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内視鏡検査_1


「こんヨミです。高天原コヨミコです。今日はコキリコ姉さんの枠にお邪魔しています。進行役をやれと云われたのですが――」

「ねぇ、コヨミコ。なんで私が呼ばれてるの?」


 先輩がじっとりとした目で私を見てきます。


「先輩。挨拶が先ですよ」

「こんみゃあ。猫ノ島ミヤコだよー。で、なんで?」

「別人と紛うばかりに変わってしまったコキリコ姉さん相手に、私がまともに対処できるわけがないじゃないですか」

「……それなら私だけでよくない?」

「私だってコキリコ姉さんとコラボしたいです」

「姉さん、人気ですね」


 先輩がそういうと、コキリコ姉さんが困惑した表情を浮かべていました。


「どういうことなの? 本当、どういうことなの? さすがに云われ慣れた感がでてきて、このままじゃいけない、なんて思い始めてるんだけど。いや、自分の記憶が信用ならなくなってるのはもうさすがに自覚したけれどさ。というかコヨミコちゃん、一緒に寮で生活し始めてもう1週間以上経ったよね。それでもダメなの?

 あ、こんキリー。水無瀬コキリコだ。今日は内視鏡検査をしてきたから、その話をするよー」


 コキリコ姉さんが挨拶をしていますが――


「コキリコ姉さん、大丈夫ですか? なんだか苦しそうですけど」

「まぁ、大丈夫だよ。微妙にまだ苦しくはあるんだけどさ」

「そこまで検査は大変でしたか?」

「大変と云うか、辛い、苦しい、痛い、の3拍子?」


 私はミヤコ先輩と顔を見合わせました。


 なんとなく、あることが頭に思い浮かびましたが、口にすることはしません。私とてTPOくらいは弁えてはいるのです。


「とりあえず、どういう状況なのかはあとで話すよ。ついでに、あることに思い至って、とある……3人組だったかな? に殺意を覚えているよ。面識もなにもまったくないけどね。あんな連中、タヒればいいんだ」


 ね、姉さん!? なかなか攻撃的ですがなにがあったのですか?



:怒ってる

:姉さんが怒ってる

:この感じガチなやつだ

:そうなの?

:冷静そうだけど

:感情が乗ってるときは演技だからな

:棒読みのときはガチ



 さすが下っ端さんたち。コキリコ姉さんのことをよくわかっています。


「いや、聞けばみんなもわかると思うからね。実際に人がひとり亡くなってる事件の犯人共の話だからね」

「はい!?」

「いや、姉さん、なんの話です?」

「ん? あ、特に今日のこととは関係ないよ。ただ、いまの私の状態のことで、この事件の被害者の方のことを思い出しちゃってね」


 そこで姉さんは配信をミュートにし、まさに殺害予告じみた暴言をひとしきり吐きました。



:ミュート助からない

:ミュート助からない

:なんか凄い喋りまくってるみたいだけど

:なにを云ってるんだ?

:ミヤコちゃんとコヨミコちゃんが固まってるのが受ける

:相当ヤバいこと云ってそう

:昔の姉さんに戻った?

:昔の姉さんはミュートなんてしなかった

:ヤバさが増した!?



「ふぅ。みんなごめんね。ちょっと取り乱した」

「姉さん、それを聞かされた私たちはどうしろと?」

「それ以前に、苦しさだけを切々と訴えられましても……」

「何故こんなにも、まったく1ミリも知らない他人のことで激怒しているのかは、あとで話すよ。

 えっと、内視鏡検査についての話の前に、これを先に話すよ」



■保険■


「保険ですか?」

「そう。保険。コヨミコちゃんも【P・T】に所属した時に入ったよね」

「はい。強制というわけではありませんでしたが」

「うん。さすがは本店と懇意にしている保険会社だけあって、対応はしっかりしてるから安心だよ。というか、多分、アレが普通なんだと思う」

「……姉さん、もうすでに不穏なんですが、なにがありました?」

「私、保険関連は3社と契約しているんだよ。あ、ひとつは保険会社とはちょっと違うのかな」



:3社!?

