私、「聖女」ではなくてよ!?
何やかんやのハプニングで、一時騒然としていたパーティ会場だが、青年が外へ連れ出されたことで、ようやく落ち着きを取り戻した。
「さて、と……。婚約破棄、でしたわよね……」
「あ、ああ……」
王子は何が何だか分からないと言った様子で、アンナの顔をじっと見つめる。それもそのはず、いきなりアンナと青年が戦闘を始め、騎士団長が殺されかけていたことを知ったのだ。状況の整理が追いつかないのも、無理はない。
「いや、その前に……。ヴェイン騎士団長の命を救ってくれたこと、心から感謝する」
「おーっほっほっ! あの程度のこと、造作もありませんわ!」
高笑いするアンナだったが、胸の内では深いため息をついていた。――ああ、何だか疲れましたわ……。死に戻りって、随分と体力を使いますわね……。
「お待ちください!!」
――そのとき、王子とアンナの間に割って入ったのは、例のカヌーレ・ベルだった。真剣な表情で王子を見ると、彼女は深々と頭を下げる。
「申し訳ございません! 無礼な私をお許しください!」
何だなんだと、会場は一斉にざわつく。アンナも目を丸くしながら、「あのカヌーレが、頭を下げていますわ!」と驚いた。
「私の告発は、一部……、いや、大半が嘘でしたの! 『お気に入りのドレスで拭き掃除をさせられた』という事実や、『公衆の面前で幼い頃に書いた恥ずかしい詩を読まされた』という事実は、一切ございません!」
――本当に、嘘ばっかりですわね……。アンナは内心呆れながらも、素直に告白をしたカヌーレを見て、思わず不思議な気持ちになった。
「カヌーレ・ベル。それは、本当か?」
「はい! 本当に、申し訳ございません!」
ヴェイン騎士団長も、王子に対して深く跪いた。彼にとっては、アンナは命の恩人だった。
「申し上げます、王子。どうか、アンナ様との婚約破棄を、もう一度お考え直しください。このお方は、私の命の恩人であり、カヌーレ様の嘘を許してくださりました。まさに、このお方は聖女です」
――いやいや、「聖女」ではなくて、「悪役令嬢」ですわよ! アンナは小さくツッコンだ。
「そうですぞ、王子! 婚約破棄は早計です!」
「ぜひとも、聖女様とご結婚を!」
「スライディング聖女、バンザーイ!」
……会場の雰囲気は、完全に、「婚約破棄反対」の流れになった。王子も「うぬぬ」と腕を組み、アンナの顔をじっと見た。