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内視鏡検査_2


■内視鏡検査:本番前■


「12時に下剤を飲み終えて、すぐに病院へと直行。移動中に催しても我慢したよ。まぁ、お腹の中は空っぽになっているようなものだから、我慢なんて無理! なんてことにはならなかったよ」


 そしてコキリコ姉さんは病院に到着してから、検査室に向かうまでのことをテキパキと話していきます。


「姉さん」

「なにかな? ミャーコちゃん」

「受付、ひとりで大丈夫だったんですか?」

「どういう意味かな?」

「いっつもその見てくれでトラブルになるじゃないですか」

「いつもじゃないよ。今回だって大丈夫だったよ。受付のお姉さんに二度見のガン見されたくらいで」

「コキリコ姉さん、外見と年齢がまるで一致していませんからね」

「外見って、私、別に童顔じゃないよ! ちっこいだけだ!」

「7/8フィギュアって呼ばれたこともありましたしね」

「ぐぬぅ……。くそぅ。せめて背丈があと15センチあれば」



:7/8フィギュアwwww

:なんだそれwwwww

:15センチ

:wwwwww

:せめてで済む高さじゃない

:姉さんどんだけ小さいんだよ



「私の背丈は靴履いて141だ。体重は今は31。私の調べたところだと、私の背丈での標準体重は42キロくらいだったよ」



:ちっさ

:靴履いてってwwww

:ってか軽すぎ

:そういや5キロ痩せたっていってたな

:数値だけ聞くと、いまにも死にそうに思えるんだけど

:姉さん、もっと太るんだ

:お米食べろ!

:なんか炎の妖精が沸いたぞ!



「ちゃんと食べとるわ! これでも3キロ体重は回復したんだぞ。階段だって普通に登れるようになったんだからね!」

「コキリコ姉さん、なにもそんなツンデレ風に云わなくても」

「姉さん、それ云っちゃダメなんじゃ……」

「私は一向に構わん! って、誰がツンデレか! つか、いまは私の背丈も体重もどうでもいいんだよ。

 えっと、なんだっけ。そうだ、検査室に入ったところからか」


 コキリコ姉さんはそこで一呼吸間を置くと、落ち着いた様子で話を再開しました。


「検査室に入っても、すぐに検査ってわけじゃないんだよ。便の状態を記録した紙を渡して、検査着に着替え。それからまた用を足して、便の状態を確認して貰って、検査しても問題なしと判定されてから検査に入るって手順かな」

「結構面倒ですね」

「看護士さんたちの会話が聞こえて来たんだけど、以前に検査をしたことがある人も、同じ時間帯の検査だったんだよ。数人ずつ検査待ちというか待機していて、検査可能になった人から検査、って形だったからね。

 で、その人なんだけれど、前回の時に急ぎでやったせいか、お腹の中が綺麗に空っぽにはなっていなかったらしくて、検査が大変だったみたい。そりゃ腸の様子を見ようっていうのに、中に便が残ってたらちゃんと見れないよね」

「あー、確かに」

「コキリコ姉さんは大丈夫だったのですか?」

「私? 自分で見た限り、もう水と一緒じゃないかと思ったんだけど、ダメ判定をくらったよ。それで下剤を1杯追加。結局、病院で……何回だっけ? 4、5回用を足してから検査に入ったよ。だから病院についてから、検査に入るまでちょっと時間が掛かったね。

 あ、検査着のことを話とこう」

「なにかあったんですか?」

「うん。検査着自体は無地の浴衣みたいなやつ。入院着と一緒かな。で、下着なんだけれど、多分あれ、男性用のトランクスなんじゃないかな?」

「「は?」」


 私とミヤコ先輩が同時に間の抜けた声をあげました。


「紙製らしいけれど、濃紺の、普通にちょっとゴワっとした布製の下着みたいな感じだったよ。で、男性用のトランクスって前が開くじゃない。お尻の方がゆったりしている感じで」

「そうですね」

「それをね、前後逆にはくのね。だからお尻の方に開く方が来るようにするんだよ」

「あー……その、内視鏡をそっちから入れるためですか」

「そういうこと。それじゃ、検査中のことを――と、その前に。ちょっと待ってて」


 そういうとコキリコ姉さんは配信部屋から出ていきました。


「……なんでしょう?」

「さぁ。なんか、退院してから、以前にもましてフリーダムになってるから、姉さん」



■内視鏡検査:本番■


「ただいま! コヨミコちゃん、ちょっとこれセットして」


 コキリコ姉さんはそういって私にバイノーラルマイクを渡し――って、えぇっ!?


