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入院生活_5 → 退院


■入院食■


「それじゃ、丁度こうして食事をしていることだし、入院中のごはんの話をしようか」

「そういえば、絶飲食はどのくらい続いたんですか?」

「まる6日。いやぁ、点滴って凄いね。まるっきり空腹も喉の渇きも感じなかったからね。えっと、血糖値で、脳が空腹か否かを感知するんだっけ?」

「そんなことを聞いたことがありますね」

「血糖値が下がると、脳がお腹減った信号をだす」


 普段のダウナーな雰囲気でサイコが云う。


 ――けど、そのとろけた顔はどうにかならんか。ときおりコメント欄に戸惑ったリスナーが現われるんだが。つか、サイコのアバターにそんな表情だせたんか。初めて知ったよ。


 現在画面には左に私、右に姉さん。その後ろにサイコという配置だ。


「ほうほう。なるほど。

 で、だ。入院食。私は絶飲食なんてしていたから、いきなり固形物、なんてわけにはいかないわけよ。それに、腸の方の具合も不明みたいなものだからね。

 つか、お休みしていた胃に急に固形物なんてぶちこんだら、腹痛でのたうち回るんじゃないかな」

「え、そんなことになるんですか?」

「なるんじゃない? まったく状況は違うけれど、起き抜けに冷えたコーラをぐいって飲むと、腹痛を泣くほど堪能できるよ」


 なにをやってるんですか姉さん。


「で、食事内容なんだけど、重湯と具無しの味噌汁」

「重湯って聞いたことはありますけど、どういう物なんです?」

「えっと、実際あれってなんなんだろ? おかゆから米粒を取り除いたもの? そんな感じのヤツだよ。あれだ、見た目は葛湯だよ。おいしくないけど。

 それが3日間続いて、その後は五分粥。最終的に全粥になったけれど、それで退院になったんだよね。

 だから食事はお粥と味噌汁。それにパックの牛乳とか野菜ジュースがついてたくらいだよ。全粥になったときには、ちゃんとおかずもあったけれど。

 味については、そんな食事だったから美味しい美味しくない以前の話だよ。一応重湯には塩のパック? あの焼売とかについてる辛子のパックみたいなのがついてたけど、たかが知れてる塩味だったね」

「ボクだったらそんなの耐えられない……」


 そういやサイコ、結構な食いしん坊だっけな。まぁ、そんだけボンキュッボンでタッパがあればなぁ。

 なんか二皿目に入ってるし。本当に幸せそうに食べてるな。


「それなら健康には気を遣おうね、サイコちゃん。……って、今回の私の場合は原因はさっぱり不明なんだけど」

「そういえば、病名ってなんだったんです?」

「下部消化器官出血……ってあったよ。保険の申請書類用に診断書とか入院証明書とかもらってきたからね。ただ、正式なところは、今度検査して分かるんじゃないかな。次の通院の時に、検査の日取りとか決めるから」


 となると、現状では確定の病名ってわけではないのか。



■入院生活■


「入院生活の流れを云ってなかったね」

「そういえばそうですね。どんな感じなんです?」

「一般病棟に移ってからの話をするね。HCUは、たぶん特殊だと思うから。

 朝、7時前後かな。その辺りに検査……っていうと大袈裟か。えっと、体温、血圧、脈拍、血中酸素濃度を計るんだよ」

「血中酸素濃度って、簡単に計れるものなの?」

「なんか、指先にホッチキスをデフォルメしたみたいなので挟んで計測できるみたいだよ。それで脈拍と一緒に計ってたね」

「血圧ってどうなってたんです? 運び込まれた直後は酷い有様だったみたいですけど」

「だいたい100前後かな。退院直前には、だいたい平常値くらいにまで回復したよ。

 で、それらの検査が終わると朝ごはん。

 まぁ、入院中の大半は私には無縁だったけれどね。

 それから看護士さんの夜勤と日勤の入れ替わりにともなって、担当看護士さんが挨拶に回ってきて、少ししたら主治医の先生の回診。

 そのあとはお昼まで暇。他の患者さんは、その間に検査とかやることはあったけれど。

 午後も基本暇。夜もそうだね。9時くらいには消灯だし。空いている時間はなにをしてたかっていうと、ずっと寝てたかな。あんまり退屈した記憶がないから、多分、ふつうに寝てたんだと思う。失血のせいか、体力がガタ落ちしてたからね。