:多い……のか?

:2社とかは普通にあるぞ

:そうなの

:会社関連と、あとは親類が保険屋だとつきあいではいる



「あ、リスナーさんにもいるね。そう。親のお友達に頼まれて入ったのがあるんだよ。ノルマ達成の為にね。

 事務所に所属して――えーっと、どうしよ。イニシャルでもちょっと不味いよね。……うん。Xで称しよう。XA社と契約。親のお友達の頼みでXB社と契約。あとは共済ね。県民のほう」

「共済はそのままいうんですね」

「共済ならいいでしょ。

 みんなに云っとく。共済には入っとけ。掛け捨てだけど、私みたいに突発的な病気の時には、保険会社のよりも便利だ」

「そんなに違うんですか?」


 珍しく推している姉さんに詳しく聞いてみましょう。


「今回のことで手続きをしたわけだけど、給付金が出されるまでがダントツで早いんだよ。それに共済は保険会社みたいに手続きが面倒じゃないんだ。はっきりいって、かなり助かる」

「そんなに違いますか」

「違う。まぁ、掛け金の額面が少額っていうのもあるけどね。ただ、保険会社みたいに、いろいろな保険がなくて、固定みたいなものだけどね。

 なんか持病とかあって、入院リスクが高い奴は入っとけ。お薦めだ」

「姉さんの口調がやたらと力強いですから、ガチですね、これ」

「いや、保険に関してはかなり不愉快な思いをしたんだよ。姐さんのところで申請書類とか手伝ってもらってやってたんだけれど、添付する書類が色々とあるんだよ」

「診断書とか入院証明とかですか? 前回云ってましたよね」

「うん。で、それらの書類に関しては、保険会社に問い合わせて、ものによっては役所から貰ってくるものもあるんだよ。

 XA社はすぐにできたんだけど、XB社が面倒臭くってさぁ」

「……なにがあったんですか? そういえば、少し前に解約するって騒いでましたね」

「いやさ、書類関連で問い合わせしたらさ、アレとコレとソレも送れって云われたのね。で、それらを役所から貰ってきて、不安だから確認の問い合わせをもう一度したら、さらに加えてアレとソレが足りないから貰って来いなんていうんだよ」

「「は?」」

「うん。私もふたりと同じ反応したよ。いや、それなら最初に問い合わせた時に云えよって。二度手間じゃん。

 で、それも貰って来たんだよ。XA社に比べてやたら提出書類が多いなと思ったし、それ以上に『なんでコレが必要なんだ?』って、首を傾げる書類もあったんだよ。で、再度問いあわせてたら、送付先の部署に電話を回されたのね」

「不穏なものしか感じないのですけど……」

「それらの書類はいらないって云われたよ」

「「は?」」

「そのいらない書類の中には有料のものもあったんだよ。ふざけんなよ。結構な額が飛んだんだぞ! それがまったくの無駄ってどういうことだよ!」


 ちょっ、姉さん、台パンは……。



:ひでぇ

:なんだそれ?

:詐欺じゃないの?

:この程度うっかりで済ませるんじゃね

:そんなのをコールセンターにおいとくなよ



「あー、なんか察してる人もいるみたいだけど、多分これ、ワザと」

「え、そうなんですか?」

「姉さん、根拠は?」

「とにかく申請するのに面倒なことをさせまくって、申請自体を辞めさせるため。いや、役所でもらう書類で、すごい面倒なのもあったんだよ。結構な額もするし。

 人によっては仕事とかで時間を取るのだって大変だし。そもそも病み上がりで体力自体がボロボロだからね。一分でも多く休みたいんだよ!

