初めての授業
女子寮の一室でリエートは手を合わせて神界との通信を繋ぐ。カーテンの隙間から光が差し込み、リエートを照らしていた。その姿は傍から見たら女神のようである。娘というだけあって、よく似ているのだ、女神スペルビアと。
(おはよう、リエ。元気そうね。)
(おはよう、お母様。)
(最近楽しそうね。人間界はやっぱり面白い?)
(うん、面白いよ!良い友達も出来たんだ。)
(そう、それは良かったわ。卒業までの時間、めいいっぱい楽しむのよ!)
(うん!ありがとう、お願い聞いてくれて。)
(どういたしまして…ほら、そろそろ準備しなきゃじゃない?遅刻しちゃうわよ。)
(あっ、ほんとだ。じゃあまたね、お母様!)
(はーい、またね!……ちゃんと楽しむのよ2人とも。この国での楽しい時間は、きっと、卒業までのことだから…)
お母様との会話を終えたリエは、急いで制服に着替えて食堂に向かう。
早く行かなきゃ、ご飯の時間がなくなっちゃう!…お母様、最後に何か言ってたけど、あれどういう意味なんだろう。
「授業始めるぞ。席つけー。」
先生の緩い呼びかけで席に着く。先生の言い方って緩い感じなんだけど、声の奥深くに覇気がこもってる感じがあるんだよね。
「いよいよ授業か。魔法学、どんな話だろうな。」
ニールが私たちにギリギリ聞こえる声で言う。私たち3人は並んで座っている。私とニールはソワソワしてるんだけど、アルは私たちのこと微笑ましそうに見てるんだよね…
「魔法の基本的な原理は知ってるよなー?じゃあ、アルフォール、答えろ。」
魔法の原理、か。空気中のいろんな属性の魔力を組み合わせて使うことで魔法は発生するんだよね。その組み合わせの属性が多ければ多いほど、魔法の威力は大きくなる。
例えば、全属性を組み合わせて魔法を発したら…まあ、国1つ滅ぶくらいかな?そんなことできる人はいないと思うけどね。自分が好かれてる属性の魔力しか使えないんだけど、大体の人が2属性にしか好かれていないから。多くて4属性が限界だろうなぁ…全部で10つあるんだけど。ま、そうなるように設定したのも私だけどね。
「はい、魔法はそれぞれが生まれつき持っている体内の魔力を使って発することが出来ます。1人1人が持つ魔力の属性は決まっており、通常2属性、宮廷魔法師ほどの実力を持つものは4属性を扱えます。それらを多く組み合わせると威力の強い魔法となります。」
…え?みんな体内の魔力使ってるの?道理で威力が弱いし、魔力切れっていうのが存在してる訳だ。空気中の魔力を使えば、魔力切れなんてありえないはずだし!
「完璧だな。」
全っ然、完璧じゃないよ?!
「ありがとうございます。」
うう、これが正しい知識として世の中に知れ渡ってるなんて…
「今日はこの属性の組み合わせについて教える。例えば………」
最初っから間違いだらけだった…それなのに、訂正出来ないなんてもどかしいぃ!
「落ち着け、リエ。間違って伝わってたってしょうがないだろ?『魔法』が出来てから何年経ったと思ってんだ。」
もどかしさに悶えていたリエにニールが言う。
「そうだけど、そうだけど…正しく伝わっていれば、もっと強い魔法が使えるはずなのに!私はこんな欠落品は作ってないよぅ!」
リエは涙目で叫ぶ。周りは変な目で見ているけど、おかしな人だとしか思われてないから…大丈夫だろう。
「まあまあ、午後は実技だろ?もしかしたら強い魔法使うやつもいるかもじゃん。Sクラス、なんだし。」
慰めるニールの言葉にリエは頷いた。強い魔法、使える人がいるといいな…
ちなみにアルは理事長に呼ばれたらしい。王子様は忙しいんだなあ…
午後の授業。実技用の訓練場は怪我が出来ないようになっている。攻撃を受けても傷つくのは自分のメンタルだけということだ。
最初の授業だから、とりあえず属性を確認するだけ、らしい。1人ずつ自分が出来る最大の魔法を的に放つ。みんな、悪くは無いけど、まだ強い魔法に出来るはずなのに…
「2人の最大の魔法、見るの楽しみだなあ。」
アルが声を弾ませながら言う。理事長のとこから帰ってきた時、少し顔が強ばっていたけど、今はいつも通りだ。
「俺はアルの魔法見る方が楽しみだけどな。」
ニールも楽しそうだ。あと、私たちが最大の魔法使ったら世界滅びると思うよ…
「私もアルの魔法見るの楽しみだなあ。アルは他の人より全然大きな魔力持ってるの、分かるし。」
それで空気中の魔力使えるようになったら、もっと強いんだけど…
「2人から楽しみだって言われるなんて光栄だな。…頑張ってくるよ。」
アルの順番が回ってきたようだ。
「頑張れー!」「頑張って!」
アルの属性は…火、水、木、光、かな?4属性なんて、楽しみだなあ。
「quadrupletornado!」
その声と同時に魔法が放たれる。この魔法は4属性が合わさって竜巻のようなものを作る。瞬く間に的は消え去った。…弱そうに聞こえるけど、どんなものでも壊せる強い魔法なんだよ。まあ、常に強い魔法を使おうとしても、場合によっては逆効果になるけどね。組み合わせ大事!
