表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光の中へ  作者: ヤン
5/20

第五話 涙

「あの……僕、この前聞いたみたいな曲、歌ったことありません。僕は、学校の音楽の時間に歌うような歌しか歌ったことないです」


 津久見(つくみ)に強い視線を向けられ、恭一(きょういち)は思わず目をそらした。小さく息を吐き出した津久見は、


「大丈夫。この前みたいな曲は、二度とやらないから。やるならあの人をクビにしてない。ていうか、さっき言った通り、あの曲たちは、あの人を喜ばせる為に書いた曲だから。つまり、あの人の曲だから。君には、君に合った曲を書く。それは約束する。だから、お願いします」


 その言葉を聞いて恭一は、思わず津久見の方に視線を戻した。津久見は、いつのまにか真剣な表情になっていた。ちゃんとお願いされた、と思った。が、だからといって引き受けてもいいのだろうか。恭一は、自分がどうしたいのかわからず、ただ黙っていた。


 津久見は、再び息を吐き出すと、口元に笑みを浮かべ、


「ごめん。さっき高矢が言ってたみたいに、急にこんなこと言われても返事に困るよね。じゃあね、今日一晩考えて、明日夜の九時に電話下さい。答えがノーでもお願いします」

「あ……はい。わかりました」


 それから電話番号を伝えられ、パイプ椅子に座るように言われた。恭一がためらっていると、津久見に腕を引かれ、「ほら。座って」と、半ば強引に座らされた。恭一が津久見を見上げると、


「聞いてて。今から練習だから。ていうか、もうあと十分しかない。ごめん。ちょっとミハラくんとのやりとりが長くなり過ぎた。予定では、五分くらいで、さくっと終わるはずだったんだけど」


 そう言って津久見は、ドラムとギターに順番に目を向けた。二人は首を振った後、それぞれの位置についた。津久見も楽器を肩から掛け、


「じゃ、新曲やってみよう。この曲がね、ミハラくんを怒らせた曲。少し前から三人で集まってこの曲練習してたんだ」


 にやっと笑った。


 高矢のスティックが打ち鳴らされて、音楽が始まる。津久見が、ラララ、とかそんな感じで歌う。


(なんだろう、これは)


 恭一の鼓動が速まった。メロディアスな曲で、歌詞がないのにその切なさが伝わってくる。気付くと、涙を流していた。


 演奏を終えた津久見が、楽器を置いて恭一のそばに来た。そして、それまでに見たことのない優しい顔で、


「ありがとう。伝わったんだね、オレの気持ちが」


 そう言って、頭を撫でてきた。


「オレさ、わかっちゃったんだよ。好きなだけじゃ一緒にいられないんだって。それと、オレが一番大事なのは、あの人じゃなくて、音楽なんだって」


 しんみりと津久見がそう言った時、スタッフから声が掛かりスタジオを出た。


「今日はこれで別れよう。明日の電話、待ってるから。ノーでも掛けてくるんだよ。あ、それから、これ。さっきの曲の音源。良かったら聞いてみてよ。それから、歌詞を考えてみてくれたら嬉しいな。ヴォーカルになる、ならないは置いといて。ちょっと考えてみてよ」


 恭一は、音源を受け取ったものの、


「僕、作詞なんかしたことないです。学校で作文を書いたことは、もちろんありますけど」

「じゃあ、この曲を聞いて浮かんだイメージで話を書く」

「難易度を上げないで下さい」


 恭一の抗議に、津久見が笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