入学式
「うわぁ…緊張するぅぅぅ!」
昨日も8時間しか寝れなかったし…
…私の平均睡眠時間は12時間だからねっ。
「落ち着けよ。合格発表の時は全く緊張してなかったんだし、今日も緊張する必要ないだろ。」
ニールが呆れたように言う。
「合格発表は合格が確実だと思ってたから緊張しなかったのよ!でも今日は同じクラスの人と会うでしょ?仲良くなれるかな…イジメられたら助けてね?!」
リエの口調は本気だ。
「誰がお前なんかイジメんだよ。そんな物好きいないって。」
「ひどいっ!ニールのばかぁぁ!」
「ニール、リエ、おはよう。」
どこからか上品な匂いと声が…
「おはよう、アル。いつも通りかっこいいね。」
「おはよ、アル。その匂いどうやって作ってんだ?」
2人の声が重なる。
「ふふっ…いきなりだね。匂いって別に普通に洗濯してるだけだと思うよ。それにリエは緊張してるの?かっこいいって言われるのは光栄だけどね。」
アルはいつも通り楽しそうだ。
でも…
「なんで緊張してるって分かったの?!」
「リエは素でかっこいいとか言わないでしょ?それに見るからに顔色悪いよ。」
だいぶ失礼なこと言われてない…?それに数日会っただけで理解されちゃう私って…
「うぅぅ、返す言葉もないよ…どうやったら緊張ほぐれるかな…」
「そういえば、遠い国の話なんだけど、その国では手に犬って書いて飲み込んで緊張をほぐすらしいよ。」
犬?なんで犬?犬は癒しを与える存在だからってこと?でも、それならなんで飲み込むの…
「不思議な方法だね…まあやるだけやってみよう!…あ、でも私ペン持ってない。書けないよ…」
「作ればいいだろ?そんための創世魔法じゃん。」
ニールが冷静に言う。珍し…
「確かに!よーし…出来た!これで書ける!」
そう言って書き始めようとするリエ…
「待って待って!創世魔法できるなんて初めて知ったし、驚きなんだけど…じゃなくて、書くって言うのはペンは使わないんだよ。」
「「え?」」
リエとニールはフリーズした。きっと頭の中では思考がフル回転していたことだろう…ペンを使わずにどうやって書くんだろう、と。そしてこうなったはず…
((うん。分からん。考えるのやーめたっ!))
「で、どうやって書けばいいの?」
「随分長い間考えてたみたいだけど、結局聞くんだね…」
笑いをこらえたアル…この人なんでまた笑ってんの…?相変わらずツボが分かんないなあ。
「分かんねーもん。ペンがなきゃ文字なんて書けないだろ?」
「まあ確かにね。だから想像で書くんだよ。手に指で書いてる振りをして、書かれたことを想像しながら飲み込む振りをするんだ。ほら、こうやって…」
そう言ってやってみせてくれる。なるほどね…
「まあ今の2人には必要なさそうだね。リエも顔色良くなってるし。」
「……っほんとだ!いつの間に…気づかなかった。」
「良かったじゃん。これでやっと入学式に行ける!」
ニールのテンション上がってきた?待たせてごめんね。
入学式を終えた私たちは教室に向かう。いよいよクラスメイトと会う時間だ…自己紹介、なんてのもあるんだよね。何言おうかな…
あれこれ考えているうちに、1つの立派な…壁?が見えてきた。壁には絵が掘られている。
あれ、これって…お母様?それに一緒にいる男の人って…
「あ、ここみたいだよ。」
「これってただの壁だよな…?」
「え、これ開けられるの?どうやって?」
今日はずっと頭の中にハテナがある。この世界のことは全部知ってると思ってたけど意外に分からないことだらけだ。
「これは魔力認証で開くんだよ。Sクラスの生徒の魔力が設定されててね、この機械に手をかざすと魔力を感じ取って中に入れるんだ。吸い込まれる感じ、かな?」
「「かっこいい!魔法学校って感じ!」」
目を輝かせる私たち…
そしてそれを見て楽しそうに笑うアル…
「じゃあ、さっそく入ろうか?」
「うん!」「おう!」
そうして私たち3人は壁の内側へ入った。教室内は生徒たちのお喋りでにぎやかだ。
「わぁ…楽しそう!」
リエートの弾んだ声で生徒たちが3人の姿に気付く。
シーン…
生徒たち全員がお喋りを止める。
(え、と、ど、どうしよう、ニール!)
(なんでいきなり黙るんだ?俺らなんかしたっけ?)
(何にもしてないよ…仲良くしたいのにピリピリしてて怖いよぉ)
(理由が分かんなきゃどうしようもねーな。とりあえず初対面では笑顔で挨拶すれば良いって母さんも言ってたぞ)
(笑顔で挨拶だね、せーのでいこう!)