 だから入院給付金の額面が少ない人は、これだけ手間と金が掛かってこれくらいしか貰えないならもういいや、って申請自体を辞めるんじゃないかな」

「「えぇ……」」

「さすがに私もカチキレて騒いでたら、書類申請のお手伝いをしてくださった、姐さんのところの方がね、ちょっと教えてくれたんだよ」

「なにをです?」

「私たちが生まれた頃? それよりずっと前かな? XB社、保険金の支払いを踏み倒してたらしいよ。それで大問題になったらしいけれど、結局、企業の体質はいまも変わって無くて、保険の支払いなんてしたくないんだろうね。

 あ、これは完全に私の偏見だから。だから私の云うことは信用しないでね」

「あの、キリコ姉さん、最後のひとことは……」

「一応、云っておかないとヤバいでしょ? 実際、私の勝手な思い込みだし」



:意味ねぇ

:ヤバすぎだろ

:でもその事件覚えてる

:酷い……事件だったね……

:いや、ガチで酷いからな

:普通に詐欺だし



 コメントを見るに、知っている人もいるようです。でも大手の保険会社が評判を落としてまですることでしょうか?

 ちょっと気になるので、あとで調べてみましょう。


「それでさ、保険と云えば、最大ナンボ保険金がおりるとかなんとか宣伝してるじゃない」

「してますね」

「あれ嘘。いや、嘘じゃないな。でもミスリードを誘発させてると思う」

「どういうことですか?」

「最大って云ってるところ。実際はその額が降りることはないよ。まさか入院給付金を減額されるとは思わなかったよ。びっくりだ。XA社はほぼ額面通り降りたのに。とはいえあれこれあってXA社の方もこっちで計算したのよりちょっぴり減額されたけどね。でも許容範囲だ。理由も納得できたし」

「「えぇ……」」

「でも共済はそんなこともなく、ポンと契約通りの額を降ろしてくれるんだぜ! 助かるなんてもんじゃないよ。入院費払ったら生活費がカツカツなんてアルアルだろうしね。だからみんなも入っとけ。安心だから。……なんか私、回し者みたいになってんな」

「以前のキリコ姉さんが帰って来たみたいです」

「興奮すると地が出るのかな?」

「ぬ? あ、あー……」


 察したのか、キリコ姉さんは咳ばらいをすると、神妙な顔つきになりました。


「ん、んぅ。ごめん、取り乱したよ」

「……コキリコ姉さん、それって演技……猫を被ってるんですか?」


 思い切って私は訊いてみた。


「猫というかね……うん。猫、なのかな? いや、親から云われたんだよね。私の性格に加え、口調もあの有様だと敵しか作らないから、口調だけでも何とかしろって」


 私はミヤコ先輩と顔を見合わせました。


「え? それって面倒臭くない?」

「お、ミャーコちゃんも地がでてんねー。

 口調に関しては特に面倒でもないよ。あれだよ、状況に応じて丁寧に話すのと一緒だよ。

 と、話が脱線してるね。

 まぁ、保険に関してはこんな感じだったよ。……つか、普通に私の愚痴じゃないかこれ? ごめんねー、つまんない話しちゃって」


 いえ、姉さん。為になる話でした。これで自身の入っている保険に関して、見直そうと思う方もいると思います。



■内視鏡検査:事前準備■


「内視鏡検査をして来たわけだけど、そのための準備ってものが前々日からあるんだよ」

「キリコ姉さん、ここ数日はお豆腐しか食べてませんでしたからね」

「いや、ごはんと味噌汁も食べてたよ。具無しだけど」

「どういう食事制限だったんです?」


 ミヤコ先輩がキリコ姉さんに訊きました。


「えっとね。野菜類全般、野菜ジュースも粒の入っているものはNG。だからスムージーとかもダメ。海藻類全般、海苔とかもダメ。豆類全般NG、豆腐はOK。あとは……あ、乳製品もダメ」

