(5)
「きゃあ……うわぁ……うぎゃあ……助けて……」
別世界版の私から得た知見を元に、恐怖を感じている演技の練習をやってみたが……イマイチ巧くいかない。
「駄目だな、こりゃ……」
たしかに、私が別世界版の私より能力値が低く設定されているってのは……演技力に関しては本当のようだ。
それに、もう1つ問題が有った。
人が、どんな場合に恐怖を感じるか……?
多少の時間をかけて考えれば推定出来るだろうが……予想外の事が起きた場合に、その場でとっさで判断するのは難しそうだ。
「困った……失敗だったかな?」
私は、ヤツが身を投げた崖の方を見付ける。
事が終った後に、奴の両手のナイフを抜いてやったのが間違いだった。
次回からは……人に情けをかける場合には、よくよく考えてからにしよう……。
でも、たった、それ位で絶望して自殺するものなのか?
利き手じゃない方の手が使い物にならなくなって、口の横幅が3倍ほどになったぐらいで……。
ん?
待てよ……ひょっとして……私は恐怖という感情が欠けているのみならず、絶望を感じる事が出来るという「能力」も無いのか?
……だとすれば……その神様とやらが、本来考えていた私の人生とは……どんなモノだったんだ?
恐怖や絶望を感じられないと「失敗」「想定外」と見做されるような人生とは……一体……?






