名探偵、「私」ですわ!!
「――アンナ・スコット! 君との婚約は、この場をもって破棄させてもらう!」
――いやいや、それどころではありませんわ!
アンナは心臓をバクバクさせながら、先ほど起こったことを回想していた。彼女は確かに、死に戻った。祝いの食事に混ぜられた、即効性の毒によって……!
「全く、君には失望したよ! 君は素晴らしい女性だと、信じていたのに!」
――何者かが、何者かを殺そうとしていまして……? 第一王子の催した、このパーティ会場で……?
「おい、アンナ。黙ってないで、何とか言ったらどうなんだ?」
「そうですわ! この悪女!」
――ああん、もう!! 考え事の真っ最中なんですから、ちょっと黙っていて下さる!?
アンナは思わずイライラして、格闘家のような鋭いキックを、会場の端にいたカヌーレにかましてしまった。……この件に関しては、嬢は全くのとばっちりだった。
――とにかく、このままでは埒が明きませんわ! 先ほどのテーブルまで行って、真相を確かめなくては!
裾の長いドレスを翻して、アンナはさっさとテーブルに向かう。そこは名の知れた騎士たちが集う、賑やかな席だった。
「ちょっと、そこのあなた。お隣、よろしくて?」
「はっ、はい!」
ヴェイン騎士団長を押しのけて、フルーツの盛りつられた器を覗き込む。
――私が食べたのは、このフルーツでしたわね。ヴェインの目の前にある、このフルーツ……。あら?
「あなた、ちょっとお聞きしますけれど、このフルーツがお好きなんですの?」
「ええ、まぁ……。これを食べると、故郷を思い出すんです」
ヴェインの取り皿には、同じフルーツの切れ端が載っている。見たところ、彼はこのフルーツしか食べていないようだ。
「この自然の甘みと、滑らかな舌触り……。毎日食べても飽きませんね」
そう言いながら彼は、おそらく毒入りであろうフルーツに手を伸ばす。――その瞬間、アンナはバッと周囲を見回した。不審な影が、彼女の視界に入ったのだ。
「ちょっと、そこのあなた!! コソコソしていらっしゃるけれど、何かやましいことでもおありですの!?」
……アンナがビシッと指差す先には、黒づくめの格好をした、謎の青年がいた。隠れたフード越しに見えるのは、妖しい緑の瞳だけ……。