「ちょっ、姉さん、なに脱いでるんですか!?」

「え? いや、こうしないと余計な雑音がはいりそうだからさ」

「え? え? なんで!?」



:なにが起きてるんです?

:脱ぐ!?

:え、姉さん?

:なにしてんの?



 バイノーラルマイクをセットしている間に、コキリコ姉さんが服を脱ぎ出しました。

 あああ、ミヤコ先輩が頭を抱えています。


 いや、あの、コキリコ姉さん、いくらここが寮の配信部屋だからって、脱ぐのはいかがなものかと。


「ヨミコちゃん、マイクかして」

「あ、はい。どうぞ」


 コキリコ姉さんはバイノーラルマイクを、丁度お腹のところに来るようにセットしました。そしてその恰好は下着だけです。


 ……え、なんですか、この画面。


「お前ら喜べ。いま私は下着だけだ。全裸だと寒いし、ふたりの前だとさすがに恥ずかしい」

「なんで脱いだんですか姉さん」

「え? だって、服着たままだと衣擦れの音が入るからだよ」



 ぐきゅ。きゅるるるる。ぐごごご。ぐぅぅぅ。くるるるる。



:え、なにこれ

:なんか怖いんだけど?

:なんかホラー映画の音声みたいだ

:化け物の声ってこと?



「みんながいま聞いているのは私のお腹の音だ。いや、検査のせいで、お腹が膨れちゃっててさぁ。ベルトの穴がひとつ緩める羽目になったんだよ。検査直後はお腹が張りすぎて痛いし。看護士さんは「我慢せず、ガスはだしてくださいね」とかいうけど、なかなかでないんだよ」

「さっきから音は聞こえてましたけど……」

「大丈夫、なんですよね?」

「うん。問題ないよ。まだちょっと苦しいけど、検査直後ほどじゃないしね」

「時に姉さん。姉さんのお腹の音を聞かされているリスナーさんたちはどう反応すれば? みんな困惑してますけど」

「こう考えるんだ。私のお腹の音が聞こえるほど近くにいる。つまり、私に膝枕されてちゃってるんだ、と考えるんだ!」



:その発想はなかった

:膝枕持って来る!

:なんだよ膝枕持って来るって

:昔、膝枕を模した枕が販売されててな

:なんだそれ



「みんなには申し訳ないが、私の膝枕の寝心地は悪いぞ、きっと。肉が薄いから」

「姉さんを見てると、食べても太れないっていうのは羨ましく思えなくなりますからね」

「一番の問題は私が小食っていうことだけどね。あ、【P・T】の面子だと、膝枕はサイコちゃんのが気持ちいいと思う。次点でミャーコちゃん。ヨミコちゃんは私と一緒で痩せすぎ」

「痩せすぎでしょうか?」

「見た感じはそうでもないけど……姉さん?」

「いや、標準体重を調べたらさ、思ったより重いんだよ。ヨミコちゃんの体重だと、痩せすぎの判定になるみたいだよ。背丈からの平均体重だと、もうちょっと軽くなるんだけどさ」

「……ちなみに、なんの資料で調べたんです?」

「標準体重はどこだかの病院のやつ、平均体重は……小学生の学年別のやつ」



:小学生wwww

:wwwww

:なんで小学生wwww

:身長を考えたらそうかwwww



「なんでそれで調べたんですか? リスナーさんたちに笑われまくってますけど」

「しょうがないじゃん。私の背丈はいいとこ小学校4、5年生くらいなんだよ! だから平均体重を調べるのに手っ取り早いの!」

「いや、でも成人女性と小学生とじゃ、体形が違うじゃないですか。姉さん、背が低いだけで、スタイルは普通に大人の女性ですからね? ペタキュッボンなせいで、7/8フィギュアなんて云われたんですし」

