく)してないだろう?綺麗な服を着たミーナが見たいんだ」


「ホント?」


「ほんとだとも。“顔遊び”するか?“くすぐり試合”でもいいぞ」


()めとく〜。お父さんにはどっちも勝てないもん」


「じゃあ、綺麗で可愛い服を買うのは決定だ」


「ありがとう、お父さん」


「どういたしまして」


 そうして揃えた秋の服は、シックなワイン色に白のレース遣いが美しいワンピースだった。

 セバスチャンが『こちらに合う結い髪とは』と美容読本で研究していたほどだ。


「俺が編んだことにしてるから、なるべく簡単なので頼む」

「ラディ様は可愛いミーナ様をご覧になりたくないのですか?」


反撃されたラディはあっさり降参した。


ご清覧、ありがとうございました。

コミカルなファンタジーを目指しつつ、ミーナとラディパパの成長と、精霊王様の斜め上溺愛、その周辺を描けたら、と思います。


※『顔遊び』は、『笑うと負けよ』に近い変顔対決です。


誤字報告、ありがとうございます。参考にさせていただきます。

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