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光の中へ  作者: ヤン
9/20

第九話 承認

 数日後、再びスタジオMに行った。三人はもう来ていた。新参者が最後に来るとは、なんということだろう。恭一(きょういち)は三人に頭を下げ、


「すみません。僕が最後なんて、何様って感じですよね」


 身を縮めるようにしながら謝罪した。


 津久見(つくみ)は恭一の肩を軽く叩くと、


「うちのメンバーで、そんなこと気にするやつはいないよ。ミハラくんは、遅刻ばっかりしてたし。あ。ごめんね。あの人の名前、出さない方が良かったね」

「いえ。だって、この前までこのバンドのヴォーカルだった人ですから」

「あの人のことはいいや。二人とも、自己紹介をしたら? 名乗ってないだろう」


 津久見に言われて、ドラムの人が、


「そう言えばそうだ。オレは、ドラム担当の水上(みずかみ)高矢(たかや)。高校二年」


 高矢は右手を出した。恭一はその手を握り、「よろしくお願いします」と言った。


 隣に座る、高矢よりやや小柄な人が、その上から手を握ってきた。さらにその上から津久見が握ってくる。


「もう。サイちゃん、何やってんのさ」


 ギターの人が津久見に言うと、津久見は笑い、


「いや。スギちゃんだって、先にやったじゃん」

「だからってサイちゃんまで」

「いいから、名乗りなよ」


 津久見の言葉にギターの人は頷き、


「そうだった。オレは、ギター担当の杉山(すぎやま)(はじめ)。サイちゃんと同じ、高校一年生」

「そして、オレは津久見(つくみ)(さい)。ベースと作曲を担当しています。じゃあ、君は?」


 突然ふられて驚いた。


「どうした、矢田部(やたべ)恭一(きょういち)くん。名乗りなさい」

「今、津久見さん、僕の名前言ってくれましたけど」

「君の口から聞きたいんだよ。はい、言って」

「矢田部恭一です。中学二年です。ご迷惑をかけないように、頑張ります」


 恭一が言うと、三人は楽しそうに笑い出した。何かおかしなことを言っただろうか、と思ったが、訊けなかった。


 その時声が掛かって、スタジオに入ることになった。恭一は彼らの後について階段を降り、中に入った。


 この前とは状況が全く違う。これから、どんな試験よりも恐れるべき時が来る。床にカバンを置くとノートを取り出し、楽器をケースから出そうとしている津久見に渡した。津久見がそれを受け取り、中を見ている。心臓が破裂しそうな気持ちだ。


 津久見は、そのノートを真剣に見ている。そして、一通り読み終わると目を上げ、


「すごいな。いきなりこんなに書けちゃうんだ。スギちゃん、タカヤ。これ読んでみなよ」


 いきなり二人に見せてしまった。心の準備が出来ていないのに。逃げ出したい気持ちになっていた。


「本当だ。かっこいいじゃん、矢田部くん。ん? いつまでも矢田部くんって呼ぶの、何か変な感じ。ま、ミハラくんのことは確かにそう呼んでたけど。君、普段何て呼ばれてる?」


 杉山が訊いてきた。恭一は首を振り、


「友達がいなかったので……。この前一緒にライヴを観ていた金子(かねこ)くんとは親しくなったんですけど、名字で呼ばれてます。あ。母は僕のこと、キョウちゃんって呼んでます。ちっちゃい頃からです」


 津久見が微笑んだ。そして、「じゃ、決まりだ」と言った。


「え? 何が決まったんですか?」

「オレたちはこれから君のことを『キョウちゃん』と呼びます」


 宣言した。ご丁寧に右手を上げている。すると、杉山と高矢も手を上げ、「賛成」と言った。恭一は、そう呼ばれることを受け入れることにした。逆らっても仕方ないし、他に適当な呼び方がない。


「じゃあ、()()()()()()。この歌詞でいいから、ちょっと歌ってみてよ。大丈夫。君ならできる気がする」


 何を根拠にそんなことを言うのだろう。津久見才がわからない、と恭一は心の中で溜息をついた。


「大丈夫じゃなくても、別に構わないけど。じゃ、やってみよう」


 そして音楽は始まり、恭一はなるべく感情を込めることを意識して歌った。

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