「ペタキュッボンゆーなし」

「写真だけ見ると、普通に160、70ありそうに見えますからね」

「そのせいで、バイト先で初めて店長に会った時に驚かれたよ。店長とはお店で初対面だったからね。びっくりされたまま歳を確認されたよ。

 って、そっちはどうでもいいんだよ。

 えっと、そう、検査に入ってからの話だ。

 待機室から検査室内に入って、検査用のベッドに横になるんだよ。左側を下にして、膝を抱えた格好で。要は、三角座りで左側にコロンと転がった感じ」

「姉さん、三角座りを知らないリスナーさんもいます」

「なんでだよ。体育座りのことだよ。

 んで、トランクスの開くところをガバっと開かれて検査開始。

 検査はどうやって進めるのか、詳しくは聞いていなかったんだよね。ではじまってから、なんか抱えてた膝が離れて行って、お腹が苦しくなったんだよ。知り合いの経験者から、内視鏡がお腹の中を通るのが分かるなんて聞いていたんだけど、そんな感じはなかったよ。

 で、苦しい、辛い、痛いの3拍子状況になって、私はと云うと浅く早く息をして脂汗かいてボロボロ涙を流す有様になってね。看護士さんにゆっくり大きく息を吸ってくださいって注意されちゃったよ」

「そんな風になった経験はありませんね。あるとしたら、風邪でひどくお腹を壊した時くらいですか。お腹を壊した上に食べると吐いてしまう風邪で、もうお腹には何もないのに便意だけは起きて、トイレで泣きながらお腹を押さえてたのを覚えてます」

「あー……それに近いね。ただ、それだとお腹の中が空っぽなのに、無理矢理絞り出されてるような感じになる感じでしょ?」

「あ、はい。そうですそうです。もうあんな風邪は引きたくありません」

「検査はそれの逆。すごいお腹が張るんだよ。考えたらさ、お腹がからっぽでぺちゃんこの状態の中に内視鏡を入れるのは無茶なんだよ。きっとガスを入れてお腹を膨らませて内視鏡を入れたんだと思う。だから看護士さんが検査後に、ガスは我慢せず出すようにいったんだろうし」

「その結果が、そのお腹の音ですか」

「腹の虫が気になりすぎて、話が入ってこないってコメが多数来てますが、姉さん」

「腹の虫ASMR……」

「腹の虫ちゃうわ。……まさかと思うけど、私のオナラの音を期待してるとかないよね。さすがにその時はミュートするぞ」


 だからなんで云われてもいないことを云うんですか。


「で、さっき私がキレ散らかした理由はこれにあるんだよ。云ってみれば、私のいまの状態は空気浣腸をされたようなものなわけよ。

 でね、どこの国だか忘れたけど、職場のいじめで、エアコンプレッサーをお尻に突っ込んで空気を注入するなんてことをした事件があってね。その被害者の方は腸が破裂してお亡くなりになったのよ。

 それを思い出しちゃってね。私はお医者さんの治療というか、検査で、安全が保証されている状態でそういうことをしたわけだけれど、それでもこれだけ苦しくて辛かったのに、腸が破裂するほど空気をぶち込まれた被害者の方はどれだけ苦しかったのかと。それを思った途端に、加害者のクズ共は全員魚の餌にでもなりゃいいんだ、とか、検査の最中ずっと思って呪ってた」



:その事件知ってる

:内容から珍事件扱いになってたりするけど、考えたら酷いな

:腸が破裂とか、痛みが想像つかん

:呪うって

:姉さんどんだけ苦しかったんだ?