「さすがだな。バランスも取れていて良い出来だ。」
先生も感心している。…あれ、そういえばまだ先生の名前知らないや。
「ありがとうございます。光栄です。」
アル、あの先生の前では仮面つけてる感じなんだよね。笑顔のはずなのに、目の奥が笑ってない。
「あ、次俺の番だ。」
「全力出したらダメだよ?5割くらいで十分だから。全属性使えるのなんて私たちしかいないんだからね?」
他の人に聞こえないように、ニールに注意する。
「分かってるって。試験の時のお前みたいなヘマはしねーよ。」
「ちょっと、それもう忘れてって!あれは仕方なかったんだから。」
「無理だな、リエがヘマするなんて珍しいし、あんな面白い事ない。」
そう言って笑いながら歩いていくニール。
もう、忘れてって言ってるのに!
あ、アルが帰ってきた。
「おかえり、アル。凄かったね。」
「ただいま、ありがとう。次はニールの番だね。楽しみだよ。」
ニール…何属性使うかな。まあ3属性くらい、かな?
「triplearrow!」
3本の光る矢が的に刺さる。火と、雷と、闇。まあ、こんなもんだよね。
「……」
先生は何も言わない。何か見極めてる?
と、次私だ。行かないと…
「いってらっしゃい、リエ。頑張ってね。」
「ありがとう、行ってくるね!」
アルの透き通る声と微笑みを背に歩き出す。贅沢な応援だなあ…
そして的の前に立つ。うーん、どうしよう。何使うか…
あっ、そうだ。氷と風と光の属性を使って…
「lighticearrow!」
この魔法、綺麗だから好きなんだよね…
氷で作った矢を光らせて、風で緩やかに的まで運ぶ。なのに威力は凄まじい。
「綺麗…」
誰かがそう呟いた。綺麗だよね!わかる!
「お疲れ〜、相変わらず綺麗な魔法好きだよな。」
「女の子、だからね!」
「そうだね。リエ自身も綺麗だし、あの魔法を放つ姿は美しかったよ。みんな見とれたんじゃないかな?」
アルはさらっとそういうこと言えるから、さすがだよね。王子様だけが受ける教育みたいな感じなのか、天然ものなのか。
ともかく、いい感じに実技も終えられて良かった。楽しかったなあ。威力はどうであれ、それぞれ個性ある魔法だったし。
「これで今日の授業は終わりだ。お互いの属性や実力が分かったことだろう。…本気を出してない奴らもいたけどな。」
私とニールは一斉に目を逸らす。アルは隣で肩を震わせている。アル…笑い堪えてるけど、アルも多分本気出してないよね…?他の人は気づいてないようだけど、私たちは気づいてるよ。
「来週はAクラスと合同で実践訓練を行うから、4人でグループ組んどけ。Aクラスの奴と一緒でも良いぞ。…じゃあ今日はもう終わりだ。お疲れ。」
先生が緩〜くしめる。それにしても、実践訓練か。入学したばっかりだけど、まあ実践って大事だしね。
「グループどうする?誰と組もうか。」
「どうすっかなー?俺ら3人は確定だとして、あと1人か。」
「うーん、良い人いないかな…?」
私たちが頭を悩ませているところに、元気な声が入る。
「俺!俺入れて!」
「「ルベ!」」私とニールは声を合わせる。
「じゃあルベも入って4人、だね。」
ルベートの参加を反対する訳もなく、グループは決まった。
「よーし、来週の実践訓練、頑張ろう!」
『おー!』