 やってたことといえば、点滴の入れ替えがあったりとか、刺し替えがあったりとかかなぁ。あとはお風呂くらいだけど、これは毎日じゃないからね」

「私じゃ耐えられそうにないですね」

「ずっと眠っていたからこそ?」

「うーん……どうなんだろ。そもそも私って、ひとりでポケーっとしてても苦にならないからなぁ」



■一般病棟■


「13日目かな。HCUから一般病棟に移動になったんだよ。分かりやすくいうと、階が変わった。

 この一般病棟がなんというか、大変でねぇ」

「そうなんですか?」

「うん。なにせ患者さんがみんな元気だからね。いや、入院してて元気もなにもないだろって感じではあるんだけどさ」


 そういって姉さんが苦笑する。


 ……あの、なんだか不穏なものを感じたのは気のせいですか? いったい一般病棟でなにがあったんですか姉さん。


 微妙に目が死んでますけど。


「さて、一般病棟に移った訳なんだけれど、その真価が発揮されたのは夜なんだよ!」

「あの、姉さん、落ち着きましょうよ。なんか『ここからがクライマックスだ!』と云わんばかりに興奮してますけど。つか、やけっぱちになってません? たったそれだけの動きですっかり息切れしてるじゃないですか。病み上がりなんですから」


 薄い胸に右手を当て、机にしがみつくように左手をついて肩で息をする姉さんに、私はため息をついた。


 さっきも云ったしなぁ。これ。いや、だからサイコ、そんな目で私を見ないでよ。怖いから。


「サイコ」

「なんですか、先輩」

「姉さんがはしゃぎ過ぎて力尽きたら、寮まで運んでね」

「!!」


 目に見えてサイコの不機嫌そうな顔がご機嫌になった。


「お任せください!」

「いや、大丈夫だからね。そんな迷惑かけないから。自分で歩けるからね」

「「信用なりません」」


 私とサイコの言葉がハモった。


「ふたりとも酷いや。まぁ、いいよ。私が力尽きなきゃいいんだ。

 んで、夜だよ。

 病院の夜なんていうと、静かなイメージを持ってる人が多いと思う。主にホラゲとか映画なんかのせいで。

 でも実際は騒がしいんだよ」

「そうなんですか」


 そう問うと、姉さんは「うん」と答えた。


「心電図とか点滴の機械の呼び出し音とか、ナースコールとかがそこかしこで鳴るからね。ひっきりなし、ってわけじゃないけど。でも針が落ちた音も聞こえそう、なんて程には静かになることはないよ」

「フィクションなんてそんなもの」

「でもね、一番凄かったのはこれだな。

 夜に突然、ガンガンガンガンって、鉄柵を棒かなんかで叩くような音がけたたましく聞こえて来てさ、それに加えて『こんばんはーっ! こんばんはーっ! こんばんはーっ!』って、大声が外から聞こえてくるんだよ」

「うぇっ!?」

「ひぇっ!?」


 私とサイコが変な声をあげた。


「え、なんですかそれ?」

「患者さんが毎夜そうやって騒ぐらしいんだよ。しかも音の原因は、転落防止の柵を素手で殴っているって聞いてぞっとしたよ。

 一応、暴れるからって、手には怪我防止とか余計なことをしないようにミトンを付けられているって話だけど。でもあの音量で殴るなんてしたら、ミトンをつけてても骨折しそうなんだけれど。

 あと『こんばんはーっ!』って叫んでいるのは、多分私の聞き違いだと思う。ただ、実際にはなんて言っているのかは不明。窓越しに聞こえてきただけだからね。なんともいえないよ」