:いや、実際辛いからな

:内視鏡検査が怖いな



「あー……怖がってる人もいるけど、検査に関しては有用だから、必要があるなら受けた方がいいよ。検査中に腫瘍とか見つかったら、その場で切除とかしてくれるから。もっとも、検査前に切除するか否かを確認する書面で、切除するってサインした場合だけどね」

「姉さんはサインしたんですか?」

「私は切除しない方向でサインしたよ。いや、切除するとまた入院することになるからさ。準備も何もできていないし、火事の後始末もあるから入院とかこれ以上してらんないよ。だからもし腫瘍とかあったら、後日きちんと日取りを決めて、ってことにしたんだよ。実際、大腸がんの疑いもあったからね。でも幸い、そういうことはなかったからよかったよ」



■検査結果■


「それで、検査の結果はどうだったんです?」

「うん。なにも問題なかったよ。内視鏡検査の映像も見せてもらったよ。というか、映像を使って、どういう状態かを先生から説明いただいたよ。

 それで問題なし。

 自分のはらわたの中を映像とはいえ実際に見たんだけどさ、意外につるつるしてるんだね、腸の中って。でもって斑なピンク色してた。

 生物の授業だっけ? 腸の中は繊毛がどうとかって習ったから、もっとヒダヒダしてるのかと思ったよ」

「出血の原因は分かったんですか?」

「あぁ、うん。病名は憩室内出血、だったかな? 休憩室から休みの字を引っこ抜いて憩室」

「憩室ってなんですか? はじめて聞いたのですけど」


 私はすこし首を傾げつつ、コキリコ姉さんに尋ねた。


「そうだな、どう説明しようか。うん。とりあえず腸をトンネルに見立てて説明するね。長いトンネルだと、途中で避難所みたいに横に窪地みたいにスペースをとってあったりするところがあるじゃない。そんな感じのが腸にできるんだよ。だから、管になってる腸の側面にぽこんと膨らんだところができたようになるわけよ。その窪みの部分が憩室。そっから出血したみたい。なんか、若い人に多かったりするって聞いたよ。……その若いの年齢の幅が何歳から何歳くらいなのかは不明だけど」

「いや、でも、出血って、なにが原因だったんです? それは出血した場所を特定しただけですよね?」

「うん。腸の壁面に窪地が出来ている状態でしょ。で、大腸ともなると便ももう固い感じになっていると思うんだよ。だからその憩室に引っ掛かったりするんじゃないかな。ここまでいえばどういうことか分かるよね?」

「あー……擦ると云うかなんというか、それが原因ですか」

「そうじゃないかなぁ。形状的に出血を起こしやすいのかも知れないね」

「でも、その憩室って、なんでできるんですか?」

「そこまでは聞かなかったな。私はもう出来ちゃってるわけだしね。でも便秘には気を付けるようにっていわれたよ。便通が悪いようなら、市販の便秘薬とか浣腸を使うようにって。だから、便秘とかが原因のひとつなんじゃないかな。私はそんなに便秘をする体質ってわけじゃないけど、それでもこの有様だからね。まぁ、便意を我慢するなんてことは良くしていたから、それが原因なのかなぁ。

 だからみんなも気をつけなー」

「あの、ちょっと怖くなってきたんですけど」

「あー……ミャーコちゃんは慢性的に便秘気味だもんね。でも便秘の原因って、食生活にもあったりするから。今は私が食事を作っているわけだけど、どんな感じ?」

「そういえば、このところは大丈夫ですね」

「うんうん。なによりだよ。やっぱり食生活は大事だね。あんまり消化の悪いものを食べるのもダメらしいから、献立とかいろいろと考えてみるよ。

 あ、そういえば食べる順序も重要らしいよ」



:順序?

:どういうことだ

:ごはんから先に食べるとかそういうこと?

:それでなにか変わるのか?



