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9.お茶会の後で


 エディントン伯爵家でのお茶会も終え、魔法薬局に帰った時、ミーナは緊張の糸が切れたのか、疲れがどっと出ていた。

 駆け寄ってきたアルバスを撫でてやるのが精一杯という感じだ。


 ラディもロバートの処方薬の件で気が重たくなっていたが、ミーナを着替えさせると、少しブレンドを変え、緊張をほぐす薬草茶を飲ませる。


「ふう、おいしい。紅茶もおいしかったけど、お父さんのお茶が一番好き」


「今日の紅茶は最高級品だぞ。滅多に味わえるもんじゃない」


「だって、ほんとなんだもん。

香り……は、ほら、いろんなお花がたくさん咲いてて、香りがまざって、よくわかんなくなってたの。

最後はちょっと頭が痛かったな」


 俺はその言葉を聞くと、精霊王への怒りが再燃する。絶対、説教だ。

 気づかなかった俺も反省すべきだが、エディントン伯爵の前で、あの香りを遮断する魔術を使うと、C級冒険者でないことがバレてしまう。

 ただ早めに退席することはできた。


「ミーナ。そういう体調不良は早く言いなさい。

大人なら我慢するべき時はあるが、ミーナは子どもなんだ。体調の方が大切だ」


「大丈夫。馬車で風にあたったら、楽になったよ」


 ラディは立ち上がると、ミーナの肩や首、頭に触れる。

かなり凝っていたので、《温湿》で蒸しタオルを作ると、温めてマッサージをする。


「パパ、きもちいい〜」


 気持ちが緩んだのか、引っ越しを機に変えた、昔の呼び名が出たが、ラディは今は見逃す。

 きっと無意識に甘えているのだ。今日は無理もない。


「だったら、よかった。少しは元気が出ただろう。

お風呂に入って、もっと温まりなさい」


「はい、お父さん。ありがとう。大好き」


「そりゃどうも。夕食はミーナの好きなロールキャベツにするか」


「え?いいの。わ〜い、ロールキャベツだ〜。お風呂に行こうっと」


 薬草茶とマッサージ、ロールキャベツの予告で、元気を取り戻したミーナは、アルバスと一緒に風呂に行く。アルバスも入浴好きなのだ。

 魔法薬局の犬としては、ちょうどいい。

 が、知ったら激怒しそうなヤツがいるので、家と浴室の《結界》を厚くしておいた。


〜〜*〜〜


 夕食では、“前の家”のことも話題になった。

 マナー特訓の成果か、ロールキャベツをフォークとナイフを使って、綺麗に切り分け、「おいし〜」と喜んでいたミーナが、ふと口にしたのだ。


「ねぇ、お父さん。伯爵様のお屋敷、立派だったけど、前のお家よりちっちゃかったね」


 “前のお家”とは、この魔法薬局に引っ越してくるまで暮らした、ラディの生活拠点の一つだ。

 今はセバスチャンが管理している。


「あそこは、昔の城だ。

広いは広いが、父さんやミーナが暮らしてたところは、そんなに広くなかっただろう?」


「うん。でも全部だとすっごく広かったよ。

よく迷子になって、お父さんやセバスチャンに探してもらったね」


「ああ、そうだった。『《結界》張ってて安全だし、腹が空いたら出てくるだろう』って言っても、セバスチャンが探してくれって頼んでたんだぞ」


「え?そうだったの。お父さんって、けっこう、おおざっぱ?」


 子どもはどこで言葉を覚えてくるんのか。

 しかし、ラディは『大雑把(おおざっぱ)』という評価を受け入れる。が反論もする。


「ミーナの身の安全は《結界》で守られていた。

迷子という名の散歩をたくさんしたおかげで、足腰が丈夫になった。

それにどこにいるかは、いつもだいたい分かってたからな。

何か問題はあるか?」


「ううん、ない。

ね、ヤギさんたち、元気かなあ?」


 ヤギはミーナのミルクのために、飼っていた。

 その後も飼い続けている。


 ミーナも離乳し不要になったと、締めて肉を食べようとしたら、セバスチャンから、「ミーナ様が悲しみます」と止められた。

 長すぎる年月と経験を()て、人間としてどこか欠けてしまっていることを、ラディは自覚していた。


「セバスチャンに聞けばいい。ヤギの寿命は10年くらいだ。まだ元気だろう」


「そっか。10年なんだ」


「普通の動物で人間より長生きするものは、滅多にいない。縁があったら大切に接してあげなさい」


「はい、お父さん」


 その後は、またお茶会の話題に戻り、夕食を終えたミーナはいつもより早く休んだ。


〜〜*〜〜


 思った通り、ヤツは浮かれて現れた。


「お茶会は素晴らしいものになったであろう?

