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王子達は敗北の旗を掲げる

作者: 二筒

これもまた、何となく書き上がってしまったものです……

勢いだけで書いたようなものですので、特に何かを期待されることなく、また細かいところは目をつぶって読んでいただけますと幸いです。

 「第17回!国家対抗親善試合!最終カードはシガー王国VSハイコーン公国!選手入場です!」


 ノリノリの司会者のアナウンスとともに、会場に2つのチームが姿を表した。対抗戦最後の1戦とあって司会者も気合を入れ直したのかテンションが高めである。


 「シガー王国からはリーダーのアーリー選手以下5名!シガー王国第一王子の登場だ!王様の許可は取られたのでしょうか!?チーム人数は枠いっぱいの5名です!」


 賓客席よりシガー王国の王がにこやかに手を振ると、観客席からは大きな声援が巻き起こる。王子が出場するに当たって王の許可を取らないわけがないのだが、おそらくは司会者の茶目っ気と賓客席に注目を集めるためだろう。


 「対するハイコーン公国からはリーダーのブラバー以下4名!どう見てもハイコーン公国第一王子ですが登録名はブラバー!実に堂々と偽名を名乗っておられます!1名少ないメンバーの意図はいったい何なのか!また、チームメイトのうち1名は覆面マントで年齢性別一切不明!一体誰を連れてきたというのでしょうか!ですがこれはレギュレーション違反でないことは事前に確認済みであります!」


 賓客席よりハイコーン公国の王が手を振り、再び観客席から大きな声援が巻き起こる。この大会では最低1名〜最大5名でチームを組むことが許されており、限度いっぱいの5名チームを組むことがスタンダードとされている。あえて1名減らしたのは新しい戦術ではないか、正体不明の覆面マントは何者なのか、観客の期待は高まるばかりである。


 「さあ!主審が舞台の中央に立ち両国の旗を高く掲げました!四隅の副審もそれにならい旗を掲げます。両チームが主審の前に整列し!礼!試合開始です!」


 両チームともゆっくりと、しかし相手チームから視線を切ることなく距離を取る。まだ両チームに動きは見られないが、これは先攻後攻がまだ決定していないためである。


 「フハハハ!」唐突にブラバーが高笑いを始めた。これはいわゆる将棋で言うところの振り駒、バスケットボールで言うところのジャンプボールであり、先行後攻を決定するための儀式のようなものだ。


 対するアーリーが「くっ!」と焦った表情を見せると、審判は一斉にシガー王国の旗を上げ、先攻はシガー王国に決定した。


 「おおっと!シガー王国チーム先攻です!ハイコーン公国チームは何を考えているのか!ただでさえ1名少ない不利な状況にも関わらず先攻を譲ってしまったー!」


 観客席からは歓声よりもざわめきが大きく聞こえてくる。明らかにブラバーには先攻を取る意思が見られなかったためである。「善は急げ、悪はゆっくり」とは過去の偉人の残した有名な言葉だが、ブラバーが善とも悪とも取れる曖昧な態度を示し、対するアーリーの態度で暫定的ではあるが比較的シガー王国チームが善寄りとみなされて先攻となったのだ。


 「さあ、まずは先攻シガー王国チーム!宰相御子息のチャーリー選手が前に出た!知的な眼鏡がトレードマークの18歳!対抗戦の年齢制限により今年が最後の出場です!はたして先手を取ったシガー王国チームの戦略とは!?」


 「ふぅむ、人数も有利、先攻も有利、だが見方によっては不確定ながら正義ポジを押し付けられたとも言える、か。ハイコーン公国はトリッキーな戦い方を好むからのう……」


 シガー王が隣に座るハイコーン王をちらりと見ると、ハイコーン王もそれに気づき、シガー王へと顔を寄せた。


 「愚息の考えることは私にもわかりませんが、おそらくはシガー王国チームの先手をスタンダード慢心フラグと読んでからの返し技狙いではないですかな。」


 「うむ。確かに初手スタンダード慢心フラグはほぼ間違いないじゃろうが、返し技からの逆転狙いでは人数の差を返せない。わしはそう考えておりますぞ。」


 そういいながらシガー王は首を傾げた。


 「さようですな。相手の初手を読んだところで人数差と後手を引いた不利を返せるとは思えません。」


 ハイコーン王も難しそうな顔をしている。


 そんな賓客席の思惑など知る由もなく、チャーリーは舞台の真ん中に立つと自チームの方に振り向いて大きな声を張り上げた。


 「この程度の相手!王子が出るまでもございません!私一人で十分でございす!」


 バババッと4人の副審がシガー王国の旗を上げる。主審は副審の旗を確かめた後、ゆっくりとシガー王国の旗を上げた。シガー王国チームの先制点である。


 「決まった!スタンダード慢心フラグ!実にオーソドックス!実に王道!チャーリー選手の見事な先制です!光るメガネ!不敵な笑顔!相手への目線を切るどころか背まで向けて、自分が負けるなどと微塵も予想していない見事な負けフラグです!シガー王国チーム1HP(敗北ポイント)先取ーーー!」