 私とサイコは顔を見合わせた。


「え、病院って魔窟ですか?」

「それは酷いんじゃないかな。でも、看護士さんたちは本当に大変なお仕事だなぁって、つくづく感じたよ」



■入院患者ですが、病室の空気が最悪です■


「私が入った病室は6人部屋で、左右に3・3でベッドがある部屋ね。で、私は入り口から入って右側の真ん中」

「突然病室の話をはじめたりして、どうしたんですか?」

「この並びが重要なんだよ。で、患者さんて、お年を召した方が大半なのね。私みたいなのは他にみなかったな。

 あ、30代くらいの男性は見かけたけど」

「小児病棟にでもいかないと――」

「サイコちゃん? どういうことかな?」


 サイコが顔を引き攣らせ――って、私に助けを求めるなよ。


「20代で入院している人は少ないんですかね」

「見かけなかったね。私くらい?」

「そういや、他の入院患者とは仲良くなったりとかしなかったんですか?」

「しないよ。基本的に私は人見知りで排他的な人間だからね。この見てくれだよ。その手の趣味のロクでもない輩に付きまとわれたりしたんだよ。だから基本的に他人とつきあいを広げることは、必要でもなければしないんだよ」

「【P・T】での活動は?」

(あね)さんに聞いてみるといいよ。私はスカウトされたんだけれど、その時の対応なんて塩対応どころじゃなく酷かったから」

「姐さん相手にでもですか? よくそんな度胸がありましたね」

「いや、哲ママがね……」

「あー……哲ママ、慣れないとちょっと怖い」


 哲ママ。即ち私たちのアバターを生み出したイラストレーターだ。本職は本店社長、姐さんの旦那さんの専属警護役(ボディガード)をしている。なんでそんな人がイラストレーターに抜擢されたのかが謎なんだけれど。それ以前に、そんな人がなんでプロ並の画力をもっているんだろ?


 この哲ママ。細マッチョのイケメンなんだけれど、いかんせん、人殺しとか殺し屋みたいな迫力の目力をしてるもんだから、大抵の人は顔を合わせると怖くて身が竦むんだ。


「まぁ、それはいまは関係ないよ。

 で、問題なのは私の両隣のお年寄りお二方」

「問題だったんですか?」

「うん。正確には左の人だけね。昼間は問題ないんだけど、なぜか夜になると騒ぎ出すんだよ。理不尽なことをほざいて」


 いや、理不尽って……。


「ここが病院、ってことが頭から飛ぶのかしらね? まぁ、それで騒ぐんだよ。でも、多少は病院、というか集団生活している場という感覚はあるみたいなんだよ。

 でもそんなことお構いなしに理不尽に我儘に騒ぐ騒ぐ。

 で、右隣の人が介護の関係で看護士さんをナースコールで呼んで、あれこれしてたのね。あ、これは理不尽でも何でもないよ。

 それで少しガタガタしてたんだけれど、終わった後、左隣の人がそのことでねちねち云いだして、右隣の人はそれを無視してたんだけれど、さすがにしつこ過ぎたこともあって、ボソっと云い返したんだよ」

「……その後の状況が目に見えるよう」


 サイコがぼそりと云った。


 うん。私にも目に見えるよ。


「ははは。私を挟んでの嫌味の云いあいだよ。やめてくれよ。間に挟まってるから、なんだか私が責められてる気分になるんだよ。私がなにか悪いことでもしたのかよ。悪意ある言葉は流れ弾でも突き刺さるんだよ。辛いんだよ。火事で住処がなくなったのだって、私が原因じゃないんだよ」



:うわぁ

:うわぁ

:草、って書こうとしたけど笑えねぇ

:これもう、迷惑どころじゃないだろ

:こういうのってどうなるんだ?