「なんかね、消化の悪いものから先に食べるといいらしいよ。サラダとかがあるなら、それを先に食べるんだってさ。

 消化の悪いものが足止めになって、満遍なくいい感じに消化が行われるんだって。特に糖尿病の人とかは、そのあたりを気を付けて食事をすると、血糖値が一気に上昇したりしないんだって、栄養士の人が云ってたよ。いまの私には無縁なことだけど。いま、血糖のお薬を服用している人なんかは、そのあたりを意識するといいらしいよ」

「なるほど」

「それで、今後はどうなることになったんですか?」

「ん? あ、これで終わり。特に問題なしってことだからね。便秘とかにならないように、水分をしっかり取るように云われたくらいかな。あぁ、あと、これも重ねて云われたけど、下血したらとっとと病院に来いって云われた」

「姉さん、トイレでウロウロオロオロしてましたからね」

「ミャーコちゃん。想像してごらんよ。特に腹痛とかも一切なく、なんか催してる気がする、って程度でトイレにいったら、あからさまに最悪の状態にお腹を壊した時みたいな調子で便がでるんだよ。痛みも苦しさもまるでなく。結構な量が。当然、え? なにごと? とか思って便器内を見るんだよ。するとそこが真っ赤なんだよ。知識もなんにもなけりゃパニックにもなるよ」


 そんな有様だったんですか!? 普通に怖いんですけど。ちょっとしたホラーじゃないですか。


「いや、明らかに異常事態なんですから、救急車を呼べばいいじゃないですか。「私、死ぬのかな?」なんて云って泣きそうになってないで」

「だ、だって、頭ん中真っ白になってなんにも考えらんなかったんだもん。それに、この程度で救急車呼ぶのはダメなんじゃないかなーって思って。ほら、つまんないことで電話したら、怒られたりするじゃない」



:いや、姉さん。大量出血はつまんない事じゃない

:ってか、これ素?

:なんかカワイイ

:声が高くなった



「姉さん、ロリ声やめてください。なんだかいじめてるみたいで罪悪感が湧いてきます」

「どこがロリ声か! 本物のロリ声はこうだ! ミヤコお姉ちゃん♪」

「はぅあっ!?」

「ふぇっ!? コキリコ姉さん!?」



:ちょっ、なんだいまの声

:完全に子供の舌ったらずな声だぞ!?

:演技とかのロリ声じゃねぇっ

:姉さん、年齢一桁説

:ってことは、ミヤコちゃんも良くて小学生、ってこと?



「いや、お前ら、それはないから。それだったら、22時以降も配信できないから。18以下……未満だっけ? は、22時以降働いちゃダメだから」

「あ、よかった。元に戻った。びっくりした。姉さん、どんだけ多才なんですか。3日前にサイコのところで歌った“呪いの歌”といい、私の知ってる姉さんと違うんですけど」

「あー……多分、吹っ切れたというかなんというか。実際死にかけたことでさ、あんまり自覚がないんだけど、自身に掛けてたリミッターと云うか、ストッパー的なものが外れたんだと思う。ちょっとしたことで死んじゃうんじゃ、もうやりたいことをやっちまえ、みたいな感じで。あ、当たり前だけど違法行為以外での話だ」