 観客席から大きな声援が巻き起こる中、ブラバーはゆっくりと舞台の中央に歩み始めた。シガー王国のターンが終了しハイコーン公国のターンである。


 ブラバーはシガー王国チームを見つめたまま声を張り上げた。


 「貴様らは下がっておれ!」


 「しかし!」と畳み掛けるように声を上げてブラバーに駆け寄ろうとしたのはハイコーン公国の騎士見習いのデイリーである。ブラバーはデイリーを一瞥することなく手で制した。


 「貴様らでは相手にならんと言っているのだ!」


 副審たちが一斉にハイコーン公国の旗を上げ、それを確認した主審もハイコーン公国の旗を上げた。ハイコーン公国も1HP獲得である。


 「まずいですなあ。チャーリー殿は1手で1HPを取ったというのに、愚息は2人で3手もかけておる。それにしても初手から警戒心MAX強キャラ撤退フラグとは……戦略を間違えておるではなかろうな?」


 盛り上がる観客席をよそにハイコーン王は腑に落ちない、といった表情である。


 「確かに。チャーリーのスタンダード慢心フラグは完成度こそ高かったものの、わしの予想ではハイコーン公国チームが背後からの不意打ち失敗で返して互いに1HPとなるかと思っておったのじゃが……返そうにも返せなかったということじゃろうか?」


 二人の王はそろって首を傾げたままだ。現状では先手有利も人数差もさして影響しない試合展開となっており、互いに1HPずつ取っただけの平凡な試合運びである。選手の技の冴えと司会者のテンションによって場内は盛り上がっているものの、いわゆる通好みの展開ではない。


 「さあ!再びシガー王国のターン!前に出るのはエリー選手だ!宮廷魔導師を祖父に持つ若き錬金術師の卵です!おっと!?カバンから何かを取り出した!これは!?調合セットだー!まさかの錬金術!史上類を見ない展開です!トリッキーな戦術はハイコーン公国だけのものではない!そう言いたげな表情のアーリー選手!信頼の眼差しでエリー選手を見つめておられます!」


 舞台の上ではエリー選手が「えっと……これと、これよ!」と、もたつきながらカバンから複数の試験管を取り出して、その中に封じられた液体をビーカーに注ぎ混ぜ合わせ始めた。


 「おおっと!液体が混ざり白煙が上がっているが大丈夫なのか!?そこに取り出したのは?これはギャンブルキノコだー!錬金素材の中でも特に爆発しやすいポンコツ素材として知名度ナンバーワンのキノコです。錬金術の指南書にもソテーにして食べたほうがよっぽど有益と書かれていると噂の一品を!投げ込んだー!エリー選手ためらうことなくビーカーに投げ込んだ!危なーい!」 


 ぽんっ!と可愛い音とともにビーカーから大きめの白煙があがったがそれだけである。

 ビーカーからの爆発を警戒していたのかハイコーン公国チームは動く素振りを見せぬまま、副審がシガー王国の旗を上げ、それを確認した主審がシガー王国の旗を上げた。


 「ちょ、ちょっと失敗したみたいねっ!今日はこの辺にしておいてあげるわっ!」


 エリー選手は捨て台詞を残すとビーカーを片手に自陣へと戻っていった。


 「ううむ。ドジっ子失敗フラグですか。通常なら安全面を考慮して召喚士がやるものですがなんと思い切ったことを……しかも爆発によるフラグ成立後でもしっかりと捨て台詞、残心を忘れぬ良い選手ですなあ。それに恐るべき錬金の技の冴えです。ギャンブルキノコを使ってあれほど小規模の爆発に抑えるとは……」