:暴れる人は拘束措置をとるってきいたけど

:そういや、拘束措置も同意書がいるんだよ

:えぇ……。それじゃ最悪、どうにもできないじゃん



「あぁ、知ってる人もいるね。うん。拘束措置って同意書がいるんだよ。まぁ、今回は言葉の応酬だから、拘束なんて意味ないんだけどさ。

 本当、間に挟まれた私はストレスが溜まる一方だよ。こんなんじゃまた下血しちゃうよ。

 まったくもって泣きたい気分でいたら、看護士さんたちがぞろぞろとやってきて、左隣の人を病室からどこかへ運び出した。もちろんベッドごと」



:出荷よー

:出荷よー

:まさに出荷ワロタ

:wwwwww

:どこに運ばれたんだ?



「どこに出荷されたのかは知らないよ。個室は空いていたみたいだから、そこに放り込んだのかな? いや、でも個室って勝手につかって大丈夫なのかな?

 まぁ、考えても分からないからそれはいいとして。

 その人がいなくなった後は平和になったんだけれどさ、どうにもなんていうの、すっごい気まずい雰囲気が病室内を覆ってるんだよ。

 なんか居たたまれない気持で私は寝る羽目になったよ。なんでだよ。私に平穏をくれよ。

 眠る時はさ、誰にも邪魔されずに自由で、なんというか救われてなきゃあダメなんだよ。独りで、静かで、暖かで……」


 ちょっ、姉さん、なんで急にネタをぶっ込んで来るんですか! コメントに草が生え散らかってますよ!



■そして退院へ■


「そんなこんなで、一般病棟に移ってからは、普通に生活してただけかな。点滴も一日に1回になったし。あ、鉄剤も含めれば2回になるのかな? でも同時に入れてたしなぁ」

「そのまま退院ですか?」

「うん。便通があって、下血がなければ退院って流れだね。

 2日目の下血以降に初めてでた便が、いわゆる軟便的なもの? いや、違うな。便器のそこに溜まるように砕けた感じの便がでたって感じ?

 その後、軟便→普通の便ってなったよ。そうしてやっと退院の許可がでたんだよ。退院の日を週明けすぐか、火曜にするか問われたから、迷わず月曜で、って云ったよ。

 あ、それとこんなことも云われたよ。便だけれど、暫くは真っ黒なものがでるから、って」

「真っ黒……」

「固まった血のせいなのかな? 本当に炭みたいな真っ黒なのがでるんだよ。あれはちょっとびっくりするよ」

「姉さん」

「なにかな、ミャーコちゃん」

「私に見せようとしないでくださいね」

「しないよっ! 私にそんな趣味はないよっ! 云ったよね!?」


 今度は、うがーっ! っと、両手を振り上げて私に抗議をして来た。


 だから、なんでそんな可愛らしい幼女ムーブ的なことをするんですか。その辺が私の知る姉さんとまるで違うんですよ!


「退院当日は荷物をまとめて、姐さんが迎えに来てくれるって話だったから、病室で待っていたよ。

 退院手続きは姐さんがしてくれたんだけれど、その間に食事指導を受けたよ。まだ病み上がりだから、食べるものの注意をされたよ。消化の悪いものは厳禁。少なくとも暫くの間は。例をあげると、牛蒡とかの繊維質の強い奴ね。

 あと水分を大目に取るように云われたよ。私、あんまり水分をとらないからなぁ。500ペットの水を消費必須で常時持ち歩くことにしたよ。1日の消費目標は2リットル。

 それと、先生からも最後の回診で云われたけど、今度下血したらすぐに病院に来るように云われたよ。早ければ、通院で済むみたいだよ。だからみんなも、もし下血するなんてことがあったら、安静にしてれば大丈夫なんて思わずにすぐに病院にいったほうがいいよ。