「多いですね……」

「食事をどうしようか考えてる途中で面倒になって、なにを食べちゃダメなのかじゃなく、なにを食べていいのかって方向にしたよ。どうせ3日間のことだし。

 で、ごはんと具無しみそ汁と豆腐にした」

「サイコが姉さんにつきあって、豆腐しか食べてませんでしたね」

「止めようかと思ったけど、サイコちゃん、わずか1週間でちょっと太っちゃったから、丁度いいかと思って放置した」

「あれは幸せ太りというのでしょうか? キリコ姉さんの料理に執着しているようにも見えましたし」

「なんだかちょっと体質的に太りやすいみたいだし、私も鉄分大目の食事にしたいから、昔、妹の為に造ってたダイエット食を明日当たりからつくることにするよ」

「なにをつくるんです?」

「ひじきの煮つけ。市販のみたいに甘くないから、ミャーコちゃんでも安心して食べられるよ」

「ミヤコ先輩、甘ったるい味付けのおかずとか毛嫌いしていますからね」

「毛嫌いしてるわけじゃないよ。納得いかないだけ。甘いものはお菓子とかだって、なぜか私の頭の中で出来上がってるんだよ。例外が栗きんとんなだけで」



:あー

:あー

:わかる

:ウチの親父がそんな感じ

:納豆に砂糖を食べる俺は……

:納豆に佐藤

:え、なにそれ!?



 なんだか動揺しているリスナーがいますね。納豆に砂糖。以前に聞いたことはありますが、美味しいのでしょうか? 甘納豆とかありますけれど、あれは納豆に砂糖を加えたものではありませんしね。


「話を戻すよー。

 で、食事は前日の21時まで、以降は飲食厳禁。21時に事前用の下剤を服用、って流れだね。後は、当日の9時から時間をかけて、別の下剤を服用する感じ」

「その割には、夜にトイレにいったりしませんでしたね」

「1回か2回は行ったよ。前日夜の下剤は錠剤だったから楽だったんだけと、翌日のは液体のでね。地味に辛かった」

「なんだか太い500ミリペットボトルみたいなのでしたね」

「うん。液状のやつね。あれを水で薄めて服用するんだよ。1回で180CC。それを下剤が無くなるまで飲むんだよ。

 えーっと、だから総量で2リットル近く飲んだかな? 9時から飲み始めて、最初の1、2杯目は15分くらいかけてゆっくりと。そこで気分が悪くなったりしたら服用を中止するように注意書きがあったよ。

 で、その後はゆっくり無理なく飲んでいって、12時に飲み切る感じ。

 はっきりって、かなり辛かった。お腹がタポタポになるし」

「そういえば姉さん、顔をしかめてましたね」

「量がきつかったのもあるけど、それは11時を過ぎた頃からかな。でも一番辛かったのは味」

「不味かったんですか?」

「なんかね、甘みの強くなったスポーツドリンクみたいでね。ちょっと想像してみなよ。あのほんのりとした甘みが強烈になるんだよ」



:なんとなくわかる気がする

:薬みたいな感じになるのか?

:風邪薬のシロップみたいな

:それとは別じゃね?

:好きな人は好きそう



「まぁ、好みは別れると思うけどね。私も4、5杯目くらいには味に慣れたし。これはこういうものだって感じで飲んでたよ。

 で、下剤なんて飲めば出るモノが出るわけだよ。それをちゃんと記録しておくのね。

 便の状態を5種類記した写真のプリントされた用紙が渡されててね。それに照らし合わせて、どんな感じかを記載するんだよ。

 最低で10回。つまり10回は出してこいということだね」

「その、キリコ姉さん、大丈夫だったんですか?」

「大丈夫って、なにが?」

「お尻が」

「……」

「いや、コヨミコ、お前さ……」

「だって、気になるじゃないですか。お腹を酷く壊した時はお腹の痛みもそうですけど、お尻の方も大変なことになるんですよ」

「いや、ヨミコちゃんのいうことも分かるけどね。小学校の時に、トイレから2メートルと離れられないくらいの、お腹にくる酷い風邪をひいたことがあるからさ。

 で、その質問の答えだけど、大丈夫だったよ。考えると酷いことになってそうなものだけど、大丈夫だったってことは、あの下剤にはそういう効果もあるってことなのかな? まぁ、今後、大腸の内視鏡検査をする予定のある人は、そういったことを心配する必要はないと思うよ」



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