 ハイコーン王は渋い顔で2−1となったスコアを眺めているが、その表情はどこか楽しげでもある。


 「ほっほっほ。あのキノコを使ってビーカーを割らぬ者は我が国でも数えるほどしかおりませんからのう。将来が楽しみじゃて。」


 「それにしても愚息め、あからさまな失敗を深読みしすぎて動けなんだとは情けない。キノコを見た時点で完成阻止からのキノコ爆発オチに繋げられたであろうに。」


 シガー王はニコニコしながらエリー選手を褒め、ハイコーン王は息子の状況判断の甘さを指摘して渋い顔をしているものの、両者ともに腑に落ちないといった感情が隠せないようである。ハイコーン公国チームはあえて割り込まないのではないか?シガー王国チームはいずれもソロでポイントを稼いでおり、ハイコーン公国チームに数の利を封じられているのではないか?そんな疑念を抱きながらも王たちは再び舞台に注目した。


 「さあ!お互いに堅実にポイントを重ねている両チームですが、シガー王国が2HP!あと1HPでシガー王国チームの勝ちとなる大事な局面です!ハイコーン公国チームは返し技に警戒しつつもここで確実にポイントを取らなくてはなりません!」


 お互いに返し技のないままポイントが2-1まで進んでしまい、観客席からも若干のざわめきが聞こえてくるようになってしまったためか、司会は盛り上げようと声を張り上げる。


 「ここからはハイコーン公国ターンです!次に登場する選手は……え?」


 司会が戸惑うのも無理はない、舞台の中央に進み出たのはハイコーン公国チームの4人の選手全員である。そのまま魔道士風の男を先頭に、デイリーと覆面マント、その後ろにブラバーが立っている。


 「ここで勝負をかけに来たか!」


 思わずハイコーン王が身を乗り出す。ハイコーン公国チームは相手の返しを利用して一気に2ポイント稼ぐつもりでは?と予想した観客は大いに盛り上がり、観客席からは大きな声援がいくつも上がった。


 「これのフォーメーションは一体なんでしょうか!フードで顔が見えにくいですが、先頭に立つのはフィラー選手!平民出身でありながら国家推薦枠で魔術大国メーバラーに留学していた経歴を持つ天才魔術師です!」


 フィラーはおもむろにフードを脱ぐとゆっくりと呪文を唱え始めた。手に持った杖がほのかに光り、舞台の上に崩れた人形(ひとがた)を作り上げる。


 「これはフィラー選手の得意な土魔法です!しかしなぜ崩れているのか!?ゴーレムを呼び出すかと見せかけてすでに崩れているぞ!審判に動きはありません!魔術失敗フラグや召喚失敗フラグのような決定的な動きはまだないようです!」


 フィラーは司会者の解説を気にすることなく、シガー王国チームを指差し声を張り上げる。


 「なかなか対した腕ではないか!だがしかし!貴様らが倒したこいつは四天王でも最弱!所詮は意思を持っただけの土塊よ!」


 副審が一斉にハイコーン公国の旗を上げた。


 「これはっ!4人チームでまさかの5人目を演出しての四天王一人目敗北からの撤退フラグ成立ーーー!主審がハイコーン公国の旗を上げます。これで2-2の、おっと?」


 主審が旗をあげようとした瞬間であった。とっさにアーリーが舞台中央に飛び込み膝をつくとハイコーン公国チームを見上げて叫ぶ。


 「ばかな!あれほど苦戦した相手が四天王最弱だと!?」


 残りのチームメンバーも畳み掛けるようにアーリー選手の近くに倒れ伏し、舞台の上はさながら死力を尽くした決戦直後のようである。


 副審4名がシガー王国の旗も上げ、主審もまたハイコーン公国の旗を上げきってからシガー王国の旗を上げた。


 「シガー王国チームの割り込みはフラグ成立!正義ポジ強敵勝利からの力不足フラグだー!ここに来てシガー王国チームは正義ポジ、ハイコーン公国チームは悪役ポジを確立したか!?ポイントは3-2です!ここでハイコーン公国チームが返せなければシガー王国チームの勝利が決定します!」