 最後に、入院に掛かった費用だけど、詳しくは云わないけれど、だいたい20万くらい。

 点滴治療だったから、多分、安く済んだんだと思う」

「それでも約2週間、えっと、16泊でその額ですか。安いんですかね?」

「実際の所はどうなんだろ? 食事代、点滴代、オムツ代と入ってるからねぇ」



:オムツ

:オムツ

:オムツ代

:そりゃ有料だよな



「なんでみんなオムツに反応するんだよ。いくらみんなが望んでも、新衣装でオムツは実装されないぞ」

「……大丈夫ですかね?」

「もし哲ママがそんな暴挙にでたら、アンナちゃんと一緒にぶっ飛ばす」

「なんでアンナちゃん……」

「姐さんのところに厄介になってる時に、意気投合した」


 リアル幼女のアンナちゃんに突撃されたら、さすがに哲ママのどうにもならないだろう。

 とりあえず、姉さんのアバターは安心と云うことか。


「スカートの下がオムツとかにされそう」

「やめておくれよ。やだよそんなの。さすがに哲ママの弱みを握るとかしたくないんだよ」

「地味に怖いこと云いますね、姉さん」

「私は私の幸せの為なら、他人を不幸にすることも厭わないぞ。ただし、不幸にする相手は選ぶ」

「選ぶんだ」

「当たり前だよサイコちゃん。私はサイコちゃんを不幸にして幸せになろうとか思わないからね」


 うわー……サイコ、あからさまにニッコニコになった。ほんとチョロいな、まぁ、姉さん相手だからだろうけど。

 というか、姉さん、分かっててやってるよね。


 じっと姉さんを見つめる。ジト目で。


 あ、目を逸らした。


 まぁ、サイコが幸せそうだからいいか。


「まぁ、私の入院生活はこんなところかな。基本、ベッドの上で点滴打ってただけだよ。

 で、これからやることといったら、保険の入院給付金の申請とかかな。

 あ、近いうちに日取りを決めて内視鏡検査を行うから、それの報告的な枠を取る予定だよ」

「次回の報告では、コヨミコが相手をしますから」

「あれ? まだ検査の日取りが決まっていないけど、ヨミコちゃんの予定は大丈夫なの?」

「ダメならその時は空いている誰かがご一緒しますよ。最悪、姐さんがコラボします。

 ……いや、姐さんだと、関係者なのに外部コラボになるんですよね、厳密に云うと。なんだこれ?」

「姐さん、かたくなに個人勢と云い張ってるしね」

「社長……」


 なんで個人勢にこだわってるんだろ? まぁ、いいや。


「それじゃ、快気祝いを読み上げて終わりましょうか」

「そうだね……って、快気祝いは私が出す方だって云ったよね。くそぅ、快気祝いASMRでもだすか」

「え?」

「え?」

「え? なんでふたりとも驚くのよ」

「だって姉さん、ASMRは恥ずかしすぎるから絶対嫌だって、逃げ回ってたじゃないですか!」

「『私のキャラじゃ無理だろ』って、云ってた」

「おぉぅ、こんな所にも記憶の齟齬が……。って、え? それじゃもしかして、私が前に出したアレとかアレとかないの!?

 ……うわ、マジだ。ないよ。え、どういうことだよ!?」

「姉さん、やっぱり――」

「――失血で脳が……」

「ちょっ、ふたりとも怖いこと云わないでよ。って、いや、本当に私の記憶はどうなってんだよ!?」

「えー、姉さんが混乱していますが、このままだと収拾がつかなくなるので、配信はここで終わりだよー。スパチャ読みは次回の冒頭にするよー。おつみゃあ!」

「おつしき。サイコでした」

「え、あ、おつきりー。え、え、え……」


 そして私はミュートにしてエンディングを流す。


 姉さんは私が知る姉さんとはちょっと変わってしまったけれど、本質的なところはなにも変わっていなくて安心した。


 いや、それよりも。もう2度と会えないんじゃないかと不安に思っていたことを払拭できたことが、なによりも嬉しい。


 私は頭を抱えている姉さんをにんまりと見つめたあと、彼女に抱き着いたのだ。





 いや、だからサイコ、その怖い笑顔はやめようか。いいじゃないか。私だって姉さんのことは好きなんだからさ!


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[気になる点] >※内容の大半は事実に基づくものですが  Vって所は語るのに都合が良いから用意した架空の者(達)として、体験談の内どこまでが本当の事で、どこまで(平行世界?にシフトした話)が創作なの…
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