目線だけで会話する私たち。双子の私たち2人にしか出来ない技だ。他の人じゃここまで正確に伝わらないでしょ。
せーのっ!
「「こんにちわー!!」」
2人の声がピッタリ重なる。その顔には人懐っこい笑顔を浮かべている。
「私たちはリエートと…」
「アヴニールで双子だ!これからよろしくな!」
「仲良くしてね!」
テンションの高すぎる挨拶に空気が冷える…
さらに居心地悪くなったんだけど?!
「ふ、ふふっ」
そんな空気を破ったのはもう何度も耳にした笑い声。
アル…今回ばかりは助かったよ、ありがとう。
そこにやってくる男子生徒が1人。ものすごく笑っている。ものすごく…
「お前らテンション高すぎだろ。筆記満点だっていうから、どんな奴かと思ったら、普通に面白いやつで安心したわ。」
…この世界の人たちって皆ツボが浅いのかな。
「そんな面白いことしたか?まあ、緊張が解けたんなら良いか…名前は?」
ニールが男子生徒に尋ねる。
「おぅ!俺はルベートだ!よろしくな、アヴニール、リエート。」
男子生徒もとい、ルベートは眩しいくらい輝いた笑顔を見せる。
「よろしくね!えっと、ルベートだから…ルベ君!」
あだ名を付けるのはいつもの事だ。その方が覚えやすいし!
「ルベ?初めてそんな呼び方されたなあ。でもいいな!かっけぇ!」
目を丸くしたルベートだったが、嬉しそうだ。
「じゃあ俺もルベって呼ぶな!俺らのことはニールとリエって呼んでくれ。」
「ニールとリエだな!…それと、後ろにいるのは王子殿下ですよね?確か…アルフォール様。」
ルベートは恐れ多いというように、おそるおそる声をかける。今までの口調と全く違う。これが王族と身分差が大きい人の『普通』なのかな?
「ああ、そうだよ。でも敬語はやめてくれるかな?学園では身分差はないことになってるしね。それと、この2人みたいにアルって呼んでくれると嬉しいな。」
アルフォールが微笑みながら言う。
アルの微笑みって少しお母様の微笑みと似てるんだよね。上品だからかな…
「分かった、悪かったな!じゃあ遠慮なくアルって呼ばせて貰うな!」
すぐに切り替えられるの凄いなあ。そういうのって結構好感持てるんだよね。
「あの…私ともお話してくださいません?」
「あっ、私もお話したいです!」「っ僕も…」
ルベを皮切りに他のクラスメイトも話しかけてくれた。順に公爵令嬢ミリア・男爵令嬢ティル・侯爵家次男フルムだそうだ。学園内では貴族階級がないからか、皆フレンドリーに話しかけてくれる。…緊張する必要なかったな。
ちなみに、Sクラスの生徒数は10人だ。選りすぐりの本当に優秀な生徒だけが入れる。でも、年に1度の試験で下クラスに落ちることもあるらしい。その場合、他の優秀な生徒が新しく入ってくる。
…私も頑張らなきゃ。やっぱりアルやニールと一緒のクラスがいいものね。
教卓が光ったかと思えば先生が来たようだ。転移魔法か。みんな驚きながら席に着いてるけど、何に驚いてるんだろう。
「…ああ、お前らか。規格外の能力を持ってるって噂になってんのは。」
私たちをじっと見つめながら先生が呟く。
噂って何…?私たち噂になってるの…?
思わずニールと目を合わせる。
「まあ、いいか…とりあえず出席取るぞ。今日はそれやったら終わりだから、さっさと帰れ。」
随分適当な先生だなあ。名前も教えてくれないし。
…っていうか、さっさと帰れって言われてもあと3人話してないクラスメイトがいるから話したいんだけど。
その時リエは視線を感じた。誰だろう…?なんか、怖いな。怒ってる気がする。私、何もしてないと思うんだけど…
ニールとアルと3人で寮までの道を歩く。結局、残りの3人とは話せなかったな。気づいたら、いなかったんだよね。まあ、時間はたくさんあるし大丈夫だよね!
「明日からいよいよ授業が始まるな!」
「ね!楽しみ〜」
どんなことを教わるのか全く分からないからドキドキする。新しいことを知れたらいいな…
「なんとなく、2人は魔法学とか歴史とか全部知ってそうだよね。」
アルが苦笑して呟く。そんなことないと思うけどなあ。
「まあ、リエは結構知ってるかもな!分からない時は教えてもらえばいいよ。」
「ニールまで…まあ分からない時はとりあえず聞いてみてよ。分かることもあるかもだし!助け合い、だよ!」
私たちがそう言うと、アルは嬉しそうに笑う。それを見て私たちも笑顔がこぼれる。
本当にいい友達に出会えたなあ。アルが幸せそうだと、私たちも嬉しいし…なんていうんだろ、守りたくなるタイプ?みたいな。卒業までにいっぱい思い出作ろう!