 「ううむ、四天王フォーメーションは四天王+αの5人チームで行うという先入観にしてやられたのう……思えば開幕からの強者ムーブはこの伏線じゃったか……しかし……」


 3-2の同点に持ち込まれたシガー王はハイコーン公国チームのメンバーが不敵な笑みを浮かべていることに気がついたようだ。


 「ええ、愚息はまだ何かを狙っていますね。」


 ハイコーン王も舞台から目が離せない。


 更に返しを狙うハイコーン公国チームは素早くフォーメーションを変更し、覆面マントが前に出る。


 「久しいな愚弟よ!」


 そう叫びながら覆面とマントを一気に取り去ると、そこにはアーリーによく似た女性が立っていた。シガー王国第一王女、アーリーの姉のガリアであった。


 「今の貴様らでは我々に傷一つつけることはかなわぬ!姉を取り返したくばせいぜい力をつけることだな!」


 と、ブラバーが畳み掛ける。鮮やかな返し技の応酬に会場のボルテージは最高潮である。


 「なんとなんとなんとー!覆面マントの正体はハイコーン公国に留学中のシガー王国第一王女ガリア様だー!これは、生き別れの姉が敵として登場する演出でしょうか!ハイコーン公国チームは圧倒的戦力を見せながらも相手を見逃して撤退フラグ!!数あるフラグの中でも非常に珍しい変則的なイベントフラグです!これは成立するのでしょうか!?副審がハイコーン公国の旗を再度掲げます!」


 「なんと!あのじゃじゃ馬め、せっかく対抗戦で賓客席を用意したというのに、わしに顔を見せに来ないと思ったらあのようなことを……」


 「ううむ……司会の言っていたレギュレーション違反ではないとはこのことでしたか。それにしても愚息め思い切ったことを……」


 両国の王は全く予想していなかった展開にあっけにとられてぽかんとしてしまった。対抗戦のレギュレーションによれば、他国のチームに参加するには非常に厳しい制限が設けられている。ただ単に他国に住んでいるだけでは許可されない。これが許可されるケースは主に婚姻により他国に嫁いだ場合の他に、その国で爵位を持つ、留学して3年以上経過しているなど、いずれもすぐには満たすことができない条件ばかりである。


 シガー王国チームとしても全く予想していなかったであろう展開に、アーリーはあっけにとられて硬直してしまった。その間にも主審はゆっくりとハイコーン公国の旗を上げていく。とっさに動けたのはシガー王国チームの騎士候補生ハリーであった。


 「へ、へへっ、なんだ女じゃないか!これなら俺でも勝てそうだぜ!」


 「よさぬか!」


 ハリーの返し技が不成立に終わると確信し焦ったアーリーは中断させようと思わずハリーを突き飛ばしてしまった。それを見た副審1名はシガー王国の旗を真横に突き出した。ペナルティである。


 「おおっと!これはどうしたことでしょうか!ハリー選手の返し技は不成立!それに加えて副審1名がシガー王国チームのペナルティを宣言しています!主審が副審を呼び寄せます!審議!審議です!」


 「はて、ハイコーン王よ。今のペナルティはなんじゃろうか?」


 「ううむ……正直わかりませんな。ですが、アーリー王子の行動が返し技の中断のためのフレンドリーファイアではない何かとして認識された可能性が高いかと。」


 「ふーむ……確かに……お、主審がマイクを用意しましたのう。解説が入るとは珍しいことじゃ。」


 舞台の中央に立った主審はゆっくりとシガー王国の旗を横に突き出してペナリティを宣言しつつマイクに向かって話し始めた。


 「えー、只今の判定及び本試合の結果について解説いたします。」


 場内は水を打ったように静まり返り、司会者も口を挟むことなく主審を見つめている。


 「改めて返し技の評価順からご説明させていただきます。本対抗戦ではスタック制ではなくキューイング制を採用し、先に発生したフラグから順に最後のフラグまでを全て評価いたします。ガリア選手登場により3-3の同点となったところまでは、会場の皆様もご認識のことと思いますので割愛いたします。」


 主審は一度言葉を切るとゆっくりと場内を見渡した。


 「さて、その後に続いたハリー選手のフラグですが、こちらはスタンダード慢心フラグ又はチンピラ死亡フラグに該当いたします。この直前の時点でハイコーン公国チームは悪役ポジを確立しており、自動的にシガー王チームは正義ポジが適用されたことにより、スタンダード慢心フラグが優先的に採用されるはずでしたが、このフラグは初手のチャーリー選手との重複により却下されフラグ不成立となりました。従って、悪役ポジであるチンピラ死亡フラグが採用されましたが、ポジの不一致により自動的に却下となりました。」


 おそらく観客の多くはここまでの解説を予想していたのであろう、静まり返った会場の中で主審は1つ大きく息を吸うと解説の続きを話し始めた。


 「続いてのアーリー選手の行動ですが、ハリー選手のフラグ不成立が確定した後の行動であったためフレンドリーファイアには間に合っておりません。従ってアーリー選手の行動もまたフラグ行為と判定され、ハリー選手からアーリー選手への一連の流れはフラグ2連のコンボ扱いとなります。シガー王国は正義ポジではありますが、ハリー選手のチンピラ死亡フラグからのコンボとなるため、アーリー選手の行動は悪役ポジの雑魚味方見せしめ排除フラグに該当し不成立となりました。」