精霊達の意見を聞いてみたのじゃ。

我が庭のようにすればよいと言うでな」


「ぜ〜〜〜〜〜〜〜〜〜んぜんッ、ダメだ!

花の香りが混ざりすぎて、ミーナは肝心の最高級品の紅茶の香りが分からず味わえなかった。

最後は頭痛までしていたんだぞ。

年寄りのくせに、『過ぎたるは及ばざるが如し』って言葉の意味をよく考えろ!」


 精霊王の顔が悲痛で歪む。

 全く同情の余地はないが、美貌なだけに決まって見える。きらきらしい魔素も飛ぶ。

 余計に腹が立つのだ


「そ、そんな……。我のせいで、花嫁に頭痛を起こさせたなどとは……。万死に値する……」


「すっげ〜〜死ににくい癖に、簡単に口にすんな!

いいか。()びに思うなら、この地図にある屋敷の庭の花、全部咲かせてこい!」


 俺は(しる)しを付けた地図を、精霊王の前に広げる。


「はあ?なぜ、そんなことをせねばならぬのじゃ」


「あの庭の花を全部咲かせたことで、魔術師団に絶対に目を付けられてる。

お前が王の寝室を花で埋め尽くしたからな。

このままじゃ、俺とミーナが疑われるんだ。ミーナを苦しめたいのか?

そのお花畑の頭じゃわかんねえか?え?」


「どうしてそんな考えをするのじゃ。我しかできないだろう」


「あの場にいたってだけで、疑われるんだ!

いいからやれ!ミーナが魔術師団で取り調べを受けてもいいのか?」


「我が花嫁をそんな目に合わせるなぞできるか?!

わかった。やってくればいいのであろう?

今すぐやってこよう」


「さすが精霊王。よろしくな。

それと、お前、お願いだから、余計なことはするな。

ミーナは行きは、今日の青空は綺麗だとか、風が気持ちいい、とか言ってたんだ。

頼んだことだけやってりゃ、頭痛なぞ起こさずに、お茶会を楽しめたんだ」


「……すまぬ。我が良かれと思ってやったことは、我が花嫁に届いてはおらぬ。何故(なにゆえ)なのか……」


 話が一周、戻ってる。精霊王に付き合うには、今日はラディも疲れていた。


「当たり前だろうが?!俺の忠告や助言をことごとく無視しやがって!

いいか!この地図にある屋敷の庭の花、とにかく全部咲かせてこい!花咲か(じじい)!」


「……は、花咲か(じじい)だと?余りにもひどいではないか」


(じじい)の俺の、何倍生きてやがる?少しは学べ!

いいか、地図の花は絶対だぞ?!ミーナのためだ!

さっき、今すぐやると、大見得切ったのは嘘か?!精霊王の力も落ちたもんだ!」


「何を?!今すぐやってきてやる!」


 この夜、王都の上空に広範囲に光が差したかと思うと、すぐに消えた。

 夜間警護していた騎士団や魔術師団が目撃し、すぐに報告され、緊急に見回った結果、むせるような花の香りを嗅ぐこととなった。


翌朝——


 ご近所さんが聴き込んできた噂では、俺が指定した屋敷の花は、全て満開になっていた。

 いや、それ以上だった。倍はある。


 『さすが精霊王』と思ったのもつかの間、夜空の光の件を噂に聞き、『どうしてまた余計なことを……』と、調合室で頭をかかえたのだった。



ご清覧、ありがとうございました。

コミカルなファンタジーを目指しつつ、ミーナとラディパパの成長と精霊王様の斜め上溺愛を描けたら、と思います。

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>花咲か爺  の方が良いでしょ? ギロチン爺よりも。ね、精霊王さま♪ 笑笑笑!  ギロチンフェンリルを贈っちゃうとか、自然の理を無視した百花繚乱の演出をしちゃうとか、自己顕示欲が見え隠れしていて、可愛…
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