「……コキリコ姉さん、ドヤ顔してますけど、そのお腹の音で台無しです」

「コメントを見る限り、なんだか好評みたいですけど」

「は? いや、なんでだよ。さすがにガチなのはいないと思うけど。お前ら、面白半分でやってるだけのネタだからな」

「コキリコ姉さん“呪いの歌”を出してくれとリクエストが」

「ダメだって。あのあとサイコちゃんが壊れて焦ったんだから。修正するのにすごい手間取ったんだぞ」

「……私、サイコから話は聞いたけど、実際には聞いていないんだよね。凄い気になって来た。アーカイブ見てみようかな?」

「ミヤコ先輩、止めた方がいいです。まともに歌えなくなります。音程が行方不明になります」

「えぇ……」

「あれはあの曲だからだよ。実際の所、大抵の人は普通に歌えてるけど、アレ、かなりの難曲だからね。手本となるものが溢れてるから、きちんと歌えるけど」



:つまり、姉さんの歌はそれを狂わせると

:うん。実際歌えなくなった

:コヨミコちゃんの云う通り、音程が行方不明になる

:最初聞いた時はただ爆笑してただけなのに

:計算されつくした音程外し

:歌えなくなって凄ぇ混乱した

:まだ治んないだけど……



「まだ治んない奴は、私があの後にちゃんと歌ったのを聞いとけ。何度か聴けば……多分、治る。サイコちゃんは1時間くらいで治った。配信後、ずっと歌う羽目になったけど」


 コキリコ姉さんがそういうと、ミヤコ先輩の目が明らかに細まりました。アバターにも反映されて、コメントが賑やかになっています。


「姉さん」

「なに? ミヤコちゃん」

「多分、サイコ、姉さんの歌が聴きたいがために、治ってるのに治ってないと云ったのでは?」

「??? ……ああっ!!」



:姉さんwwww

:気付いてなかったのかwwww

:サイコちゃんだしなぁwwwww

:純真すぎる

:姉さん、普段の生活は大丈夫なのか?

:壺とか買わされてそう



「真相は分からないから、あとで聞いてみるよ。その上でサイコちゃんの云うことを信じることにするよ。あとさすがに壺とか富士山の絵とかは買わされたりしないよ。

 とりあえず、今回の検査はこんな感じだったよ。異常なし。で、通院も終了。食事と便秘に気をつければいいってことだけかな。まぁ、食事の方は、まだ腸が治ったばかりだからね。消化の悪いものとか刺激物を避けるように云われてるからね。あ、そうすると、超激辛の料理とかは明らかに体に悪いのかもしれないね。たまに食べるならともかく、頻繁に食べるのは止めた方がいいと思うよ」

「うちだと辛党はいませんから、ひとまず問題はありませんね」

「辛いものといっても、作るのはせいぜいカレーくらいだしね。それも中辛だし」

「サイコが結構、辛い物好きだった気がする。まぁ、姉さんの料理ならどんなものでも喜んで食べるだろうけど」

「まぁ、ほどほどに皆の好みを満たせるように頑張ってみるよ。目下の目標は、どうやってビタミンAを摂らせるかってことだから。なんでみんな野菜嫌いなのよ。あ、サプリメントは却下だよ。あれ、大半が排出されるみたいだから」

「「ビタミンA……」」

「サイコちゃんとミャーコちゃんが鳥目って知って、驚愕したからね。

 まぁ、それは置くとして。

 検査はそんな感じだったよ。みんなも不安があるならやっておくといいと思うよ。ということで、今日はここまで。

 ふたりとも、なにか告知とかある?」


 コキリコ姉さんが私たちにフリます。


 特に告知するようなことはありませんね。ミヤコ先輩もないみたいです。

 こうして本日の配信は終了。


 したかと思ったら、コキリコ姉さんは慌てたようにトイレへと駆けこんでいました。


「やっぱり辛かったみたいですねぇ」

「そうだね。つか、脱いでお腹が冷えたからじゃないの? まぁ、用を足すというより、ガスを出すって感じだろうけど」

「お腹、ポッコリしてましたしね」

「姉さんガリッガリだから、まるで飢餓でお腹が膨れてるみたいだよ」

「あー……お腹が膨らむんですよね」


 腹水が溜まるんでしたっけ?


「姉さんの目付け役ってことで寮生活になったけれど、私は願ったりだよ。食事に関しては好きなモノしか食べないから、相当偏ってたみたいでね。こないだの健康診断で栄養失調っていわれたよ」

「……見た目にはそうとは欠片も見えませんよ」

「うん。だから栄養が偏りすぎってことだよ。食事の改善を姉さんに丸投げできるから、私としては安心だね。……ついでに、姉さんに調理とか教えてもらおう。さすがに栄養失調になるのはマズい。体壊す」

「そうですね……」


 というか、ミヤコ先輩って、ある種のダメ人間ですよね。サイコちゃんに至ってはストイックが過ぎて、音楽以外の生活面がボロボロでしたし。


 まぁ、私も似たようなものなのですけど。食生活を注意されましたから。


 ……あれ? これって姉さんに負担がかかっていません?


 ま、まぁ、姉さんは姉さんで、自身のことをおろそかにしますから、そこを私たちが面倒をみるということで御相子ということにしましょう。



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