 「ううむ……ペナルティなどどこにも発生しておらぬではないか……あのペナルティは一体何だというのじゃ?」


 「愚息の一貫した強者ムーブからの四天王フォーメーション、その立ち位置、その後の姉弟対決……これはまさか、幻となった第4回大会で登場したという伝説の魔王ムーブでは?だとすれば私達でも把握しきれてないルールブック内に何らかのペナルティの記載がある?」


 ハイコーン王が信じられないといった表情のまま呻くように考察を口にすると、シガー王は驚愕のあまり大きく目を見開いた。


 「確かに!魔王ムーブは勇者ムーブと並ぶ難解な秘匿ムーブじゃ!ルールブック上に名前こそ記載があるもののその詳細の多くは不明とされ、幾多のページに断片的に記された内容からは、試合のルールそのものに影響を与えると推測されると聞いておりますぞ!御子息はそこまで読み切っておられたか!」


 ハイコーン王は、興奮した様子のシガー王に対して、気まずそうに頭をかきながら苦笑いをした。


 「うーん、愚息のことですからそこまでルールブックを読み込むとは思えませんなあ……どちらかというと、たまたまガリア王女をスカウトできて、面白そうな戦術を思いついたから勝ち負けを気にせずやってみたかったという可能性のほうが高いでしょうな。」


 「なるほど、確かに両チームともよく分からん、といった表情ですのう。たまたま魔王ムーブが成立し、両チームともにそれと気づかぬままアーリーが何らかのルール違反をした、か。奥が深いのう……」


 「ええ、全くです。ただ、開幕からの不可解な展開はガリア王女登場のための下準備と思えば納得ですな……それにしても愚息め、なぜお前が一番ぽかんとしておるのだ、リーダーだろうに……」


 王達だけでなく、観客もまた様々な考察を話し合い会場がざわめきに包まれた。主審は説明を続けるべく2、3度咳払いをすると解説の続きを語り始めた。


 「さて、通常ルールではコンボは3連が上限と定められておりますが、ガリア王女登場の近辺でハイコーン公国チームのブラバー選手が魔王ムーブを成立させたことによりコンボ規制が発動しておりました。なお、魔王ムーブは秘匿ムーブに該当いたします。そのためルールブックに記載がある、とだけお伝えさせていただき、その詳細な説明は行いません。悪しからずご了承ください。」


 審判は申し訳無さそうに、観客席に向かって頭を下げると解説を再開する。


 「このコンボ規制は、魔王は3回行動の原則に準拠し魔王ムーブを成立させたブラバー選手以外の両チームの全てのメンバーを対象として発動いたします。そのため、アーリー選手のフラグ2連のコンボはルール違反によるペナルティとなりシガー王国チームは1HP減点となり、結果、2-3でハイコーン公国チームの勝利が確定いたしました。判定及び本試合の結果につきましては以上となります。ご清聴ありがとうございました。」


 舞台の上で主審と副審が深々と頭を下げると、場内は割れんばかりの歓声に包まれた。


 「まさかの秘匿ムーブ炸裂!ハイコーン公国チームはどこまで計算していたのでしょうか!?両チームが主審の前に整列し、互いに握手を交わします!対抗戦に錬金術という新しい風を吹かせたシガー王国チーム!伝説の魔王ムーブを成立させたハイコーン公国チーム!最終カードにふさわしい非常に見ごたえのある名勝負でした!これにて本対抗戦の全ての対戦が終了いたしました!この後、およそ30分後より閉会式となります!」


 司会の声を聞きながら両チームは王子を先頭に舞台を後にする。勝った者も負けた者も、活躍した者もそうでない者も、彼らは皆、顔を上げて胸を張り出口へと歩を進める。きっと彼らの胸の中には風が吹いているのだ。そしてその風は、いつの日か大いなる(フラグ)をあの空へとはためかせるのだろう。

お読みくださいまして、誠にありがとうございます。

いずれまた、自分でもよく分からない何かが書き上がるかも知れませんし、次はもう少しストーリー性のあるものが書けるかも知れません。

またお目にかかれますようがんばります。


両チームの人名は、なんとなくアルファベットのAから順に付けました。(←は、ひょっとしてそうかな?と思った方への答え合わせとして記載しました。名前に統一性がなく、登場人物を把握しにくかったらすみませんです。)

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