13.森とギルド
「お父さん、いい天気だね〜」
「ああ、採取日和になりそうだ」
そろそろストックに追加が必要となり、ラディはいつもの二頭立ての貸馬車で森へ行く。
ミーナとアルバスも一緒だ。
季節はすっかり初夏で、防虫と怪我と陽射し防止の長袖長ズボンは暑く、《適温》をかけてやる。
《索敵》をしたが、周囲には、危険な動物や魔物、他の人間はいない。
仔フェンリル・アルバスには、「俺達の姿の見えないところには、絶対に行くな」と言い聞かせた上で、リードを外す。
元気いっぱい、思いっきり駆け回る。
「お父さん。今日は何を“さいしゅ”に来たの?」
「これだよ」
ラディは事前に作ったリストを見せる。
ミーナが知ってるものもあれば、知らないものもある。
「タヌキノテブクロとキツネノクツシタ、コイツリソウとヒモウリはわかる」
「じゃあ、わかる薬草を採取してくれ。
取ったものはお父さんに必ず見せること。
それとヒモウリは根っこも薬になるから、見つけたら必ず教えること」
「はい、お父さん」
「夢中になって奥に入り過ぎない。お父さんが見える範囲だ。いいね、これは約束だ」
「はい、約束します」
ミーナは早速探し始める。ノートで薬草が好む環境を確認し見て回る。
見つけた時はすっごく嬉しい。ラディが贈ってくれた子ども用の採取ハサミで取ると、バッグに仕舞う。
一度採取が終わる度に、ラディの場所を確認する。
そうしないと夢中になり、迷子になってしまうからだ。森での薬草採取は、ミーナにとってそれだけ楽しかった。
ラディもいつも通り《採取》を始めていた。
「これでいいかな」
かなり取れたし、お父さんの姿も小さい。
その時、ミーナはちょっと先に、木の枝にぶら下がっているヒモウリのウリを見つけた。
「お父さんに知らせなきゃ。えっと」
森の中は迷いやすい。こういう時は目印に赤い紐を木の枝などに結んでいく。
教えられた通り、ラディの許に戻る。
「お父さん、あっちでヒモウリ、見つけたよ」
「おっ、すごいぞ。道案内を頼む。アルバス〜!移動するぞ〜!」
アルバスを《探索》し、《伝達》すると、すぐに戻ってきた。
真っ白な毛並みがかなり汚れている。
「あとで《浄化》するか。さて、ヒモウリはどこだ?」
「こっちだよ。赤い紐、結んできたの」
ミーナの道案内で無事に辿り着く。
ヒモウリの根は心臓の薬になる。冒険者ギルドから常に依頼されている植物で貴重だ。
「確かにヒモウリだ。よくやった、ミーナ」
「ふふ〜。すごいでしょ」
「ああ、すごいぞ」
ミーナは褒められて嬉しいが、もっとすごいのはラディだ。
ヒモウリの茎は茶色で、見分けがつきにくく、ミーナは辿れなくなるのに、ラディはすぐに土に生えてる根元を見つけた。
その後も《探知》で根の形を確認し、傷つけないよう、《掘削》でていねいに掘っていく。
ヒモウリの根は傷からすぐに傷みやすい。ギルドの買取額も低くなる。
取れたのは長い根で、ミーナの背より少し短いくらいだ。
これだけ立派だと高値がつく。それも傷ひとつ付いていない。大収穫だ。
掘った後は《整地》で元通りだ。
「今日はこれで終わりだ。お昼にするか」
「お父さん。私が“さいしゅ”したの、見てほしいな」
「おっ、そうだった。お昼前に見せてもらおう」
ラディの確認は厳しい。ミーナの成果はほぼ正解だったが、数本違う草があった。
復習するように言われ、採取方法も指導される。
そんな時間の後は、楽しいお昼だ。
冷えた薬草茶をごくごく飲む。ミーナは、ぷはあ、と息を吐く。ラディもだ。
「今は特別だぞ。お行儀は良くないんだ」
「うん、内緒だね。おかわり飲みたいな」
喉を潤した後は、昨日の夕食の残り、ローストポークとたっぷり野菜をはさんだ、サンドイッチだ。特製ソースがとっても美味しい。
「とってもおいしいね〜」
「ああ、我ながら旨い」
「お父さん、“じがじさん”してる〜」
デザートは、《風刃》で皮をむき種を取った桃を《氷結》し、《水滴》と蜂蜜を《撹拌》させ出来た、桃のシャーベットで、これも最高だ。
氷魔術は希少だと、セバスチャンから教わった。
ラディは簡単に無詠唱で行う。
ミーナは今、魔術の基礎をセバスチャンに教えてもらってるが、ラディがどれだけすごいか、だんだん分かってきた。
自慢のお父さんだ。
「そろそろ、帰るとするか。今日はギルドに寄るぞ。ヒモウリの根があるからな」
「“おかいとり”が高いといいですね〜」
「ははっ、そうだな」
ラディもご機嫌で、布にくるんだヒモウリの根を荷台に載せ、《収納》バッグから、買取用の薬草を取り出すと、ギルドで見せるバッグに入れる。
C級冒険者は、《収納》なんて空間魔術は絶対に使えないためだ。
〜〜*〜〜
一路王都に向かい、ギルドを目指す。
混み合う時間の前だったが、知り合いも何人かいた。
挨拶を交わし、その中の一人にミーナを預ける。
B級だが変なプライドもなく、気のいい人間だ。
ラディと共に依頼をこなしたことも数度あった。
冒険者にしては珍しい家庭持ち、子ども好きで、ミーナも比較的懐いている。
ラディと違う“普通のお父さん”だ。
いつものように、受付担当の女装趣味、ローラことローランドが出迎えてくれる。
「あらぁ、いらっしゃ〜い。ラディさん。今日のご用件は?」
「買い取りだ。ヒモウリの根、他にもある」
薬草をカウンターに並べていく。ヒモウリをくるんでいた布をめくった途端、ローラの目が輝き、声を抑える。
「こんな立派なモノ、久しぶりよ〜ん。しかも無傷。
ちょっと待って。奥で重さを測ってくるわ。よいしょっと」
ローラが“できる”ところは、こういう気遣いだ。
貴重な大物は人目を引きやすく、採取系の冒険者の中には、どこで取れたかしつこく絡んでくる者もいる。トラブル防止だ。
まもなく戻ってきたローラの顔は綻んでいた。カウンターに革袋と銀貨6枚を並べる。
「金貨が25枚入ってるわ。使いやすいでしょ?」
「これで両替屋へ行かずに済む。ローラさんは相変わらず、気が利いて助かるよ」
充分すぎる買取額に満足したラディは、カウンターの銀貨6枚の内、1枚をすっとローラの手元に滑らせる。
金貨25枚は、大金貨2枚と中金貨1枚と同等だが、どちらも一般の商店では使えず、両替が必要だ。
その手数料に比べたら、銀貨1枚は安いものだ。
ただ冒険者の中には、その名の通り、手のひらくらいの大金貨を自慢したい者もいる。
ラディは真逆で目立ちたくない。そこを見極め対応していた。
「ふふふ……。ギルドの受付の腕の見せどころよん」
「このごろ、何か面白い話はあるか」
ローラは目を細め、小さな地声で教えてくれた。
「魔術師団の凄腕の氷魔術師が、魔術を使えなくなったとさ。
枯渇したのか、重度の魔力切れかは不明。何でも上の方針と違う捜査してたから、処分も兼ねての謹慎療養だそうだ」
「それは困るだろう。一気に不便になる。周囲の助けが必要だろう?」
声を潜めたラディは、龍退治の直後、数ヶ月、魔力切れと龍の血の中毒などで苦しんだ記憶を思い出す。
「それが、ぜぇんぜんッ、同情されてないんですって。
ほらあ。エリートって言うの?良いとこの息子で、挫折を知らないからさぁ。訓練も容赦なかったらしいのよん。立場逆転で、好き勝手に噂されちゃってるわけ〜」
「で、ここにも届いてる訳か。で、名前は?」
「ニクスって言うらしいわ。班長で出世頭だったのにね〜」
ラディはその名に心当たりがあったが、表には出さない。革袋と銀貨をバッグに入れる。
「そうか、気の毒にな。じゃ、また来るよ」
「お待ちしてま〜す。あら、ミーナちゃんも来てたのね。ホント可愛いわぁ。こんにちは」
ラディの様子を見て、買取りが終わったと思ったのだろう。
カウンターに来てローラに挨拶する。
「こんにちは、ローラさん。いつもお父さんがお世話になってます」
「うふっ、お世話になってるのはこちらよん。今日は特にね。気をつけて帰るのよ」
「はい、さようなら」
「ばいば〜い。また来てね〜」
ラディはミーナを預けた冒険者にも銀貨1枚お礼に渡し、ミーナと共にギルドを後にした。
ご清覧、ありがとうございました。
コミカルなファンタジーを目指しつつ、ミーナとラディパパの成長と精霊王様の斜め上溺愛を描けたら、と思います。
※植物名などは架空のものです。




